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第9話 村の子供のピンチを救おう 前編

2020/9/1 改稿しました



 のどかな村だ。


 収穫の時期も終わり、一時的に少し落ち着いたこともあってか、村はいつも以上にゆったりした空気が流れている。


 この村は裕福というわけではないが、貧しくもなく、食べるのに困るようなことは酷い凶作のとき以外はまずないらしい。


 豊かな田舎いなか暮らしをしてるって印象だ。


 鍛冶屋とパン屋と教会があって、あとは村長も含めみんな農民。

 宿屋もない。店もない。行商人はちょくちょく来るらしいけど。


 オレの勝手なイメージとして、中世っぽい世界観と思ったりもしたけど、よく考えると地球の中世とかよく知らなかった。


 アカシャが知ってるかと思ったけど、アカシャが知ってるのはこの世界の全ての情報と、オレが知ってる地球の情報ってことが最近判明した。


 つまり、アカシャが知ってる地球の情報はあんまりない。

 すまぬアカシャ…。


 ま、地球で言うとどうとか難しいことは考えず、見たまんまの世界を楽しみたいと思う。


 地面を踏みしめる感触、土や草木の匂い、気持ちのいい風と太陽(っぽい何か)の光。


 いい…。



「セイくんはすごいでちゅねー。1歳にもならないうちに、こんなに歩けるなんて天才だなぁ。だっはっは」



 いつもやんちゃというか豪快な感じのジード父ちゃんが、完全に親バカすぎる台詞せりふで話しかけてきた。



「とーちゃ、だぶー」


「い、今、父ちゃんって言ったのか? もう一回、もう一回だセイ! 凄いぞ!」



 父ちゃん、楽しいねって言おうとしたけど、ダメだった。

 アカシャのおかげで異世界言語もバッチリなんだけど、発音はまだまだ練習が足りないな。


 今、オレはジード父ちゃんと散歩をしている。

 アル兄ちゃんとジル兄ちゃんは、オレ達が出かけるしばらく前に遊びに出かけ、アン母ちゃんとセナ婆ちゃんは家で留守番だ。



『今の発音は、そこそこ上手く出来てたんじゃないか?』



 父ちゃんとの会話の成果について、アカシャに念話で聞いてみた。

 まぁ、なんとなく答えは分かっているんだが。



『前より良いですが、まだまだ練習不足ですね』


『やっぱり、そうだよなぁ』



 アカシャはオレの左肩の上に座っている。

 触れてないと念話ができないからね。


 離れて普通に会話も出来るけど、前に家族にセイは何と喋ってるんだろうなって言われちゃったからな。

 家族になら、ちょっとくらい変に思われても構わないけど、念のために控えている。






 父ちゃんと会話をこころみながら散歩を楽しんでいると、アカシャがとんでもないことを念話で伝えてきた。



『ご主人様、アル様とジル様と遊んでいた子供が2名、森に入り迷子になっております。また、森の奥にいるゴブリンの1匹が2人の匂いに気が付き、向かっているようです』


『え、それってヤバいんじゃないのか?』



 オレは焦って確認した。

 アカシャの抑揚のない淡々とした声だと、どれくらいの危機なのかが分かりづらい。



『このままだと、2人はゴブリンに殺されるでしょう』



 想像してたよりずっとヤバいじゃねぇか!



『助けないと! くそっ、こんなことなら早く転移の魔法覚えておけばよかった!』



 転移の魔法の習得は、習得の難易度など(・・)の理由からアカシャに後回しにするよう助言されていた。

 納得のいく理由だったからその通りにしたけど、裏目に出ちまった。



『こんなことがあるかもしれないから、お止めしたのです。大丈夫です。幸い、ゴブリンはかなり離れた距離から近づいています。お任せください』


『最悪、切り札を使ってでも助ける。いいな』



 魔法を使うのがバレるのを気にせず、かつ切り札を使えばどうにでもなるはずだ。

 オレはいざというときの覚悟を決めた。



『かしこまりました。しかし、そのような事態にはなりませんのでご安心ください。むしろ、ちょうどいい機会です』


『ちょうどいい機会? 何のことだか分からないけど、そんなに余裕のある状況か?』



 切り札は脳に負担がかかる。乳幼児のうちに使うのは危険だということは、神様からもアカシャからも聞いている。

 とはいえ、人命には換えられないだろう。



『作戦をご説明いたします。まずは…』






『兄ちゃん達を巻き込むのがいいってのか!? ダメに決まってんだろ!』


『巻き込むとはいえ、ご主人様も含め全員無傷で助かるのです。切り札よりよほどいいでしょう』


『やりようはいくらでもあるんじゃないのか?』


『ご主人様の安全を考えず、ご主人様が魔法の秘匿を考えなければ、どうとでもなります。しかし、それは先ほどの作戦が失敗してからでも遅くはないのです』



 アカシャの作戦と説得を聞いて、考えてみる。


 人命のことを考えれば、魔法の秘匿はどうでもいい。

 だけど、なりふり構わないのは作戦が失敗してからでも間に合うっていうなら、やってみてもいいのか…?



『分かった。全員無傷が条件だ。父ちゃんは何とかする』


『かしこまりました。では、わたくしはアル様とジル様の元へ』



 アカシャが左肩の上から消えた。


 アカシャはこの世界のどこにでも自由に移動できる。


 移動しなくても全ての情報は手に入るし、オレ以外には見ることも触れることもできないので、普段アカシャはあえて移動をする意味はない。


 ただし、アカシャはオレが許可した人間には見えるようになる。

 だから、今回のようにアカシャを誰かに接触させたいときに使ってもらう。


 オレの方からしか連絡取れなくなるのが不便だけど、仕方がない。

 なんで念話をいつでもどこでもできるように神様に頼まなかったのか。

 もう覚えていないけど、アカシャの性能の盛り方に限界があったから、そのせいだろう。



 オレは、一度大きく息を吐いて気合いを入れてから、アカシャに言われた方向に走り出す。



「とーちゃ、とーちゃ」


「ああ、セイっ! 父ちゃんを呼んでくれるのは嬉しいが、あんまり走ると危ないぞぉ」



 軽く身体強化をかけて、目的の場所に上手いこと父ちゃんを誘導するように走る。


 予定通り、父ちゃんはオレを追いかけて来てくれた。


 眼球に現れてる魔法陣は見られないように気を付けないとな。

 非常事態だから、見られても仕方がないけれど。


 このまま父ちゃんを誘導し、大人に助けを求めるために鍛冶屋に向かって走っている、カールという少年に見つけさせる。


 たまたま鍛冶屋の近くを散歩しててラッキーだった。


 鍛冶屋のおっちゃんより父ちゃんの方が足が速く、強い。

 それに、父ちゃんにはオレがこっそり魔法を使いやすい。

 当然違和感などは感じるだろうけど、状況が状況だし、家族にはバレても構わない。




 いた。こちらの方向に走ってくる猿顔の少年。

 あれがカールだ。


 向こうも気づいたみたいだな。



「おーい。おーい。アルとジルの父ちゃーん!」



 カールが手を振り、叫びながら近付いてくる。



「ん? 鍛冶屋んとこのカールじゃねぇか。血相変えて走ってきて、どうしたんだ?」



 凄い勢いで走ってきたカールに、父ちゃんもただ事ではない雰囲気を感じたようだ。



「ケイトとサムが! 森に入っちまって出てこねぇ! オレは、助けを呼びに!」



 息も絶え絶えに状況を説明するカール。

 よほど全力で走ってきたのだろう。

 任せろ。後は、オレと父ちゃんが片付ける。



「クソ! なんてこった。カール、よくやった! 後は任せろ!」



 父ちゃんも血相を変えて、鍛冶屋のある方に向き直った。

 武器を取りに行くつもりだろう。



「とーちゃ! とーちゃ!」



 オレはここぞというタイミングで抱っこをせがむ。

 これで連れていって貰えるはずだ。


 身体強化を父ちゃんにかければ、剣をかついでオレを抱っこした状態でも普段より早く走れるはず。



「セイ! くっ、カール! セイのこと頼んだぜ!」



 父ちゃんはオレを抱っこするか一瞬悩んだ様子だったが、オレの面倒を見るのをカールに任せ、脱兎のごとく鍛冶屋に走っていった。


 マジかよ…。そうきたか。

 いや、まぁよく考えると普通そうなるよね。


 オレは膝に手をついて肩で息をしているカールの方を見やる。



「あれっ? なんだ!? なんか急に楽になった気がする…」



 カールが驚いたように自分の体を見つめる。


 そうだろうそうだろう。

 回復魔法をかけたからね。


 体力を完全回復する魔法はないので気休め程度にはなってしまうけど、再び走り出せる程度は楽になったはずだ。



「かーう、かーう」



 オレはカールに抱っこをせがんだ。


 父ちゃんは鍛冶屋に行って、剣をかついで森へ。

 カールはここから、オレをかついで森へ。


 たぶん何とか間に合うだろ。アカシャがいないから分からんけど、間に合わないなら介入してくるはずだから。


 すまんカール、キリキリ働け。

 必ず2人を助けるぞ。



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― 新着の感想 ―
赤ちゃんですか何か?流石に喋れなければコレ以上はって感じですね♪
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