表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のヤツらに情報を制するものが世界を制するって教えてやんよ!  作者: 新開コウ
第2章 学園の支配者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/366

第62話 居場所

 月明かりの下、私はセイの話を聞いていた。

 入学式の日の、私が知らないセイの話だ。


 近くの公園に移動した私達は、土魔法で作られたらしいベンチに座った。

 一応、入学式のときにセイがなぜ突然、私に友達になってくれと言ってきたかを聞くためということになっている。



「そんなわけでさ、ワトスンさんが言ったんだ。ネリーと友達になれば、ネリーが寂しくなくなるって。それで元々(もともと)いずれ友達になりたいとは思ってたから、思い切って話しかけたんだよ。ま、断られたけどな」



 セイは冗談めかして最後に付け加えたけど、私は途中から本題とは違うところで頭がいっぱいになっていた。



「え、待って。ワトスンさん? なんでアンタが、父親をワトスンさんって呼ぶのよ?」



 アンタもセイ・ワトスンなのに。

 まさかとは思いつつ、聞かずにはいられなかった。



「ああ、そういえば言ってなかったっけ。養子なんだよ。ワトスンさんは義理の父親なんだ」



 セイはことげに言った。

 そういえば、コイツは前からこういうところがある。



「聞いてないわよ…。本音で語り合うとか言って、アンタこそ秘密だらけじゃない」



 アカシャのことも、転移魔法も、割と最近になってから聞いたことだし。

 セイは自分のことをあまり話さないから、会う前のことはほとんど知らない。



「聞かれなかったから言わなかっただけだって。いや、でも、もしかして…、オレももっと色々話しておくべきだったのか?」



 セイは軽い調子で話し始めた後、急に難しい顔になって考え込み始めた。


 珍しいセイの姿を見て、私はあることに気付いて安堵あんどのため息を吐く。



「はぁ…。今日、初めて気付いたわ。セイも完璧ではないのね」



 何でも知っていて、何でもできてしまう人物。

 それが今まで私がセイに抱いてきたイメージだった。


 でも、どうやらそんなことはなかったらしい。

 セイでも分からなかったり、悩んだりすることがあるんだ。



「完璧な人間なんているかよ…」



 セイが苦い顔でつぶやく。

 それがひどく私の心に刺さった。


 知りたい。

 私の知らないセイのこと。



「聞かせてよ、アンタのこと。本当はどこの誰で、どんなことをしてきたのか。今更だけど私、セイのこと全然知らないわ」



 本音で語り合わないと分かり合えないか…。

 私がセイのことを知りたいって思うように、セイも私のことを知りたいのかな。



「…分かったよ。ちょっと長くなるぞ。信じられないようなこともあるかもしれないけど、全部話すよ」



 セイはちょっと迷うようなそぶりを見せた後、決心したかのように言った。



 それから私は色々なことを聞いた。


 セイが生まれたゴードン村のこと。

 農民の家族のこと。

 前世の記憶があること、その理由。

 ベイラと出会った盗賊団との戦い。


 転移魔法を覚えたとき、基本的に人助けは()()()と決めたこと。



軽蔑けいべつするだろ? たぶん時期的に、ネリーの爺さんもアレクの家族も、助けようと思えば助けられた…。ごめんな。今まで言わなかったのは、嫌われるのが怖かったってのもある」



 セイは自虐的じぎゃくてきに軽く笑った。


 その自分を責めるような悲しい笑い方を見ると、胸が痛くなる。


 セイの手が少しだけ震えてるように見えた。



「後悔してるの?」



 セイの顔を見て、気になった。

 後悔とは、また少し違うように見えたから。



「いや、してない。悩んだ末に決めたことだし、たぶん何度でも同じ結論になる。ただ、自分の無力さと心の小ささには失望するんだ」



 それが後悔とどう違うのか私には分からないけど、セイが自分のことを責めているのは何となく分かった。



「軽蔑なんてしないし、嫌わないわよ。価値観は人それぞれだって、お祖父様も言ってたわ」



 みんなが自分と同じだと思ってはいけない、お祖父様はよくそう言ってたわ。

 価値観は人それぞれで、みんな考え方が違うのだから、何でも自分の考え方に当てはめてしまうと不和がしょうじることもあるって。


 今は私もそう思ってる。


 セイの考え方が理解できても理解できなくても、私はセイがいいヤツだって知ってるわ。



「そうか…。ネリーの爺さん、会ってみたかったな…」



 セイが感慨深げにつぶやいた。


 それを聞いて、私も勇気を出して話したいと思った。



「…逃げてきたのよ」


「えっ?」



 私が精一杯の勇気を振り絞って出した言葉は、突然すぎてセイに分かってもらえなかった。



「家に泊まらなかった理由。気付いたの。私はお父様とお母様に褒めてもらいたくて陞爵しょうしゃくを目指してた。トンプソン家の再興よりもそれが大事だったみたい」


「そうか」



 改めて家を出てきた理由を話と、セイは優しい顔でうなずいてくれた。


 私はあんまり得意ではない説明を頑張って続ける。



「ヨシュアが抱きしめられたとき、こんなときくらいヨシュアより私を抱きしめてって叫びたかった。でも言えなくて…。あのまま家にいたら心がおかしくなっちゃいそうだった」


「そうか…。だから、家を飛び出したんだな」



 セイの言葉に、私は頷く。

 理解はしてもらえないかもしれないけど、私の考えは伝わったみたい。



「お父様とお母様は、私を愛してくれてたわ。嬉しかった。でも、今家に帰るのは無理。軽蔑した?」



 私もセイと同じように聞いてみた。


 セイの話を聞いて分かったのよね。

 私も、自分のことを話してセイに嫌われるのが怖かった。

 だから話したくなかったんだって。



「するわけないだろ」



 セイがすぐに返してきた言葉は私が思った通りのもので、私はホッとして少し笑った。



「私も同じだから。セイのこと軽蔑するわけないわ。でも、自分の心の醜い部分を話すのは勇気いるわね」



 心が軽くなったせいか、笑い話のような調子で少し冗談めかして話す。



「そうだな。メチャクチャ勇気振り絞ったぞ」



 セイも私に合わせたのか、同じような調子で話し始めた。



「次からは隠さず話しなさいよね! 絶対嫌ったりしないんだから!」



 意外と小心者のセイに言ってやる。


 いろいろ聞いてみて。前世の記憶があるとか、ちょっと驚いたけど、それが何だっていうのよ。


 セイが何をやっても嫌わないってことはないけれど、セイが私に嫌われるほどのことをするはずがないって分かってるんだから。



「ああ、約束する。さぁ帰ろうぜ。みんなが寮で待ってる。あいつらにも、全部話さないとな」



 セイはアレク、ベイラ、スルティアにも全部話すつもりらしい。

 私もそうすることにした。



「そうね。たぶんみんな、私達のこと嫌いになったりしないわよ」



 話すのはちょっと恥ずかしいけど、嫌われるってことはないと思う。



「たぶんかよ。話すの勇気いるなぁ」



 思った以上にビビリのセイがおかしくて、私はセイに近寄って肩に手を回す。



「ほら、行くわよ。本音で語り合わないと分かり合えないんでしょ」


「お前、そのネタ引っぱり過ぎだろ…」



 げんなりするセイを見て、私は笑った。


 家に居場所がない気がして辛かったけど、もうあんまり気にならなかった。

 近いうちに、ダンジョンの報酬を持って改めて行こう。


 そのときに家族がどんな反応をしても、もう大丈夫。

 私の居場所はここにあるから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 個人的な感想なんだけど、前世の話を必要以上にするの苦手。 物語あるあるだけど、ありとあらゆる隠し事を曝け出して本音で語り合うことをさも美しいことのように表現してあるから。 隠し事があるのは当…
[一言] えぇここでも前世の話するか?する意味が無いしこの世界に転生したからには胸に秘めておくべきだろ?少なくとも今明かす時ではなかったな明らかに。
2021/06/29 13:24 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ