第10話 宝回収
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「これよ! これが夏休みよ!」
両手に串肉を持ったネリーが、満面の笑みで叫ぶ。
現在、イザヴェルの領主屋敷の庭で大バーベキュー会が行われている。
人数が多いので、お隣の代官屋敷の庭まで借りて。
イザヴェルでは飛ばしても海まで半日以上かかるので、せっかくだから移動はゆっくりにして道中も楽しむことにしたのだ。
イザヴェルで一泊して、明日の朝から宝探しの予定となっている。
「去年の夏休みはスラムの手伝いと修行だけで潰れたからね」
オレは去年のことを思い出しながら話す。
ネリーは夏休みをとても楽しみにしていたが、スラムを救うために夏休み全てを使い切ったのだった。
それにしても、この串肉うめぇな…。
ダンジョン・イザヴェルで一番うまい魔物の肉という噂に間違いはなかったらしい。
「ワシ、海というのは初めて見るんじゃが!」
今回はスルティアも一緒だ。
すごく行きたそうだったので、やや強引に連れ出した。
大勢の学園関係者にその姿を見られることになるが、支配者であることをバラすわけではないし、仮に怪しまれても特に問題はない。
知っても何もできないからだ。
「イザヴェルの上から眺めただけなんだけど、凄かったよ!」
アレクがスルティアに海を見た感想を伝える。
そういや最初にイザヴェルをスルトまで移動したときに、アレクとネリーが騒いでたな。
「あたちは行ったことあるの! お前らに海を教えてやるの!」
海に行ったことがあるベイラが、皆に海自慢を始めた。
「せっかくだから泳ごうぜ」
「「「「泳ぐ!?」」」」
オレがその場のノリで言ったことは、全員を驚愕させたらしい。
そういや、この世界の海は魔物がいるんだったね。
「君達は賑やかだな」
「ミカエル」
皆でわいわい騒いでいると、こちらにやってきたミカエルが話しかけてきた。
「ほとんど全校生徒が集まってしまったが、良かったのか?」
「ん? どういうこと?」
何か問題でもあっただろうか?
オレはミカエルの意図が分からず、聞き返す。
「君達だけの力でも目的は達成できたのではないか? それを、全員で山分けなどと…」
ミカエルは若干困惑気味に話した。
「ああ。そういうことか。いいんだよ、楽しめれば。仲間もそれで納得してるし」
「あたち達は面白さ優先なの!」
オレがミカエルの言葉に納得して返事をすると、ベイラも身を乗り出すようにしてそれに続いた。
「ま、金も大事だけどな。別のことで稼ぐから心配すんな」
オレはニヤッと笑って補足する。
今回も、上手くいけば別のことで稼げるだろう。
「そうか。やはり普通ではないな、君達は。それよりワトスン、君が戦争で使ったという青い炎についてだが…」
ミカエルは感心したように頷いたが、その後に始まった炎の話についての熱量は、どう考えてもこっちが本題だったんだなと思わせるものだった。
「セイ! あなた、相変わらず面白いことを考えるわね!」
ミカエルが炎の話に満足して去っていくと、今度はエレーナ先輩達が入れ替わるようにして現れた。
おそらく話すタイミングを伺っていたのだろう。
「エレーナ先輩。クーン先輩と、ノーリー教頭も。引率ありがとうございます」
オレはキャスパー・ノーリー教頭に対してお礼を言った。
さすがに学生だけで大規模なイベントはやり辛かったので、教師による引率は必ず欲しいと思っていたからだ。
「いえいえ。むしろ、教師も無制限に参加を許可してくれてありがとうございます。争奪戦になりそうな雰囲気だったのですよ」
ノーリー教頭は落ち着いた微笑みを浮かべて話す。
「センセーはね、研究費欲しさに参加してるのよ」
「ちょっ。エレーナ君、それは言わないで下さいよ…」
ニヤッと笑って余計なことを言ったエレーナ先輩のせいで、ノーリー教頭は眼鏡がズレるほど動揺した。
もう。と言いながら眼鏡をかけ直している。
「それで、宝というのはどんなものなんだ? 今回も儲けさせてくれるんだろ?」
エレーナ先輩にイジられているノーリー教頭を横目で眺めながら、クーン先輩が話を変えてきた。
クーン商会は学校の購買や浮遊大陸貿易などでかなり儲けてるからな。
オレに関わると儲かるというイメージがあるのかもしれない。
「無茶言わないで下さいよ。400人近くで山分けですよ。大した額にはなりません。でも、確実ではないですが、クーン先輩なら儲けられるかもしれませんね」
「ほう。それは良いことを聞いた! よく覚えておこう!」
オレは曖昧な答えを返したが、クーン先輩はそれで納得したらしくニヤリと笑った。
「オリバー、私の『最善手』はセイの近くにいると良いと示しているわ」
エレーナ先輩がクーン先輩の横に立ち、口角を上げてアドバイスをしている。
「エレーナ先輩のスキルが…。そうですか、それは良かった」
オレは新しい情報に対する感想を漏らす。
『今の情報を加味すると、"起こる可能性が高い"を"ほぼ間違いなく起こる"と修正いたします』
やっぱ、そういうことだよな。
オレはアカシャからの報告を聞いて、ほくそ笑んだ。
「やっているね」
最後に現れたのはミロシュ殿下だった。
ミロシュ殿下は、学園生が楽しそうにバーベキューをしている姿を見回して、満足そうに頷いている。
「ミロシュ殿下、イザヴェルのみならず庭まで貸していただき、ありがとうございます」
跪こうとすると止められたので、簡易的な礼をして感謝を述べた。
「いいんだ。私は君に感謝している。母は王宮よりここに移ってからというもの、とても生き生きとしている」
ミロシュ殿下は嬉しさを噛みしめるように言った。
むしろオレからすると、どうして今まで王宮から離れるという選択肢をとらなかったんだと言いたいところだけどね。
王族のしがらみで、何かそれっぽい理由がないと実現しないことだったということは理解している。
「そうですか。私が配慮したわけではありませんが、それは良いことでございました」
実際、イザヴェルの代官を決めたのは王だし、母親である第3王妃を連れ出すことに決めたのはミロシュ殿下自身だ。
「どうあれ、君が関わり始めてから、私の人生は明らかに好転し始めている。また何か私に出来ることがあれば、遠慮なく言ってほしい」
ミロシュ殿下は優しく笑って去っていった。
裏があるのかないのかは分からないけど、そういうことなら遠慮なく、利用したいときに利用させてもらおうかな。
翌日、ギルド前広場に集まったオレは皆に説明を始める。
昨日は昼間にバーベキューをやった後、夕方前くらいから希望者を集めて、ちょっとダンジョン攻略とかやったりもしたんだけど、その疲れで遅れて来る者などは誰もいなかった。
「簡単に言うと、"浮遊"を使えるメンバーはオレ達に付いてきてもらって、他のメンバーは飛空艇で後から付いてきてもらうってこと」
最後に簡単にまとめる。
飛空艇の運転手に詳しいことは伝えてあるから、これだけ分かってれば問題ない。
「先輩、はいッス!」
シェルビーが挙手をしたので、どうぞと促す。
「下…、全部海ッスけど…。ボク達は飛空艇から飛び降りるんスか?」
そうか。シェルビーは浮遊大陸の端まで行って、下を見てきたんだな。
飛空艇でギリギリまで降りていって、そこから飛び降りることを想像したか。
「大丈夫。ちゃんと着陸するよ。安心して乗るといい。あとは、見れば分かる」
オレはニヤリと笑って答えた。
「どうするつもりだ?」
浮遊大陸から"浮遊"持ち全員で飛び立ち、目的の海上まで来ると、今度はミカエルが質問をしてきた。
「またまた。分かってるんだろ? オレやミカエルくらい魔力があれば、楽勝だって」
オレ達だけじゃなく、今ならアレクもネリーもベイラもできる。
「炎だけでは、維持が厳しい…」
ミカエルは悔しそうに言った。
もったいない。魔法の出力だけなら、オレ達の中でも最強なのに。
「はは。意地張らずに炎以外も使えばいいのに。まぁ、ナドル家のそのスタイルは好きだけどね」
オレは軽口を叩きながら"水纏"を使う。
そして、右手を眼下の海に向かって突き出して"限定"した上で"宣誓"をする。
「"大渦"」
オレが魔法を使うと、海に巨大な渦が現れ、さらに広がっていく。
やがて肉眼でも海底が見えてきて、その面積もどんどん広がっていく。
海が巨大なお椀型にくりぬかれたようだ。
『これぐらいの広さがあれば十分でしょう。飛空艇も余裕をもって降りられます』
アカシャからオッケーが出たので、瞬時に"水纏"を変形させて"氷纏"にする。
「"銀世界"」
前もって練習しておいた学園長の得意技を使うと、眼下の海が広範囲に渡って凍りついた。
水纏で作った大渦も、その形のまま凍りついている。
ミカエルが維持はできないって言ってたのは、こういうことだな。
炎だけだとずっと蒸発させ続けないといけないから、魔力が足りないってことだろう。
その点、氷なら簡単だ。
一度凍らせれば、魔力の供給を続けなくても、しばらくは持つ。
「さあ、行こうか」
オレは皆に声をかけた。
宝探しの始まりだ。
いや、もう探してあるな…。
宝回収の始まりだ。




