第84話 お前らはやり過ぎた
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「『国際大会強化委員会』と、それを確実に達成するための権限の付与…。仕方あるまい、許可しよう」
学園長の話を聞き終えた王は、悩んだ末に決断した。
「ワトスンの狙いは、自身の立場の向上と、生徒会の力を削ぐことであることは明らか。しかし、それを考慮しても国と学園のメリットの方が大きいということですね」
宰相が王の決断の確認をした。
そうだね。アカシャや皆とそうなるように考えた。
上手くいったようだ。
オレ達のメリット、国のデメリットを考慮してもなお、国にとってのメリットが勝るようにしておいた。
つまり、オレ達と国の間ではWin-Winの関係が成立する。
ペトラ殿下、ノバク、生徒会辺りにしわ寄せがいくけど。
学園長が頭を悩ませる報告と言ったのは、そのせいだろう。
オレの思い通りになっているようで気持ちの悪さはあるが、メリットを考えると受けるべき提案ということだ。
「それもあるが、ヘニル国との戦争のこともある。今ヤツに機嫌を損ねられるわけにはいかん」
王が想像していなかった発言をした。
戦争が来年春の予定だっていう報告もしたけど、そういう意図は無かったんだけどな。
戦争の話は元々約束してたことだから、今回の結果がどうなろうと全面協力するつもりで、反故にするなど考えてもいなかった。
でも確かに、スルトの王族との関係が拗れに拗れたら自然とそうなる可能性もあるか。
家族のことがあるから、それは何とか回避したいところではあるけど。
「では、ワトスンに許可されたことを伝え、話を詰めましょう。極力、国と王家が多くメリットを得られるよう交渉して参ります」
学園長が決意のこもった声で王に告げる。
学園長はオレの提案に肯定的立場で話を通してくれた。
おかげでオレ達の目的は達成されたも同然だ。
交渉には、できるだけ応じよう。
「ワトスン自身の修行の時間を削れる。状況によっては、これもメリットになるかもしれんのぉ」
最後に大賢者がボソッと呟く。
恐ろしいことを言う爺さんだ。
確かに、ある程度修行の時間は削られる可能性が高い。
王と宰相と学園長は、なるほど確かにという顔をした。
結局、相談の末にこのような形に落ち着いたわけだが、オレはこの結果に満足している。
王が考えオレに命令したという形で、王家の威光が高まるようになっているが、だからこそ殿下達から文句を付けられにくい。
生徒たちも気兼ねなく参加できるだろうし、素晴らしい案だったと思う。
「最後に、委員会の活動への参加は自由ですが、強化指定選手は3回連続で無断欠席した場合1年間資格剥奪となりますので、注意して下さい。ただし、本番の国際大会はあくまで勝てるメンバーで構成します。指定選手から選ぶとは限りません」
全校生徒が食い入るような目で説明を聞いていることに満足する。
『ご主人様、初回の講義の内容を話し忘れております』
『やべ、忘れてた。サンキュー、アカシャ』
一瞬だけ肩の上に現れたアカシャが、オレの話し忘れを指摘して再びネリーの肩に戻っていった。
オレのアカシャさんは本当に万能である。
これを言うのと言わないのでは、初回の参加率が段違いになるかもしれない。
「そうそう。最初の講義は早速3日後の月曜にやります。内容は、効率的な魔力の増やし方。この情報は王家にも献上しますが、おそらく最速で覚えられるのは委員会活動です。ぜひ参加をおすすめします」
オレはにっこりと笑って言った。
式典の間が、熱狂と言ってもいいほどの喧騒に包まれる。
予測どおり。
オレと関わってからアレクとネリーの魔力が明らかに爆発的に増えたことは、学園中で噂されていた。
いくらレベルが上ったといえども、それだけでは説明が付かないというのが彼らの見解だった。
実際はレベルも爆発的に増えてるんだけどね。
しかし、今まで聞かれても答えなかったし、魔法に関することは各家の秘伝というのは周知の事実なので、聞いてくる者もほとんどいなかった。
それを全員に無料で教えるというのだ。
喜ばないはずがない。
さっきまで青い顔をしていたコネ貴族の中にすら、喜んでいるヤツがいるくらいだ。
ノバクやペトラ殿下を始めとした何人かはプルプル震えながら、余計なことをしやがってといった表情でオレを睨みつけているけれど。
お前らはやり過ぎた。
あのアレクが怒ったんだ。
今までは大した影響はないと思って見逃していたけど、皆が不快だというなら話は別だ。
今までと違って、やられたらやり返す。
やられそうになっても、やり返す。
名ばかりの生徒会選挙が終わり、式典の間から生徒達が退場していく。
ステージから下りると、仲間たちが待っていた。
「上手くいったね」
「見ものだったの」
アレクとベイラが楽しそうに笑って言う。
『ワシも上手くやったじゃろう!』
『ありがとな。スゲーことになってたよ』
スルティアがドヤ声で褒めて欲しそうにするので、褒める。
ベイラとアレクが、ブフッと吹き出した。
「スゲーことになってたの」
「そうだね。王様の演説でもああはならないよ」
ですよね…。
やり過ぎだよスルティア。
あれじゃアイドルのコンサートだよ。
実はメッチャ恥ずかしかった…。言わないけど。
「わ、わたしも、見た、かった…」
精根尽き果てた様子のネリーは、どうやらアカシャとの特訓に集中して見ていなかったようだ。
目を瞑って頑張ってたのかな?
「えらいえらい。お前が1番頑張ったよ、ネリー」
オレの言葉に全員が頷いた。
この様子を見れば、どれだけ頑張ったかひと目で分かる。
『はい。ネリーは頑張りました。ずっとこの調子で頑張れば、ギリギリ目標の点に届くでしょう』
え、嘘?
アカシャさん、"この調子で頑張って"ギリギリなの!?
今回も直前まで修羅場じゃないですかー…。
アカシャの念話に、オレだけでなく皆がドン引きしている。
「セイ……ワトスン!!」
突然、鬼のような形相をしたノバクが声をかけてきた。
横には同じような表情のペトラ殿下が。
後ろにはそれぞれのお供達がいる。
「こ、こんなこと!! 認め…」
「あらぁ。もしかして、認められないのかしら? ペトラお姉様」
ペトラ殿下がノバクの後を引き継いで喋り始めたが、途中で大きな声で上から被せられて最後まで言うことができなかった。
大きな声の主は、エレーナ先輩だ。
エレーナ先輩は4年生を後ろに引き連れていた。
多くね? 4年生ほぼ全員いるんじゃないか?
その中の先頭にいたクーン先輩と目が合う。
クーン先輩がオレにウインクをしてきた。
最近ワトスンさんと行動することが多いのは知ってるけど、影響受けすぎじゃないかな。
「エレーナ。貴方…」
ペトラ殿下は何が起こっているのか察したのだろう。
エレーナ先輩をキッと睨みつける。
エレーナ先輩はどこ吹く風といった様子だ。
「私は、もちろん認めるわ。お父様の案、素晴らしいと思うもの。これでスルトはさらに発展するわね」
エレーナ先輩が大きな声で話すのは、これが仕込みだからだ。あえて周りによく聞こえるように言ってもらっている。
こうなることは予想できてたからな。
これでペトラ殿下もノバクも、非公式の場とはいえ認めないとは言い難くなった。
「くっ…。もちろん、認めるわよ。王命だもの。でも、お父様に確認の必要はあると思うわ。…行くわよ!」
ペトラ殿下はそう言って、ノバクと一緒に周囲に当たり散らしながら去っていった。
そういうところが人望無くす理由だって、そろそろ誰か言ってあげればいいのに。
オレは言ってあげないけど。
言ってもらえる人望すらないんだろうな。
「ありがとうございました。エレーナ先輩。助かりました」
オレは協力してくれた先輩に笑顔でお礼を言う。
仕込みのこととか、余計なことは言わない。
「ふふ。いいのよ。聞いた? 『くっ…』だって。ペトラお姉様が悔しがる姿、楽しかったわぁ。では、またねセイ。ごきげんよう」
エレーナ先輩は楽しそうに笑って、4年生を連れて去っていった。
ペトラ殿下で遊んでたのか。怖い人だ。
「これなら十分に人が集まりそうじゃのう。流石じゃ。ワシも楽しみにしておるよ」
タイミングを見計らって、学園長が話しかけてきた。
アンタも来るんかい、と思ったが声には出さないでおく。
「ええ。楽しみにしていてください。学園長が求めた過去最強のスルティア学園が、もうすぐ実現しますよ」
オレは半ば確信を持って言った。
よほど想定外の事態が起こらなければ、そうなる。
3日後の月曜日、ほぼ全校生徒が最初の委員会活動に参加した。




