第55話 報告
オレ達は武舞台横の場外へと降り立った。
会場中の人がオレ達、もしくはオレ達が映る武舞台上の映像を見ている。
ざわついてはいるが、大きな混乱もない。
なぜなら、この生放送機能は今回の国際大会ですでに大活躍したものだからだ。
特に、今まで森の中の様子が見えなかったオリエンテーリングと魔物討伐は過去最高に盛り上がっていた。
スルティアが夏休みの間に練習して可能となった新たな支配者権限だ。
アカシャのおかげで、練習さえすればできることは事前に分かっていた。
魔法でもやろうと思えばできるが、大量の魔力と対応した魔法を持つ者が何十人も必要になってくるので実現は厳しく、過去には例がない。
スルティアが学園に残って国際大会で予め披露してくれていたおかげで、ほとんどの人が今出ている映像をこういうものだと違和感なく受け止めているようだ。
王も、「支配者め、余計なことを…」などと呟いたくらいで特段オレ達との関係を疑うような様子はない。
危険はないことを明確に示したおかげか、観客を含め閉会式のために闘技場にいた人はほとんど減っていない。
むしろ、軍の関係者などが来た分増えているくらいだ。
それでも、未知のものを恐れるように、降り立ったオレ達に積極的に近づいて来る者はいなかった。
あるいは、誰もが固唾を飲んで見守っているような、この雰囲気がそうさせているのかもしれない。
バウティスタ君が観客席に降りるのを見送ったときも、そこだけ人垣が割れていた。
近づいて来るものがいないどころか、避けられてんな…。
まぁ、でも皆分かってるのだろう。
オレ達と1番最初に話すのは、王であるべきだと。
オレ達は降り立ったところから数歩前に出て、場外の地面に跪く。
正面は、観客席の貴賓席。
その中心にスルト国王、ファビオ・ティエム・スルトが座り、威厳を放っていた。
側には宰相や大賢者、学園長が控え、周りには各国の要人が同じようにお供を携えて座っている。
後継者であるノバクをあえて遠ざけたのはいい判断だな。
オレとノバクの関係を考えると、話がこじれる可能性が高かった。
それはスルト国としても困るよね。
跪き頭を下げたまま、王の言葉を待つ。
「面をあげよ。あれについての報告があるそうだな。申せ」
スルト王が直々にオレ達に言葉を投げかけた。
「はっ。スルト王。アレクサンダー・ズベレフ、ネリー・トンプソン、セイ・ワトスン、妖精ベイラ。お約束どおり新ダンジョンを攻略し帰還いたしました。あちらの浮遊大陸はダンジョン・イザヴェルの初回踏破報酬でございます。ダンジョンごと献上いたします」
オレは王へ報告をした。
事前に最も身分の高いアレクに報告をしてもらうか話し合ったが、想定外の言葉への対応を考えてオレがすることに決まった。
アカシャの能力をフルに活用できるのはオレだけだしな。
せめて、名前の順だけは身分順にした。ベイラを入れたのは、妖精と人族の融和のためだ。
ミニドラのことは今回は忘れたわけではない。言わなかっただけだ。
だから、縮小魔法で小さくなってネリーの肩にとまっているミニドラ、あんまこっち見んな!
気持ちは分かるけど、この場でお前の名前言うのは不自然なんだよ。許せ。
報告の内容はそれっぽいことを言ってはいるが、聞く人が聞けば分かる趣旨としてはこういうことだ。
あの浮遊大陸はもともと王の命令で攻略したものだよ。
だから、この騒ぎの責任は全部スルト王にあるよ。
民も王が起こした騒ぎなら、ある程度納得するよね。
その代わり、各国の要人がいるこの場でそれをはっきり認めれば、浮遊大陸がスルト王の物だと国際的に認めさせることができるよ。
よろしく! ということだ。
新ダンジョンと浮遊大陸を手に入れられるメリットは計り知れないので、絶対に拒否することはないだろう。
心の中では、ふざけんなコラとか思ってるかもしれないけど。
「うむ。大儀であった。3名の大功績、余が確かに認めよう」
王は顔色1つ変えず、威厳を保ったまま言葉を告げる。
ポーカーフェイス上手っ。この人、本当にノバクの父ちゃんなの?
真実を知ってる者以外は全員、これは最初から全て王の計画どおり行われたことだと信じそうだ。
それほど、王の言葉の知っていた感は強かった。
「待たれよ! それではあの浮遊大陸がスルト国の物であるように聞こえる! それは認められませんぞ!」
他国の要人の1人が声を上げる。
そりゃあ他国は黙っちゃいられないよな。
神話の中で大暴れしたと言われる浮遊大陸が1国の所有物になるのを黙って見ているのは、外交とは言えないだろう。
「これは異なことをおっしゃる。新ダンジョンは発見した個人・国に権利が発生することは国際的に認められております。だから、各国必死に新ダンジョンを探しておられたのでしょう?」
スルト国の宰相が、したたかな笑顔で反論をする。
スルト国の物に決まってんじゃんとでも言いたげだ。
本当にしたたかな人だな。
「ダンジョンはそうだとしても、浮遊大陸は別。3つの浮遊大陸はどの国の領土でもありませんぞ」
他国の人も無理を言ってるのは承知の上なのだろう。
険しい顔をしながらも、言葉に迷いはないように感じる。
「浮遊大陸は立地などから、どこの国も手を出していなかったに過ぎません。そうおっしゃるなら、残るヴァルハラとブレイザブリク、貴国で手に入れてみては?」
宰相がピシャリと言い放つ。
そのとおりではあるが、何という辛辣な意見。
未来はともかく、今は動かない浮遊大陸を欲しがる国はない。メリットよりデメリットが大きすぎるからだ。
日本の歴史で言えば、江戸時代くらいに南極大陸欲しければくれてやるから手に入れてみればと言われたようなもんだ。たぶん欲しがるヤツいないだろ、知らんけど。
「ぐっ…。しかし、神話に出てくる動く浮遊大陸。これが1つの国の所有物になることは危険すぎますぞ。あんなものが攻めてくる可能性を考えると、各国と連携してスルト国を叩くことも考えなければなりませんな!」
もうこれ以上スルト国の物ではないという主張では粘れないと感じたのだろう。
他国の要人は次なるカードを切ってきた。
普通に考えればスルト国の物だということは認めよう、だが手放せということだ。
各国の要人たちはその意見に、そうだそうだと賛同する。
まぁ、そうくるよな。
こうなる可能性が高いことは予想していた。
浮遊大陸は欲しい。でもスルト国が孤立し、各国の連合軍対スルト国という形で戦争が起こるのは困る。
そういうスルト国の立場を突いた無茶な要求だ。
これに対するスルト国の対応はいくつか考えられるが…。
ここだな。
「恐れながら、それに関して1つ提案がございます。もしそれが実現しましたら、あの浮遊大陸は我が国と各国、双方の利益となるでしょう」
オレは宰相や王が次なる発言をしようとする前に、会話を遮らないよう注意しつつ提案があることを述べた。
こうなる可能性は高かった。だから、最初から落とし所は考えていたのだ。
『アカシャ、反応はあったか?』
『いえ。ありません。予想どおりですね』
貴賓席の後ろには、前に学園長室にいた『真偽判定』持ちと『魔力可視化』持ちの男達がいた。
オレはそちらに視線すら向けずにアカシャに確認をとった。
やはり、嘘という判定は出なかったな。
浮遊大陸は我が国と各国、双方の利益となるという言葉は嘘ではないのだから。
ただ、オレ達に最も利益があるというだけで。




