第13話 レベルを上げに森に行こう 前編
2023/7/23 改稿しました
『よし、行くぞアカシャ』
『かしこまりました』
深夜、家のみんなが寝静まったころ、こっそり家を出るべく魔法を使う。
まずは変化の魔法だ。
一緒に寝ている熊っぽい何かのぬいぐるみが、オレそっくりに変わる。
念のための身代わりだ。
今日はこっそり家を出て森でレベル上げをする。
レベルを上げたいとアカシャに相談したら、今まで受動的にタイミングを窺っていたが、リスクを取って能動的にタイミングを窺おうということになった。
長時間いなくなるので、誰かがオレの様子を見にきてもすぐには分からないようにしておく。
ぬいぐるみはこの日のために用意しようと作り始めたら、兄ちゃん達が代わって作ってくれた。
あまり上手いとはいえない出来だけど、兄ちゃん達が心を込めて作ってくれた大切なぬいぐるみだ。
それをこの目的のために使うのは少し罪悪感も感じるけど、ありがたく使わせてもらう。
『しかし自分の姿をした人形を眺めるってのは、なんとなく落ち着かないものだな』
『情報としては、あくまでご主人様の見た目をした人形以上でも以下でもないのですけどね。人間の感情というものは複雑です』
この家には鏡がないから余計にそう感じるのかもしれないけど、自分ではなく他の誰かを見てる気分だ。
2歳の自分の見た目は、兄ちゃん達ほどではないけれど父ちゃんの面影がある感じだ。髪だけは完全に母ちゃんに似て黒。
自分で言うのもなんだけど、なかなか可愛い子供だな。将来イケメンになってくれたら嬉しい。
いつまでも人形を見てても仕方がないので、身体強化の魔法と透明化の魔法をかけて柵のある赤ちゃん用ベッドから這い出る。
多少の音はしてしまっただろう。
『母ちゃんは起きてないか?』
『大丈夫です』
今の時間、寝室では母ちゃんも寝ているので、できれば消音の魔法も使っておきたかったけど、3つ同時はまだできないのでしょうがない。
ちなみに、変化は一度かければ使った魔力が切れるまでは持続する魔法なので、今も継続して使ってはいない。
『…身体強化を変化と同じように持続する魔法にできないか? それができれば色々と便利なんだけど』
『そのような魔法はすでに存在します。しかし、かなり効率が悪く今の身体強化の劣化版のようなものですが。なるほど確かに、同時に使える魔法が1つ増えると考えると限定的に使う場面がありそうです』
かなり評価が低い魔法みたいだけど、今度教えてもらおう。
消音も同時に使えたなら、ベッドから飛び降りたってよかったからな。
身体強化を消して、できるだけ音が出ないようにベッドから降りて北側の壁の前まで歩く。
この寝室の北側の壁が外と接していることはアカシャから聞いている。
"限定"を使って、指で指し示す形で自分が通る範囲の壁に透過魔法をかけ、そこに向かって歩く。
すると、まるでそこに壁などないかのように体が壁をすり抜け、オレは外に出ることに成功した。
風が頬に当たる。
街灯すらない村だけど、思ったより暗くはない。
星がたくさん出ているからかな。
『上手くいったな! ドアを開けて出ていくよりも気付かれにくいだろ』
透過魔法を消して、アカシャに話しかける。
ここまで計画通りに進んでいることで、思わず笑みがこぼれてしまう。
『はい。ここまでは完璧と言えるでしょう。しかし、これからが本番です』
『分かってるって』
『変化の魔力が切れるまで約5時間。それ以内に、十分な魔力を残した状態でここまで戻り、同じ事をせねばなりません』
改めてこれからやることを羅列されると、これくらいで浮かれていられないことがよく分かる。
とはいえ、だ。
『初めて1人で外出して、初めて森に入って、初めてレベル上げらしいレベル上げをやるんだ。ちょっとくらい浮かれちゃうのは仕方ないだろう』
オレはアカシャに対して、ちょっとむくれてみせる。
『ご主人様が楽しそうで何よりです』
そう言う銀髪メイド妖精も、いつもの平坦な声や全く変わらない表情と比べると、ほんの少し楽しそうな感じがしなくもない。
そう思うと、もっと楽しくなってきた。
『よーし、行くぞアカシャ! 狩りの時間だ!』
『お供いたします』
透明化は念のため森に入るまで維持。身体強化をかけて、森へ駆け出す…
『お待ち下さい、ご主人様。靴を履き忘れております』
おっと、オレは今裸足だった…。
バレないようにと、ベッドの横に置いてあるままにしてきたからだ。
『ちょ、ちょっと浮かれすぎたな…。気を付けるよ』
身体強化を解き、空間収納の魔法を使って予備の靴を取り出す。
この靴はバレないようにするために、アカシャに教えてもらいながら自分で作ったから大変だった。
にもかかわらず忘れてたとか、どんだけ浮かれてたんだオレは。
ここからは、改めて気を引き締めて行こう。




