第54話 ショータイム
「オレ達は武舞台の方に降りるけど、バウティスタ君は観客席の一番上に降りるといいよ。魔力、本当にギリッギリだろ?」
闘技場のすぐ上まで降りて来ると、黒髪の小僧が言った。
私は名乗った覚えはないが、名前も、残りの魔力量でさえも把握されているようだ。
訳が分からぬ。
「私を生かしたこと、後悔することになるぞ」
観客席の最上段に降りると、私は側まで付いてきていた奴らを見上げ、せめてもの強がりを言った。
もちろん本気でそうしてやると考えているが、今は負け犬の遠吠えにしかならないことは自分でも分かっている。
だが、何か言わずにはいられなかった。
命を狙った相手に情けをかけられ、ただ言われるがままに助けられるのは悔しすぎる。
「そうはならないように頑張るさ。まずはこの後のこと、見ていってくれよ。戦争は嫌いなんだ。スルト国とは仲良くしたほうが得だって、お父さんに言ってくれると嬉しいな」
「なっ…」
黒髪の小僧の言葉に、私は絶句した。
どこまで知っているのだ、此奴は。
そんな私を残し、奴らは振り返って武舞台へと飛んで行った。
私はそれを呆然と立ち尽くしながら見送った。
「何なのだ、奴らは…?」
思わず独り言がこぼれた。
あの妖精、この私が手も足も出なかった。
武器の有無を考慮したとしても、何枚も上手だったことは疑いようもない。
他3人は戦ってはいないが、全員が"浮遊"持ち。かなりの実力を持っているに違いない。
私とそう変わらない年齢に見えたが…。
特にあの、"打消"を使った、リーダー格の黒髪の小僧。
声からすると、あれがセイ・ワトスンとやらなのだろうが。
"打消"という技術は普通、戦闘では使わん。
相手の魔法の最低でも数倍の魔力を使わなければならないからだ。
"打消"を使うくらいなら、相手より強い魔法を使えばよい。
それを、あえて使った。
悟らされた。
何をしても無駄だと。
くそぉ…。
「どうやら、こっぴどくやられたようだな」
私が悔しさに唇を噛んでいると、いつの間にか近づいてきていたらしいミカエル・ナドルが声をかけてきた。
「見えていたのか?」
「いや。だが君が1人、再び空に上がったのには気付いていた」
私が確認を取ると、ミカエルは否定をした。
そうか。本当に、下からは見えていなかったのだな。
いかなる手段を使えば、あの規模の戦闘を隠せるものなのか。
「そうか。何なのだ、奴らは? 1人は、スルティア学園の生徒だと名乗っていたな」
スルティア学園の生徒であれば、ミカエルが知らないはずはないだろう。
なぜ、国際大会に出ていない。
なぜ、妖精やドラゴンを連れている。
なぜ、浮遊大陸を手に入れた。
疑問はいくらでもある。
戦争のことをかなり知られているようだから、ミカエルが答えるとは思えないが、それでも私の口は止まらなかった。
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『スルティア、ただいま! 準備できてるか?』
バウティスタ君と別れ、"浮遊"で武舞台へと向かいながら、念話でスルティアに声をかける。
『おう。おかえり! もちろんじゃ。ダンジョンは楽しめたか?』
スルティアの元気な声が聞こえる。
『すっごく楽しかったの!』
『スルティアにお土産もいっぱい持ってきたわ!』
『次はスルティアも一緒に行こう! 案内するよ!』
みんながそれぞれスルティアに答えた。
『もちろん、オレもすげー楽しかったぞ。スルティア、お前のおかげだ』
『我儘を言ったのはわしじゃ。気にするな。さぁ、始めようではないか』
スルティアは照れたのか、すぐに話題を戻した。
時間もそんなにないからな。まぁいいか。
『ああ。やってくれ! ショータイムだ!』
オレがそう言ったのと同時に、武舞台上空にオレ達の映像が流れる。
公開生放送だ。
王も各国の要人も、当たり前ではあるが、これからの発言には責任を持ってもらおう。




