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異世界のヤツらに情報を制するものが世界を制するって教えてやんよ!  作者: 新開コウ
第2章 学園の支配者

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第106話 それぞれの最善

 評定ひょうじょう2日目。


 私はヤニクとカロリナ他数名の護衛を従え、円卓の席に着いた。


 私の行動に会議室がざわめく。


 ここは父上の席であり、普段私は護衛と同じように後ろに立つ立場にあるからだ。


 しかし何人か、驚きや戸惑とまどいとは違う種類の表情の者がいるな。

 この者達はスルトの調略ちょうりゃくを受けていると考えておくべきだろう。



「スタン、ラウルはどうした? なぜお前がその席に着く?」



 王が私にたずねる。

 さすがに他の者とは違い、表情に感情が出ることを抑えておられるようだ。


 整えられた口髭くちひげたくわえる王の表情は、いたって冷静に見える。



「父上…いえ、ラウル・バウティスタは謀反むほん画策かくさくしておりましたので、幽閉ゆうへいいたしました」


「そうか…。ラウルが…」



 王は私の言葉に対してそれだけ発し、目を閉じた。


 王がどのようにお考えか私には分からないが、驚きはないように見える。

 王は私以上に父上のことをよくご存知ぞんじだ。

 そういうこともあるやもしれぬと思っていた可能性もある。


 私は多少の寂しさを感じつつ、円卓のメンバーを見回した。



「王、そして諸侯しょこうの皆様方。提案がございます。ヘニルの権力をあるべきところに戻し、これまで以上の繁栄をもたらすため、どうかお聞きください」



 生涯で最も真剣に、言葉の全てに我が全霊を込めてゆっくりと話す。


 私は不退転ふたいてんの決意をしてここに来た。


 王や諸侯がこの話を聞いてどう反応するかは分からぬ。


 スルトに調略された者達は聞いていた話と違うと思うだろう。


 結果、斬られたとしても仕方のないことだ。


 だが、勝算はある。

 説得してみせる。


 この世界の誰よりもヘニルのことを考えたのは私だ。

 誰よりもヘニルのことを思っているのは私だ。


 ヘニルに住まうものならば、きっと私が血の涙を流す思いで考えた現実的な理想に感じるものがあると信じている。


 私はつばを飲み込み、王の言葉を待つ。



「聞こう。この状況から、そんな都合のいい話があるというのならな」



 王はやや前のめりになって両肘りょうひじを円卓に立て、胸の前に両手を組んで真剣な顔で私を見た。


 王が、権力をあるべきところに戻すという話でわずかに反応したのを感じた。

 だが、それはを捨ててじつを取っていただけるならばだ。


 他にも理由はあるだろうが、これが難しいと感じたからスルトは私を王にと考えたのだろう。


 違う。違うぞ。断じて違う。

 それではスルトが楽なだけだ。


 ヘニルにとって、そしてスルトにとっても最善は私が考える理想であるはずだ。


 この提案で最も大変なことは、王の説得だろう。

 だが、必ず成功させてみせる。


 そして、必ず理想を実現させてみせる。


 戦争に負けても、国は無くなっても、絶対にヘニルの繁栄だけはあきらめんぞ。






 ----------------------------------------------






 国境砦の戦いから12日、スタン達がヘニル王都に着いてから7日がった。


 その間、スルト軍は撤退するヘニル軍の殿しんがり(調略済み)と茶番を繰り返しつつ進軍し、途中でそれを吸収してヘニル王都前に辿たどり着いた。


 進軍中に立ち寄った、自国の軍に荒らされた村や町では手厚い援助を行い、また捕虜をどんどん解放して、そのうわさがよく流れるよう情報操作している。


 そのおかげか、ヘニル王都のすぐ側にスルトの飛空艇船団がせまっても、それに合わせるようにヘニル王都が降伏の意思を示す白旗を上げても、ヘニルの民達には思ったほどの混乱は無かった。

 さすがに不安はあるようだけど。



「これが降伏の条件か。よくヘニル王がこの条件を認めたとも言えるが、よくこの条件が通ると思ったとも言えるな」



 ヘニル王都前に展開されたスルト軍の本陣の天幕で、地面にひざまずこうべれるスタンに、椅子いすに座ったままのズベレフ将軍が言った。


 ズベレフ将軍は読み終わった降伏文書を、隣に座るエレーナ先輩に渡す。


 その文章では、そもそもことの発端となったヘニル軍のスルトへの進行は全てラウル・バウティスタに責任があることになっており、ヘニルはその支配から解放され感謝しているとまでぶち上げられている。


 これは文章には書かれていないが、スタンはすでに家の者全てをヘニル王にゆだねていて、バウティスタ家を取り潰すつもりでいる。

 あいつなりの責任のとり方と、覚悟なのだろう。


 エレーナ先輩が文章を読んでいる間に、スタンはズベレフ将軍にこの条件での降伏のメリットを語った。



「間違いなくスルトにも、先日のお話以上の利があることをお約束いたします。より迅速じんそく円滑えんかつな統治が可能となるでしょう」



 スタンが考えた案は、簡単に言うとヘニル国を()()()()()()()()スルトに併合するというものだ。


 オレ達が考えた案とは、スタンが領主となるかヘニル王が領主となるかの違いだと言えるかもしれない。


 ただ、その詳細をさらにめて来ている。


 例えば、元ヘニル領の税は、立地りっちや領主の入れ替えなどで直接スルトにおさめた方が円滑な場合を除いて、今まで通り元ヘニル王都へ集めてからまとめてスルトに送ることなどがある。


 これにはスルトにとってメリットもデメリットもある。


 メリットは、統治のためスルトから送る人員が少なくて済み、ほとんど既存のシステムを使うので混乱も少なく円滑に進められることなど。


 デメリットは…。



「確かに上手く行けば統治はしやすいわ。でも、反乱も起こしやすいんじゃないの?」



 文章を読み終わったエレーナ先輩が言う。


 そうだな。それが1番大きなデメリットだと思う。

 ヘニルの自治を認めて、上納金をもらうことに限りなく近い形だからな。

 直接スルトが統治する形より反乱は起こしやすいだろう。


 でも、この形はヘニル併合後にオレ達が提案しようと思っていたものに非常に近い。


 反乱は起こさせなければいいというのが、オレ達の考えだ。



殿下でんか。反乱を起こす力など残っておりません。起こしたところで簡単に鎮圧ちんあつされるだけなのは今回の戦争で身にみております」



 スタンはへりくだってエレーナ先輩に言う。



「今はそうだろう。だが、いつかそうなるかもしれん」



 ズベレフ将軍がもっともな話をする。


 ただ、現状ではスタンどころか王も、反乱の意思を少なくとも表には一切出していないこともオレは知っている。


 だから少し助け舟を出すことにした。

 元々、オレ達がスタンをたきつけたところから始まってる話だしね。

 責任は取るよ。



「とはいえ、スルトは歴史上、領土の拡大と縮小を繰り返してきました。その大半は反乱ではなく、さらに外側の国に奪われたことにあることは皆さんご存知でしょう」



 天幕の横の方で控えるように立っていたオレはそう言って、にこりと笑った。


 さらに言えば、原因は四方を隣国に囲まれるスルトが統治にあまり人員をけないことにある。

 ここにいる人間は言わなくてもそれくらい分かっているだろうけど。ネリーを除いて。



「うむ。それは確かに、そうだな」



 ズベレフ将軍がうなずく。


 以前に東の隣国であったベルジュを併合した彼が、誰よりも統治とその土地を守ることの両立が大変なことを知っている。



「そう考えると、意外と悪くない案なのではないでしょうか?」



 オレは引き続きにこやかな顔でそう言って、エレーナ先輩を見る。

 さっき反対っぽい意見を言っていたけど、アカシャの意見と一致しているのであれば、完璧な最善ではないにしろ十分にスルトにとっても良い案なはずだ。



「ふうん。まぁ、いいわ。どちらにせよ、これはこの場で決められることではないもの。スルト王の決定を待ちなさい。それから、ヘニル王とあなた、それから他にも何人かは"契約"で縛られることを覚悟しておきなさい」



 エレーナ先輩の話し方からして、どうやら何かと比べた結果、スタンの案は最善ではなかったようだ。


 ただ、契約魔法の話を出すということは、エレーナ先輩も前向きに考えているということだろう。



「はっ。何卒なにとぞよろしくお願いいたします」



 スタンもまた、エレーナ先輩の言葉を前向きだととらえたのだろう。

 ひざまずいたまま、さらに頭を地面に付くほどに下げた。





 スタンが帰り、さっそく残る軍や帰る軍の編成、ヘニルから連れて行く人員の選定などに忙しくなる本陣。


 その中で、オレはエレーナ先輩に気になっていたことを聞いてみた。



「エレーナ先輩、さっき何が『最善』だと出ていたんですか?」



 オレだけでなく、アレクやネリーも気になっていたらしい。

 興味ありげにエレーナ先輩に目を向ける。

 ベイラだけがネリーの頭の上であくびをしていた。


 そんなオレ達を見て、エレーナ先輩はふふっと笑う。



「私の『最善手(スキル)』は、あなたが統治するのが最善だとしめしていたわ」



 エレーナ先輩はオレを見て、おかしそうにそう言って去っていった。

 アレクとネリーが、なぁんだという顔をする。



『ご主人様とエレーナ・ティエム・スルトで考える最善が違ったのですね。上手く統治することだけを考えれば、当然ご主人様が最善となります』



 アカシャが満足そうに語る。

 いや、それオレが凄いんじゃなくて、君が凄いだけだからね。



「そんなことだろうと思ったの」



 ベイラがネリーの頭の上に寝そべりながら、ボソッと言った。

 いや、どこで寝てんだよお前。






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