どうやら死んでしまったらしい
初投稿です。
趣味で楽しんで書きたいと思っています。
拙い文章ですが、読んでいただけたら幸いです。
週1回、火曜か金曜に定期更新をしています。
2020/08/05 改稿しました
「すまん!」
気づいたら真っ白い世界にいて、真っ白い髪と真っ白い髭を蓄えた、真っ白い服を着たおじいさんに謝られていた。
さっきまでオレは自転車で通学しているところだったはずなんだが。
…どうやら話を聞くに、オレは死んでしまったらしい。
目の前の、神を名乗るじいさんの手違いによって。
神として許容できないほどの悪事を繰り返し、にも関わらず全く警察に捕まる様子のない悪人に、神の裁きとして雷を落としたらしい。
だが、自転車で近づいてくるオレを完全に見落としてしまっていて、巻き添えにしてしまったという。
いや、神様、それはうっかりじゃ済まされないミスでしょ…。
「奇跡的に生きてました、とかいうことにして生き返らせたりできないんですか?」
オレは平凡な高校生ではあるが、もちろん未練はある。
両親より先に死ぬなんて親不孝はしたくないし、やりたいことはたくさんあった。
それに、パソコンの中のデータを消さずに死ぬことはできない。あの中身を見られたら死ぬ。すでに死んでるらしいが。
「すまん…。生き返らせることができるのなら、してやるのじゃが…。神にも色々制約があってのぉ。できんのじゃ」
神様ががっくりと項垂れて言う。
こんなミスをするのは千年に一度あるかないかというところらしいが、だからこそ油断をしていたと顔を歪めている。
申し訳なさと後悔が滲み出ている。
神様だってミスをすることがあるのは仕方ないかもしれない。
でも、オレだって悔しいよ…。
どうしてオレだったんだよ…。
俯いて、ぐっと歯を食いしばり、拳を握りしめて震えながら理不尽に耐えた。
「お詫びにもならんが、そなたの望みはできうる限り叶えてやりたいと思っている」
オレはバッと顔を上げて神様を睨んだ。
だったら生き返らせてくれよ!と心の中で叫んだが、それはさっきすでに否定されている。
すでに死んでるのに、なんだよ望みって。望んでどうなるんだよ…
「む、さっき望んでおったではないか。とりあえず、そなたの両親にはこれ以上の不幸がないよう、加護を与えよう。また、そなたのパソコンのデータは今すぐ消去しておこう」
神様はオレの心の中が読めるらしい。
パソコンの中の黒歴史を消去することを強く望んでいたことがバレてしまった。
心の中で望みについて文句を言っていただけに、とても恥ずかしい気持ちになる。
「ぐっ、確かにそれは望みましたけど…。でも、生きてなきゃできない望みの方がずっと多いんですよ」
恥ずかしさを隠すために、ついつい神様に文句を付けるような言い方をしてしまった。
だけど、これは事実でもある。生きていれば望みなんていくらでもあった。
でも、死んでしまったら、残されたものの後始末以外、何を望めばいいのかすら分からない。
「ふむ、それは尤もじゃな。だが、さっきも言うたとおり、申し訳ないが生き返らせることはできん」
神様は真っ白い髭を撫でながら、きっぱりと言った。
だったら、今さら望むことなんて何もない。
望みが叶ったところで、オレは死んでいるのだから。むなしいだけだ。
死んでしまったということを実感し始めて、オレは絶望した。
再び俯き、嗚咽をこらえる。
「じゃが、そなたを転生させてやることはできる。できるだけ優遇した上でな」
だけど、続く神様の言葉には希望があった。
顔をあげて、少し潤んでしまった目で神様を見る。
真っ白い服のおじいさんは、ちょっと胡散臭いほどに優しく頷いた。
オレはしばしの間、神様の言葉を反芻しつつ、気持ちの整理を行った。
なるほど。転生をする上での望みを叶えてくれるのか。
それなら望みはありそうだ。
できれば生き返りたかったけど、できないものはしょうがない。
転生後の人生のために望みを叶えてもらおう。
オレはポジティブに考えることに決めた。
それから神様と色々話し合った。
今いる白い世界に時間の概念はないらしいけど、体感時間で丸一日くらいは話したのではないかと思う。
望みが叶うと言っても生き返れなかったように、神様にも制約があって、何でもかんでも望みが叶うわけではなかった。
お詫び以上に望みを欲張ることもダメらしい。
大まかに言うと、結果的にオレは記憶をそのままに、1つの能力を授かってゲームのRPGのような異世界に転生することになった。
「では、旅立ちの時間じゃな。前回の人生では、本当にすまんことをした。今度こそ、よい人生を送れるよう願っておるぞ」
神様は真剣な顔で改めて謝ってくれて、そして優しい笑顔で激励してくれた。
「はい。望みも叶えてもらいましたし、きっと楽しい人生を送れると思います」
もう気持ちの整理もついた。新しい人生を、大いに楽しもうと思う。
「最後に改めて忠告じゃが、そなたの能力は、いくらでも悪用可能じゃ。あまりにも酷いと感じたときは、天罰を与えざるをえん。くれぐれも、悪用はせんようにな」
「はい。気をつけます」
このことについては、神様ともさんざん話し合った内容である。
どの程度がダメで、どの程度なら許されるかというのは、日本で一般的に考えられる善悪の範囲と大きくは違わない。
オレが調子に乗ってバカなことをしない限りは大丈夫だ。
「うむ。それでは、送るぞ。さらばじゃ。努力は怠らず、がんばるのじゃぞ」
神様が手をかざすと、オレの体が光の粒に変わり始める。
最初は怒りを覚えたが、言葉の端々から愛情を感じた心配性の神様に苦笑しつつ、オレは手を振って別れを告げた。
「はい。さよなら。神様。がんばってきます」
調子に乗らず、努力を怠らず、もらったチート能力を活かして楽しい人生にしてみせますよ!
心の中が読める神様に、心から宣言した。
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