第73話 王族会議⑤
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「『浮遊大陸を利用して戦争をしてはならない』でどうだ」
ある国の王が、スルト国やオレ達に対する契約内容を提案する。
「それでは他国の者が浮遊大陸を利用して戦争をした場合も契約違反になるでしょう」
宰相が即座に却下する。
契約魔法で縛られた者は、その契約を破る行為ができなくなる。
一応もの凄く抵抗すれば破れないこともないのだが、その場合は死ぬ。
そして、恐ろしいことに契約魔法で縛られていない者が、縛られている者の契約を破ることは簡単にできる。
その場合、縛られた者は即座には死なないが、早く止めないといずれ死ぬ。
契約魔法はとても便利だが、下手な契約をするのはとても危険だ。
契約魔法は人と人との契約ではなく、人と神の契約なのである。
「ならば、『浮遊大陸の所有国、およびそれを動かすことのできる者は浮遊大陸を利用して戦争をしてはならない』でどうでしょう」
また別の王が提案をする。
「それでは浮遊大陸に対して戦争を仕掛けられたときに対応できません。『ただし、防衛戦争を除く』という一文を追加しなければ」
宰相が再び、すぐに発言した。
したたかな人だ。
「いやいや。それでは浮遊大陸を防衛戦争には使えるという解釈になるだろう」
ヘニル王がすぐに却下する。
そりゃそうだろう。
そんな感じで会議は続いていき、内容が決まった。
①浮遊大陸の所有国の長は浮遊大陸を利用して戦争をしてはならない。ただし、浮遊大陸に攻撃を仕掛けられた場合を除く。
②浮遊大陸を動かすことができる者は浮遊大陸を利用して戦争を仕掛けてはならない。また、浮遊大陸が巻き込まれていない戦争に浮遊大陸を利用して参加してはならない。
③スルティア条約調印国の長は、スルティア条約で認められた浮遊大陸およびダンジョンを保護する義務を有する。
①は所有国の長、今回でいうところのスルト王の契約用。
②はオレ達の契約用。
③はスルト王も含めたスルティア条約調印国の王の契約用だ。
それぞれ、自らの過失なしで契約に刺されることのないように調整された。
臣下の暴走とかで王が死んだら困るからね。
仮に臣下が勝手に戦争を起こしても、王が死ななければ王の無罪は証明される。
契約の縛りを逆手に取るやり方だ。
ちなみに、ディエゴ・モンフィスから国へのサポートは何度かあったが、オレ達にはなかった。
狐め。サポートするって言ってたじゃねぇか。
まぁ、オレ達用の契約はかなり曖昧なもので許されたから良しとしよう。
各国としてはこれで、ある日突然浮遊大陸が襲ってくるということが無くなるので、許してくれた。
国家間の『戦争』には使えないが、個人での『戦闘』などには使える。
オレ達は浮遊大陸内で戦えなくなったりしたら話にならないからな。
戦争も、『してはならない』ではなく『仕掛けてはならない』としてもらった。
これにはヘニル王がかなり反発したが、オレ達は攻撃を仕掛けられてから対処では困るのだ。スルト王の契約内容とほぼ同じ内容では受け入れられない。
結局、戦争への浮遊大陸の参加不可を条件に許された。
確かにその一文がなければ、すでに始まっている戦争への参加はできたかもしれない。
「では、それぞれ契約内容はこちらで良いですね?」
ディエゴ・モンフィスの自信に満ち溢れた声が響く。
各国の王達が次々と承認の意を示していく。
オレ達も目を合わせて頷き、それぞれが返事をした。
「それでは全員の承認が得られましたので、一旦の休憩の後、それぞれに契約魔法を使用します。15分後に再びこちらにお集まりください」
ディエゴ・モンフィスがそう宣言して、一旦の休憩となった。
すぐさまベイラがネリーの頭の上で大きく伸びをする。
「はぁー。すごく肩がこったの…」
「お前、絶対テキトーに聞いてただろ。よくそんなこと言えるな…」
オレも一息ついて、ベイラにツッコミを入れる。
その時だった。
ノバクが雇った暗殺者が動いたのは。
オレが油断する瞬間を狙っていたらしい。
してないけどね。
オレは目を瞑る。
"思考強化"、"身体強化"。
即座に無詠唱で2つの魔法を使う。
目に現れる魔法陣が見られることはない。
目を瞑っていても全く問題はない。
切り札を使っているオレには暗殺者の全てが見えている。
暗殺者はオレの首に毒針を刺すつもりのようだ。
『透明化』の神に愛された能力を持ち、ノバクに教えられた消音の魔法を使っている暗殺者。
恐ろしいコンボだが、アカシャの前ではただの雑魚だ。
身体強化すらせずに振り下ろされた遅すぎる右腕。
オレは席に座ったまま右手を後ろにやり、その手首を掴んだ。
立ち上がりながら、合気もどきで手首を極めつつ投げる。
暗殺者はまるで勝手に飛んだかのようにグルンと一回転して、会議場の円卓に打ち付けられた。
消音の魔法のせいで打ち付けられた音は出ず、不自然に円卓が揺れる音が響く。
円卓の上に置かれていた飲み物なども、一部こぼれてしまった。
ようやく手首の痛みに気付いた暗殺者が叫び始めるが、それも当然誰にも聞こえていない。
「な、何事だっ!?」
円卓の音で何かが起こったことを察知した者が叫ぶ。
休憩が始まったばかりでまだ誰も会議室を出ていなかったので、全員の視線を浴びることになってしまった。
「賊が紛れ込んでいたようです。捕まえました」
オレは片手で制服の胸ポケットからサングラスを取り出して、かけながら話す。
アレクが円卓の上の無事だった飲み物を持ってきてくれた。
さすがアレク。気が利くね。
オレはその飲み物を、円卓の上で極められた手首の痛みに悶え続けている暗殺者にぶっかけた。
「と、透明化…」
飲み物の不自然な流れで暗殺者のシルエットが明らかになり、どういう状況かを理解するものが現れ始めた。
「スキルと魔法を解除しなかったら殺す。聞こえてるよな?」
オレは暗殺者に話しかける。
コイツがノバクと"契約"を交わしていないことは知っている。
モンフィス家を使えば、王達にもオレを暗殺しようとしていることがバレるからな。
普通は暗殺者には契約魔法を使い、万一捕まった時も情報を吐けないようにしておくものだ。
しかし、今回はそれができない。
コイツが自らノバクのために死ぬようなヤツでないことも知っている。
すぐに暗殺者がスキルと魔法の使用を止め姿を現したとき、コイツのことを知っている王や宰相が全く反応しなかったのはさすがだと思った。
見た瞬間に、ノバクが勝手に暴走したのだと想像しただろうに。
このノバクが雇った暗殺者を生け捕りにしたのは、王家の反応を見るためだ。
今後、王家は国の威信をかけて徹底的にコイツのことを調べるはずだ。
そうなれば、絶対にノバクが雇ったことが明るみに出る。
その時、王がノバクにどういう対応をするのか。
それをこの機会に知っておきたい。
 




