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異世界のヤツらに情報を制するものが世界を制するって教えてやんよ!  作者: 新開コウ
第2章 学園の支配者

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第44話 何でもやる

 目が覚めたとき、オレは両手両足を縛られ硬い床に転がされていた。



「な、なんだ!? 何が起こった!?」



 芋虫のような状態からもがいて、何とか体を起こし膝立ちの姿勢になった。


 突然の状況に混乱するが、そういえばオレは組の事務所で…。



「お、親父オヤジぃ!」



 オレを心配するような、部下の声。


 オレが気を失う直前に消えちまった若い部下の声だ。



「お、おお。お前も無事…だったか。どうなってやがる…」



 無事と言える状況なのかは分からんが、まずは現状を確認するために部下に話しかけようと声の方へ振り返った。


 そして、絶句した。



 オレの組の奴らが全員、縛られて、転がされている。


 オレのように体を起こしている奴もいるが、そろいも揃って暗い表情で下を向いている。


 何が起こって、こんなことに…。


 だが、絶句したのはそこじゃねぇ。


 フォニーニファミリーとユンベールファミリーまで縛られて転がされてやがる。


 嘘だろ?


 しかも、半端じゃねぇ人数だ…。

 何百といやがる。


 まさか、全員なのか?


 スラムの組織の人間、全てさらわれてんのか?



 背筋に、冷たいものが走った。


 何もしていないのに、息が荒くなっていくのを感じる。



 巨大な緊張感に押し潰されそうになりながらも、必死に周りを見渡す。


 洞窟の中なのか?


 出口は、上への階段がたった1つ。


 見張りはいないようだ。



「親父。ガキ共だ。例の学園のガキ共が、オレ達を拐いやがったんだ…」



 組の奴らが、うようにしてオレの近くに集まって来た。


 防具屋で会ったという報告のスルティア学園の生徒が、これを?



「なぜだ!? 穏便おんびんに済んだと聞いたぞ!」



 声を荒げて、実際に学園生と会った部下達をにらみつける。



「分からねぇ。分からねぇんだ…。何でこんなことになっちまったのか…」



 若い部下たちは泣いていた。


 何があったかは知らねぇが、完全に心を折られてやがる。



「スクワードォォォ! テメェの組かぁ!! テメェらがあの化物ばけもの共とめたのかぁぁ!!」



 フォニーニ組の組長が、縛られているとは思えないほどの速さで這い寄ってきた。


 目を血走らせ、つばを飛ばし、憎悪ぞうおとも憤怒ふんぬとも怨嗟えんさともとれる表情で叫んでいる。



「揉めてねぇ。揉めないように退いたんだ。そうだな?」



 オレが問いただすと、若い部下達が首を縦にふる。



「ふざけんなクソがぁ! テメェらのせいで、テメェらのせいで…、もうオレ達はおしまいだ!」



 フォニーニ組の組長ともあろうものが、自暴自棄になっている。


 そこまでの相手なのか?

 こいつらの組だって、バックには貴族がいるはずだ。



 フォニーニの組長と揉めていると、階段の方から音が聞こえてきた。


 その音が聞こえた瞬間、洞窟内が一瞬で静かになった。  


 あれだけ騒いでいたフォニーニの奴も、顔から汗を吹出させて黙り込んでいる。



「これで王都内にいるのは全員だな。手分けしたおかげで早く片付いたよ」



 子供の声と、ドサッという音が聞こえた。


 直後、音のした辺りに突然、気絶した男が現れた。


 ユンベール組の組長だ…。


 オレ達もこうして連れて来られたのだろうか。



「ちょっと。後でこの魔法、私にも詳しく教えなさいよね! アレクばっかり、ずるいわ!」



 女の子供のような声もする。


 姿は、見えないが。



「ずるいはひどくない? 僕は魔法を覚えやすい代わりに、ミニドラと話したりはできないんだよ?」



 また、別の子供の声だ。



「ただいまー。ちぇっ。最後の獲物はセイにとられちゃったの」



 少し舌足らずな、幼い声もする。


 やはり、どこにいるか分からない…。



「ワシが最後か。それにしても、これは便利じゃのう。獲物は逃げも隠れもできん。で、これからどうするんじゃ?」



 老人のようなしゃべり方をする若い女の声。


 恐ろしげなことを言っている。



 このまま好きにされてたまるか。


 オレは意を決して奴らと話すことにした。



「テメェら! オレ達に手を出すってことは、オレ達の後ろにいる貴族に手を出すってことだ! そこんところ分かってんだろうなぁ!?」



 できるだけ。できるだけすごんで見せる。


 こういうのは、どれだけ強気に出られるかが重要だ。

 状況は関係ねぇ。おどすことで相手が少しでも弱気になればこっちのもんだ。


 オレが奴らに対して声を上げると、一瞬洞窟内が静まった。


 その後、オレの組とは限らず、何人かの組織の人間が同様に奴らを恫喝どうかつした。


 気になったのは、それ以外の組織の人間が、オレ達を恐怖の目で見ていたことだ。

 フォニーニ組の組長でさえも。



 動悸どうきと息切れを感じる。


 奴らからはすぐには何の反応もなかったことが、緊張感をあおりたてる。



「はぁ、はぁ。何とか言えやコラァ!!」



 疲れてもいないのに、なぜか息があがる。

 それでもオレは、声を振り絞った。



 すると、どこからともなく、黒髪で茶色の目をしたガキが目の前に出現して、膝立ちになるオレの肩に手を置いた。


 ス、スルティア学園の制服。こいつが…。


 のどから、心臓が飛び出すかと思った。


 かろうじて声が出ることだけは抑えられたが、息もできないほどに驚いた。


 こんな、膝立ちのオレと同じ背丈せたけくらいしかないガキに、言葉に表せない恐怖を感じる。



「今説明するよ。ちょっと待っててくれるかい?」



 耳元でそうささやいたガキが、怪物に見えた。


 まるで突然空中に放り出されたように、心臓がヒュッとすくみ上がる。


 なかばパニックになりながら、オレは周りの様子を見渡す。


 いつの間にか、()()が全員現れていた。


 どうやら、それぞれ先ほど恫喝した人間の前に現れたらしい。


 スルティア学園の制服を着た、金髪に青い目の男のガキ、真っ赤な髪に茶色の目の女のガキ。

 冒険者らしき格好をした、顔色の悪い銀髪巨乳の美女。


 そして、葉っぱで作ったような服を来ている、背中に羽のある妖精らしき女だ。

 こいつが最もたちが悪そうだ。


 妖精の前に横たわる、確かフォニーニ組の構成員はすでにボロボロだ。


 楽しそうに笑っている、エメラルドグリーンの瞳の金髪の妖精は、見た目以外は悪魔に見えた。

 まるで、オレ達のことを玩具おもちゃとしか見ていないようだった。



「ねぇ、こんなに怖がらせる必要あるの? ベイラなんてやりすぎじゃない?」



 真っ赤な髪の女の子が、目の前の黒髪のガキに声をかけた。


 なんだ、優しい子もいるじゃないか。


 内心ホッとしていると、それを見透かしたように黒髪のガキがこちらを見て笑う。



()()()()のことを考えると、これぐらいはやっとかないとしたがってくれないだろ」



 これからだと?

 オレ達を拐ったのは、何かをさせるためか。


 これ以上こいつらの好きにさせてたまるか。


 オレは切り札を使うことにした。

 貴族から教えられた魔法だ。


 貴族からは緊急時のみ使うことを許されている。

 今使わずして、いつ使うのか。



 目をつむり、目の玉に魔法陣が出ていることが悟られないようにして詠唱を開始する。

 イメージするのは、火魔法の魔法陣だ。


 手と足を縛れば無力化できると思ったようだが、ぬかったな。

 魔法を使うのに、手も足も必要ない。


 平民をめ過ぎだクソ貴族。

 火だるまにしてやる。



 その時不意に、左手の小指に何かが走るのを感じた。


 なんだ? 後ろ手に縛られているせいで確認できない。


 いや、今はいい。速く魔法の詠唱を完成させる…。



「魔法の詠唱は認めない。もしやったとしても、オレの方が速いから無駄だよ。今みたいにね」



 黒髪のガキの声がした。


 今みたいに? 

 そう思うと同時、左手の小指が焼けるように痛んだ。



「あ? があぁぁぁっ!?」



 痛い。痛い。一体、何が?


 火魔法のイメージなんて吹っ飛んでしまうような、強烈な焼け付くような痛み。


 思わず、右手で痛む小指を握ろうと手が動く。



 だが、そこには、あるはずのものがなかった。



 ヌルッと、小指の付け根のところに右手が当たると、さらなる灼熱の痛みがオレを襲う。



「あ、あああぁぁぁ! オ、オレの指がぁぁぁ!」



 痛い。痛い。


 何をされたか分からない。

 いや、言葉通りなら魔法で指を落とされたんだ。


 あまりの痛さに、床を転げ回る。



「やろうと思えば、3秒とかからず全員殺せる。大人しく従ってくれ。そうすれば、悪いようにはしない」



 黒髪のガキの声が、冷たく響く。

 すでに悪いようにしてるじゃねぇか。



「クソが。ふざけんな…」



 我ながら、の鳴くような声だった。

 だが、奴はそれを拾ったようだった。



「そうそう。あんたらの後ろにいる貴族だけど、少なくともおおやけにはオレ達と敵対できないよ。さっき、王からこのスラムのことについて許可もらったから」



 その言葉を聞いて、やっとオレも悟った。


 オレ達は、もうどんな抵抗もできない。


 蹂躪じゅうりんされ、従う以外に、道はないのだ。



 フォニーニ組の組長が、オレに背を向ける変な動きをした。


 つい目がいったが、見なければ良かった。

 奴の左手の小指も、無くなっていた。






 ユンベール組の組長が目覚めたとき、やはり一悶着ひともんちゃくあったが、今はもう誰もガキ共に逆らう奴はいなくなった。


 オレ達全員、身にしみて理解した。

 抵抗は無意味で、奴らは全部分かった上でやってやがる。


 どうやら、奴らのリーダーは唯一ゆいいつの大人である冒険者らしき美女ではなく、黒髪のガキらしい。


 その黒髪のガキが、オレ達に向かって話す。



「3つの組織は、これまでつながってた貴族と完全に手を切れ。そしてそれぞれ、新たな組織としてオレ達のもとでスラムのために働いてもらう。拒否権はない」



 何も知らないガキが、言ってくれるぜ。

 それでめしが食えるなら、オレ達だってそうしている。


 どうせ死ぬなら、言ってやる。



「おいガキ。オレ達はな、生きるために貴族に従ってたんだ。貴族がオレ達を使って稼いだおこぼれで、オレ達は飯を食ってる。スラムのために働いてもよ、金にならねぇんだ。分かるか? テメェの言ってることはな、オレ達に死ねと言ってるのと変わらねぇんだよ」



 オレは吐き捨てるように言った。言ってやった。


 コイツの機嫌をそこねればオレは殺されるだろう。

 が、コイツの言うとおりにして死ぬくらいなら、言いたいこと言って死んでやる。


 スラムで生きるっていうのはよ、そんな生易なまやさしいもんじゃねぇんだ。



「金はオレが払う。最初はな。オレの金が尽きる前に、スラムを立て直す。スラムの全員に職を与え、無理のない税を取るんだ。あんた達はその税の一部を受け取り、めしを食う。安心しろ。今まで生きてきた中では最もいい暮らしをさせてやる。スラムの全員にな」



 オレの言葉を受けた黒髪のガキは、ニヤリと笑って平然と言葉を返してきた。



「…は?」



 ガキの言葉は絵空事としか思えないようなもので、オレはほうけた声を出すことしかできなかった。


 そんなことができるのなら、とっくに国がやっているだろう。


 だが、もし、できるのならば…。



「新たな組織とするに当たって、それぞれ組の名称を変更する。『警察』『消防』『厚生こうせい』だ。これから、それぞれの組織の役割について説明する」



 黒髪のガキが話を続ける。


 コイツの言うことは、絵空事としか思えねぇ。

 しかし、今はこのガキ共に従うしかないのも事実。

 どうせ死ぬなら、やるだけやって死んでやる。


 オレは痛む指を押さえて、前のめりになって話を聞くことにした。

 少しでも、生き残る可能性を上げるために。


 部下も、他の組織の奴らも黒髪のガキの話に集中することにしたらしい。


 ふん。そうさ、これまでもこれからも変わらねぇ。

 いつだって、そうしてきた。



 オレ達は、オレ達が生きるために、何でもやる。




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