新たな仲間との旅立ち
「モンちゃん!モンちゃーん!」
眼前に横たわる愛しのサル。ピクリとも動かない。必死に声をかけるが、『へんじがない。ただの しかばね のよう』だ。動かなくなったモンちゃんに駆け寄るオレに、男が不思議そうな顔をしながら言った。
「どうして、そんなに悲しいそうな顔をするんです?目の前の化け物は倒して差し上げたのに。もしかして、自力で倒したかったとか。さすがは勇者様だ。とてつもない向上心、感心いたします。」
いや、そういうわけではない。確かに、ほかの人から見れば襲われているように見えるかもしれない。しかし、このオレとモンちゃんの間にできた絆は本物だ!...のはずだ。それに、この子に扉を壊してもらおうと言う算段が...
「それとも、まさかこんなケダモノに名前を付けて可愛がって、しかも旅に連れて行こうとか思ってたわけじゃないでしょうねぇ。モンちゃんでしたっけ?それってあの扉の名前ですか?門にかけてモンちゃんですか?それともぉ、モンキーの...」
「そんなわけねーだろ!ただの空耳だって!」
しまった。なぜか知らないが張り合ってしまった。なんだかこの感覚に覚えがある。そして、すまないモンちゃん。モンちゃんの名前すらも意地のせいで守ってやれないオレを許してくれ。
それにしても、この男はどこから来たんだ。天井には人が一人通れそうな穴はないし、他に入り口としては扉が二つあるだけ。破壊された跡がないことから、どこかを壊してきたとも思えない。どうやったら、ここに来れるんだ。それに誰なんだ。とんがった黒髪に細身だが筋肉のしまった体。中性の美形な顔立ちに青い目。170前半ぐらいの伸長。背中には体に似合わないサイズの大剣を背負い、真っ黒の服装に身を包んでいる。髪の色を金髪にすれば、まんま『クラウド』じゃないか。どう考えても、主人公っぽいだろ、アイツのほうが。てか、元ネタ考えれば主人公だろ!
「それより、どうしてくれんだよ!お前のせいでオレの作戦がパーじゃねーか!」
「作戦って何か考えてたんですか?」
「モンち...じゃなくて、あのサルの化け物に扉をぶっ壊してもらおうと思ってたんだよ!あの扉、何やってもビクともしないから、さすがにあの巨体のパンチなら壊せるんじゃねってやってたとこなのによぉ。」
すると、男は扉の方に向かって歩き、取っ手を握った。自然に取っ手を引く。力が入っているそぶりも見せない。すると、扉は糸がほどけるようにスルリと開いた。
どうしてだ?何をやっても開きもしなかったのに、なぜアイツには開けられたんだ。
男がニヤニヤしながらこちらを見ている。人を小馬鹿にしたような目。声の主を思い出させるような、あの人をおちょくる態度。
「こんな扉も開けられないんですかぁ?大した力ですねぇ。さすが、勇者様だ。御見それいたしましたぁ。」
うぜぇ!マジで、ウゼェ!ほんとにそっくりだ。しゃべり方といい、なんといい。というより、コイツってもしかして...
「オマエって、あの声の主なのか?」
「え... てっきりもう気づいてると思ってたんですが... 本当に鈍い方なんですね... これでは先が思いやられます。残念ながら、この世界には頭をよくするドーピングアイテムはなさそうなので、地頭ぐらいは自力で鍛えてくださいね。」
いちいち一言二言じゃなくて、十言ぐらい余計なんだよ!腹立つなー!いや待て。わざわざ実態で出てきてくれたんだ。しめた!なら、一発かましてやろう。
「いやぁ~。声の主さんだったんですか。すいません。私の頭がよくないばかりに気付かなくて。その節はどうも。」
「なんだか気持ち悪いですね、そう下手に出られると。」
「いえいえ。今まで生意気なことばかり言ってましたが、本心では本当に感謝しておりました。そのぉ~。一つお願いがあるのですが、ちょっと後ろを向いていただけませんか?あそこにあるやつが見えます?」
オレは男に無理やり後ろを向かせた。がら空きの背中。今までさんざんやってくれたじゃないか。一発殴られたって文句言うなよ!ウオォォォーー!!
オレのこの手が光って唸る!オマエを倒せと輝き叫ぶ!シャァァイニングフィンガァァァーーーー!!
「あ、100G見っけ!」
男はしゃがみ、オレの一撃は空を切る。
「あれ、何してるんですか?」
男が振り返り、固まったオレを唖然とした顔で見ている。そして...
「ぷぷぷ......ブッハハハハハ!!!何やってるんですか、勇者様ぁ!ほんとにいつも私を楽しませてくれますねぇ!しゃいにんぐふぃんがー!?何ですか、それ!? アハハハ!! しかも、固まってるじゃないですかぁ。恥ずかしんですか?どうなんですか?ですよね。恥ずかしいんですよね?ちゃんと言ってくださいよ! ハ・ズ・カ・シ・イ・デ・スって!」
広間中に響き渡る甲高い笑い声。赤面で動けないオレ。
神様。お願いだからオレを殺してくれ!もう、いいだろ。もう、オレに恥ずかしい思いをさせないでくれ。地獄でもいい。ただ、その場合はこの目の前の阿呆も一緒に連れてってくれ!
「フゥ...... さぁ、もういいでしょう。いい加減気づいてくださいよ。勇者様の頭の中は全部、私には筒抜けなんです。何を考えようと、私にはすべてわかるわけですよ。何せ、私があなたをここに連れてきたのですから。」
オレは急に冷静になった。どういうことなんだ?まったく理解できない。オレは派遣勇者の仕事で送られてきたはずだ。それが、なんでコイツに連れてこられたことになる?
「ここが理解できないのは、わかっていたことです。では自己紹介からしましょう。初めまして。私はこの世界の外から来た者。「サクシャ」です。物語の語り手とでも言いましょうか。あなたの物語を書いている者です。」
何を言っているんだ?オレはここにいる。その物語を書いている? へ? どゆこと?
「まぁ、そんな深く考えないでください。あと、あなたはしゃべれるんですよ。私だけにですがね。いったんは私のことを神様ぐらいにでも思っておいてください。厳密には違いますが、ほとんど差はないので。」
「なんで、オレを連れてきたんだ。それにどうしてオレは、オマエ以外にはしゃべれない?」
「説明すると長くなるんで、それに、おいおい説明するっていうのも面倒なんで、くじ引きで選んだとでも考えてください。なぜ選ばれたかなんてどうでもいいことですし、知っても意味ないんで。」
「待て、待て。オマエにはどうでもよくても、オレには大問題だ。じゃぁ、これだけは教えてくれ。どうやったらこの変な状態を治せるんだ?」
途端にサクシャの目つきが変わった。
「いずれわかります。その時が来たらお力をお貸しください。これだけは、あなたの力が必要なのです。」
これ以上聞いてはいけない気がした。なぜかはわからないが、サクシャという男から出る気配がそうさせた。この先に、オレ自身が見たことも無い次元の物語がある。その物語の書き手と主人公。その二人でしか成しえないほどの何かがあるのだろう。困っている人を助けるのが勇者の務め。頼られている以上、手伝うのが勇者の本分だ。
「とりあえず出るか。あと、サクシャじゃ呼びにくいから、なんか別の名前ないか?」
「では、今の格好からして『クラウド』というのはどうでしょう?」
「オマエ、意味わかって言ってるだろ。この物語の存亡の危機が、今のお前の一言で訪れたぞ!」
「アレ、ばれました?では、サクシャという意味の『アーサー』というのはいかかでしょう?」
「それもいろいろ危ないとは思うが... まぁ、いいだろう。」
ここからが、真の旅立ち。若干、旅の目的が不透明だが、それも旅の醍醐味と思えばそんなものだろう。予想を遥かに超えて大変な旅になりそうだが、オレは無事に元の世界に帰れるのだろうか...
「勇者様、行きますよ。」
アーサーが扉を開けて待っている。その奥には上へ上へと続く階段。その階段を登り切った先に、また扉がある。
「この扉が最後です。勇者様、覚悟はよろしいですか?」
当たり前だ。覚悟は何度でもしてきた。今更、兜の尾を締めることは無い。
扉に手をかけ、ゆっくりと押し開ける。まぶしい光が目に入り込んでくる。やっと出られた。これでもう外に出られたんだ!!
そう思ったのは、つかの間だった。
第九話、お読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか。
今回のお話で少し出てきた「クラウド」というのは、FF7の主人公で、本名を「クラウド・ストライフ」といいます。私はFF7をプレイしたことないのでわかりませんが、スマブラではかなり強キャラで、私の良き相棒でした。いずれ、FF7のリメイク版が発売されるそうなので、その時にストーリーに触れてみたいと思います。
FFついでにもう一つ。FFシリーズ最新作、FF15がGEOで安かったのでクリアしてきました。バグが多かったり、ストーリーが雑だとか言われて酷評が多かったですが、私の時はバグに遭遇することも無く、ストーリーも若干の違和感だけで、いい話だと思いました。涙もろいタイプなんで、最後のスタッフロールでは涙ぼろぼろ流してました。久々にきれいなストーリーに出会えた気がしてうれしかったです。
さて、物語の展開を一つ大きく変えた出来事がありましたが、依然としてこの先を考えておりません。「やる気あんのか」だって? 興味ないね。






