第58話 陞爵の報告
ずっとずっと、この時を夢見てきた。
大功績をあげて、陞爵が叶うこの時を。
周りからどんなにバカにされても、歯を食いしばって耐えてきた。
心を壊してしまったお父様とお母様のために、きっと私がやってみせると頑張り続けてきた。
ずいぶん空回りもしてしまって、いつも1人で、ずっと不安だった。
それが学園に入学して、セイ達と出会って全てが変わった。
毎日が楽しくて、刺激的で、自分の成長がハッキリと分かるようになった。
もちろん辛いこともあったけど、今までとは全然違った。
辛いけど辛くないというか、言葉にできないけれど、友達がいると世界が全く変わって見えた。
まさかこんなに早く達成できるなんて思ってもみなかったけれど、全部あいつらのおかげ。
本当に感謝してる。
「みんな、ありがと。私、今日は家に帰ろうと思う。もう知ってるかもしれないけど、陞爵の報告をしてくるわ」
学園の会議室を出た後、私は寮に帰ろうとしたセイとアレクにそう告げた。
「貴方の父はすでに職場である王立裁判所で知りました。屋敷にいる貴方の母と弟はまだ知りません」
セイの肩に座るアカシャが、抑揚のない声で情報を教えてくれた。
「そう。お父様はもう知っているのね。喜んでくれているかしら?」
何でも知っているアカシャに気になっていたことを聞いてみた。
ドキドキする。
でも、きっと喜んでくれているに違いないわ。
「私は感情は分からないのですが、泣いて喜んでいるように見えます。仕事が終わり次第すぐに屋敷に帰ると話しておりますね。そろそろ、その時刻です」
アカシャの言葉を聞いて、パアッと花が開くように嬉しさが込み上げてきた。
「そう! 教えてくれてありがとう、アカシャ! それなら、急いで帰らないと!」
お母様や弟のヨシュアが陞爵の知らせを喜ぶところを、私も見たい。
きっとお父様もお母様も、私のことを褒めてくれるわ。
「家族にいい報告ができるね」
アレクがにっこりと笑って言ってくれた。
「ありがと、アレク。行って来るわ」
セイがいつもアレクは天使だとか言ってるけど、ちょっと理解できちゃうかも。
「よく分かんないけど、ネリー嬉しそうなの。いってらっしゃい」
セイの頭の上にいるベイラはあまり興味なかったみたいだけど、いってらっしゃいって言ってくれた。
「うん。ありがと、ベイラ。1泊だけして戻ってくるわ。行ってきます」
ベイラから少しだけ寂しいって思いが伝わってきたから、1泊だけだって言っておく。
明日は国際大会の翌日ということで休みだけど、明後日からまた学校があるしね。
ベイラから、ちょっと安心って気持ちが伝わってきて、可愛いと思った。
「いってらっしゃい。ノバク王子に気に入られなくても陞爵できたな」
セイはいたずらっぽい笑顔でそう言った。
「もう! アンタはいつまでそのネタ引っ張るのよ! 行ってくるわ!」
私は頬を膨らませて怒った振りをして、振り返って走り出した。
本当は恥ずかしかっただけだけれど。
私は入学の頃、ノバク王子に気に入られて功績を上げて陞爵しようと思っていた。
今考えると、ちょっと必死すぎた。
功績を上げて陞爵は分かるけど、王族に気に入られて功績を大きく評価してもらおうっていうのは間違ってた。
あの頃の自分を思い出すと、かなり恥ずかしい。
時々いじわるなセイは、あの頃の私の台詞を出してからかってくる。
だいたい決まって、今日みたいな時だ。
その度に私は喧嘩腰になってしまう。
本当は、1番感謝してるのに…。




