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異世界のヤツらに情報を制するものが世界を制するって教えてやんよ!  作者: 新開コウ
第2章 学園の支配者

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第101話 初見殺し

「青い、炎?」



 オレのまとっている炎の色がオレンジから青に変わったのを見て、スタンが怪訝けげんそうにつぶやいた。


 オレはそんなスタンに向けて意味ありげなみを浮かべておく。


 動揺どうようしろ動揺しろ。

 魔法はイメージ。心理状態での威力の増減は十分に有り得る。



「気をつけろ、スタン様。ただ色が変わっただけじゃねぇようだ。明らかな力の上昇を感じる…」



『弐天』ヤニク・イスナーはオレをじっと注視したまま、スタンに視線を向けずに注意をうながす。


 その通り。この青い炎はさっきまでの炎よりも、温度も魔法としての威力も高い。




 先日、オレは唐突とうとつに中学の理科の授業を思い出した。


 ガスバーナーの炎は、青い炎の方がオレンジの炎よりも温度が高いというものだ。


 理由としては、炎が青くなるのは完全燃焼しているときだからというものだったと記憶している。


 その時、オレはふとひらめいた。


 魔法の炎も、完全燃焼をイメージすれば、より温度が高くなるのではと。


 試してみた結果、完全燃焼をイメージした青い炎は、普通にイメージしたオレンジの炎よりも威力が高くなることが分かった。


 とはいえ、余分に魔力を使うのだけど。

 オレンジの炎で同じだけ威力を高めるよりも消費魔力が低いので、全力で火魔法を使う時には実用的という判断をした。


 まぁ、実は後からアカシャに、魔法の炎には完全燃焼も不完全燃焼も関係ないと言われたんだけど。

 威力が上がったのは、単純にオレの魔法のイメージりょくの違いに過ぎないらしい。

 イメージの違いで威力が上がることはよくあるので、結果が出るまでは勘違いを正さないでいてくれたそうだ。


 よく考えれば、そういう法則があるのならアカシャが最初から教えてくれていたはずだった。

 オレは少し恥ずかしい思いをしつつも、新たな力を手に入れたのだった。



「どうした? かかって来ないのか? 来ないならこっちから行くぞ」



 見たことがない炎纏に警戒している2人を挑発するような言葉をかけ、右手をすっと前に出す。


 オレの動作を"限定"だと思ったのだろう、『弐天』とスタンが弾かれたように空を縦横無尽に駆け始める。


 なんてね。オレからすぐには攻撃しないけど。


 オレも浮遊魔法と足場の魔法を組み合わせながら、的を絞らせないよう空中を高速で駆け回り始めた。


 一般兵の防御魔道具という盾があり、味方への誤射のおそれもある地上と違って、この空中での戦闘は魔法使いが闘技場で行うような高速戦闘がセオリーだ。



『アカシャ。アレク達、バビブ3兄弟、それから右翼と左翼の様子はどうだ?』



 オレは空を高速で駆けながら、襲ってくる『弐天』が空に浮かべた無数の水の剣や、スタンが作り出した不可視の風の刃を対処しつつ、アカシャに状況をたずねた。


 尋ねながら、こちらも牽制けんせいの火球を放つ。



『バビブ3兄弟は目標達成率9割ほど。首尾しゅび上々(じょうじょう)と思われます。右翼と左翼は予測よりかなり早く敵を押し返し始めました。『最適解』の影響が大きいようです。アレク達は危なげなく戦闘継続中。そう時間をかけずに勝利するでしょう』



 アカシャがオレの質問に一息ひといきで答える。

 だいぶ速い。でも何とか聞き取れた。


 思った以上に進行が早いな。

 もうそろそろ時間稼ぎの必要もないくらいのようだ。



「無数の剣を出していながら、同時に完全制御できるのは5本くらいでしょうか。師匠に攻撃が雑だと言われませんでしたか?」



 オレは次々と水の剣を飛ばしてくる『弐天』に向かって、挑発をかける。

 怒って一気に決めにきてくれるのが最も理想的だ。


 ちなみに、『弐天』が師匠から魔法が得意だからといって雑に使ってはいけないと注意されたことがあるのは知っている。

 師匠は魔法込みでこそ『弐天』より弱かったが、剣の腕はかなり上だった。



「ちっ。台詞せりふまで師匠そっくりかよ。だが、そりゃ挑発か動揺を誘ってるか、どっちかだろう? わざわざ言う意味がねぇ」



『弐天』は挑発には乗ってこなかった。

 なるほど。言われてみればその通りだ。


 やはり何もかも思い通りとはいかないものだな。


 ある程度の長期戦も覚悟するか。





「なぜだ! なぜヤツには風の刃が見えているっ!?」



 スタンが高速移動を続けながら、我慢ならないといった様子で叫んだ。


 先程から"宣誓"も"限定"も使っていない風の刃を使ったり、"限定"と見せかけて別方向から当てにきたりと工夫してたからな。


 不可視と言っていい風の刃が、明らかに見えているかのように避けられたり、火球でかき消されたりしていることに疑問を感じることは無理もない。


 それに、オレの魔力が彼らの想定と違って全く切れる様子がないのもれている原因だろう。


 彼らは知らないだろうけれど、このまま戦っていたら先に魔力が切れるのは彼らの方だ。

 最初から、この戦いに使うのに十分な魔力は残していたのだから。



「分からんっ! だが確実に探知されている! 威力を重視して、分かっていても当てる工夫をしろっ!」


「無茶を言う!」



 スタンの叫びに『弐天』は答えたが、内容は気合で何とかしろと言うのとたいして違わないものだった。

 スタンはそれに対して悪態あくたいをつく。


 スタンはオレが撃った火球に向けて両手をかざし、多重に張った防御魔法で防ぐ。

 その後すぐにその両手を胸の前で球状の物を持つような形に"限定"の構えをとり、裂帛れっぱくの気合を入れて"宣誓"した。



「はあああぁぁぁっっ!! "旋風檻せんぷうかんっ"!」



 鎌鼬かまいたちが吹き荒れる、球状の風のおり


 オレの魔力の影響を受けずに発生させられるギリギリ、オレから半径3メートルほどの場所全てに鎌鼬かまいたちを発生させやがった。


 浮遊魔法で急ブレーキをかけ、かつ目の前に足場の魔法を出して横向きに着地することで檻に突っ込むのを避ける。


 完全に球状になっている。

 回避は不可能だ。


 さすがに驚いた。

 スタンはいきなり練れるだけの全魔力を使ってこの状況を作り出したのだ。


 スタンはさらにできるだけの魔力を練りながら、風の檻の半径を縮めていく。

 スタンが胸の前に構える両手は、見えない玉を握り潰すように力が込められ、顔には玉のような汗が吹き出ている。


 切り札を使っているから分かる。

 あいつ、この魔法で全魔力を使う気だ。

 まさか今までの流れから、いきなりここまでしてくるとは思わなかった。

 もはや、後のことは一切考えていないらしい。



「くっ。仕方ねぇ、よくやった! ここで終わらせる!!」



『弐天』はスタンが後のない攻撃をしてしまったことに一瞬だけ悔しさをにじませたが、すぐに割り切ってスタンをめた。


 彼も、こうでもしないとらちかないと思い始めていたのかもしれない。


 オレがスタンの魔法に閉じ込められ足を止めたこの一瞬のすきをついて、彼も空中で立ち止まった。


『弐天』は納刀のうとうし、こちらへ向け、やや前かがみに居合の構えをとる。


 スタンの風の檻がちぢみ切るまで、彼の練度なら十分に魔力を練れる時間がある。


 構え、練っている魔力量、身体情報の全てが合致がっちする。

 ()()()が来る。



「その余裕(づら)ゆがめてやる…。ふーっ…。"極閃ごくせん"!!」



『弐天』は目をつむり、息を整え、目を見開いて"宣誓"した。


 特大のウォーターカッター。飛ぶ斬撃"一閃いっせん"が『弐天』の抜刀した刀から放たれる。


 そして、ほぼ同規模の一閃が、()()()()()()()()()オレに向かって放たれた。


 先程まで周りを飛んでいた『弐天』の水の剣が形を変え、彼をした水人形に変わっていた。

 その水人形は『弐天』と全く同じ動作で水の刀を振り抜いていて、その全てから"一閃"が放たれたのだ。


『弐天』の神に愛された能力、『自分人形ドッペル』。

 彼と同じ動きをする人形を作りだせるという能力だ。


 非常に使いづらい能力で、幼い頃に彼が土遊びで作った人形が動いてから、かなりのあいだは使い道の無い能力として周囲の嘲笑ちょうしょうを受けた。


 それゆえに彼は能力を隠し、魔法を覚えて能力が開花した後も、未だにこの能力のことを知る者は数えるほどしかいない。


 著しく魔力を消費する、彼の切り札である。


 余裕? そんなことはない。


 かなりの戦力差があろうと、ほんの少し間違えれば死ぬ。


 戦いとはそういうものだと、アカシャが言っていた。


 オレは情報を十全じゅうぜんに活かすために、全力で冷静に、求める結果を出すための最善手を繰り出し続けているだけだ。


 間違えさえしなければ勝つことが分かっている、それを余裕だと言うなら、そうかもしれないけれど。


 だが、オレも常にわずかにも間違えないよう必死なつもりだし、日々特訓に明け暮れているのはそのためだ。



『ご主人様、魔力の練りは十分です』


『ああ』



 切り札を使っているから分かってはいるけれど、アカシャが念の為なのかしてきた報告に口角を上げる。


 風の檻はすぐ側まで接近しているし、多数の飛ぶ斬撃も迫っているけれど、閉じ込められた瞬間から魔力は練っていた。


 それで間に合うと、戦う前から知っていた。



「消し飛べ! "スピキュール"ッ!!」



 右手に握る、真っ赤に染まった虹色の剣を天にかかげて"宣誓"する。


 技名は当然、イメージの補強だ。

 確か太陽の現象の一つとか何とか聞いた気がする。


 オレを中心に、まとった青い炎が爆発的にふくらみ、荒れ狂う。


 スタンの風の檻も、『弐天』の水の斬撃も全て飲みこんであばれる暴虐ぼうぎゃくの炎。


 2人の攻撃はオレに届かず消滅した。


 あまり範囲を広げすぎると、まだ計画に必要な2人を殺してしまうので調節している。


 スピキュールの炎がおさまると、その範囲には白い煙だけが残った。


 これで…。



「てめぇの魔力が俺達より高かろうが、直接切っちまえば関係ねぇ!!」



 炎がおさまった瞬間に刀を振り上げて煙の中を突っ込んできた『弐天』をおさえれば、終わりだ。


 油断はしていない。

 切り札が全てを教えてくれていたし、こいつら相手に油断すれば死ぬって知っているから。


 オレはあえて前に出る。


 死角から水人形ドッペルが突っ込んで来ているのは知っている。


 その場で『弐天』の剣を受けると、水人形ドッペルに切られるのだ。



「な!?」



 前に出たオレに間合いを潰された『弐天』は、驚愕きょうがくの表情を浮かべつつも何とか刀を振り下ろそうとしたが。


 もう遅い。


 オレは『弐天』が刀を振り下ろす直前に、彼の腕をつかみ、合気あいきもどきで投げ飛ばす。


 あれから合気もどきも完成させている。

 ボズの時に比べればタイミングを取るのは簡単だ。


 何が起こったか分からないような表情で投げ飛ばされている『弐天』が向かう先は、さっきまでオレがいた位置。


 そこには3体の水人形ドッペルが、水の刀を振り上げたまま突っ込んで来ていた。


 水人形ドッペルは『弐天』がした動きのみを真似まねる。

 切られなくて良かったな。


 投げられたままの勢いで水人形ドッペル達と衝突しょうとつした『弐天』は、バシャンというよりバチンみたいな音を立てた。



「ぐはっ…」



 質量のある水とかなりの速度でぶつかったからな。

 さぞ痛いだろう。

 水纏を維持できないほど魔力を使わなければ、こうはならなかったんだけどね。


 オレは痛みに悶絶もんぜつしている『弐天』を当身あてみで気絶させた。


 そして、少し遠くにいる、もはや浮遊を維持するので精一杯のスタンに向かって声をかける。



「悪いね。初見殺しょけんごろしは効かないんだ、オレ」



 そう言った直後、ちょうどいいタイミングでヘニル国の本陣から、撤退てったいの合図である太鼓の音が聞こえてきた。







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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 次回も待ってます。 m(_ _)m
[良い点] 切り札が無けりゃ何回死んでたんだろうか、 無ければ無いで生け捕りっていう普通に考えりゃ舐めてる選択肢じゃなくて殺すって選択肢が出てくるので話はまた変わるのかもしれないですが。 [一言] セ…
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