見舞い
目を覚ますと、見たことのない天井が広がっていた。
「イテッ!」
体を動かすと、ピリッと痛みが走る。まだ、あの一撃のダメージが残っている様だ。寝返りするたびに背中に電撃が走る。
「あー…ベッドから出たくねぇ。」
「お目覚めですか?」
声の方を向くと、ジーコさんが扉の向こうに立っていた。
「あ、はい。でも、まだ体が痛くて…寝返りを打つのもやっとなんですよね。」
「そうでしょうね。ご主人様は、他の魔王様方の様な魔法系は苦手ですが、力だけで見れば右に出るものはいないでしょうから。手加減された力とはいえ、その程度で済んで良かったですね。」
おいおい、どんだけ強いんだよ。
「朝食の準備はできているのですが、こちらにお持ちしましょうか?」
「ありがとうございます。」
ジーコさんが部屋を出て行くのを待っていたかのように、ゼンズさんが入れ違いで申し訳なさそうに入ってきた。
「昨日はすみませんでした。手加減したつもりだったのですが、どの程度の力でやればいいのかわからなくて…」
「いえいえ。何を仰いますか。こちらこそ、自分の未熟さを感じる良い機会でした。ありがとうございます。」
「そう言っていただけると、気持ちも少しは紛れます。」
落ち着いたのか、ゼンズさんの体が一回り大きくなった気がする。
「さて、では本題の方に入らせていただきたいのですが…」
本題とは、一体なんのことなのだろうか。昨日の腕試しのことか?それとも、ほかのことなのだろうか。
「その前に、今日は療養としましょう。お体の調子はまだよくないみたいですからね。」
「お気遣いなく。回復魔法とかでチャチャっと回復して貰えば、全然いけますよ。」
そうだ。色々な話を聞いてきたが、この世界には魔法のある世界。回復魔法ぐらい、魔王でも使えるだろ。よし、これで訓練を再開できる。
「そのことなんですが…」
また、ゼンズさんの体が一回り小さくなっていた。何か、言えないことでもあるのだろうか…まさか!?
少し間を空けて、ゼンズさんの口が動く。
「私の感じを見て、お察しかもしれませんが…そうです。この世界には回復魔法、及び蘇生魔法の類はありません。」
回復魔法がないだって!?そんな世界あるのか?この世界は機械工学などが発展した、機械都市には見えない。機械都市には、魔法概念の存在しない世界は多いが、なぜこの世界には無いんだ。ここは、そんな風には見えないのに…
「この世界は第一世界。別名、『素の世界』。一つ目に作られた世界は、特別な要素を待たず、あまり手を加えられてはおりません。この世界を作られた『サクシャ』の思惑か、基本的に、魔法の類は存在しないのです。」
「では、この城にかかっていた物は何なのですか?アーサー曰く、空間魔法と束縛魔法の掛け合わせがかかっていたはずですが。」
「まぁ、魔法ではないのですがね...」
魔法じゃない!?あれが魔法でないなら、超能力か?それとも、そういう土地柄だとでもいうのか?
「元々、魔法の概念が生まれたのは、第三世界。すべての世界は、第一世界をもとに作られています。『五行思想』という考えを御存じでしょうか。『五行思想』とはある世界のある国の自然哲学で、『万物は、木・火・土・金・水の五つの要素が、互いに影響しあってできている」という考えです。この『五行思想』という考え方に、人間が出す微量なオーラを掛け合わせたのが、第三世界、及びその他の魔法概念や超能力の世界です。魔法にもちゃんとした真意があり、この『五行思想』を人間自らが自発的に生み出そう、という意図で生まれたのです。実際のところ、第三世界では魔法はあまり発展せず、初の魔法主体の世界となったのは第五十一世界なんですがね。」
「じゃぁ、あの時の術式は?」
「お忘れですか、我々が何者かを。魔王ですよ。世界の常識や心理なども、いくつかを除けば我々には通用しません。用途に制限はありますが、自己防衛のためや仕事の上での都合によっては使用を認められております。我々の存在こそが、世界の最終防衛線ですからね。ま、いとも簡単にアーサー様に破られましたが。回復魔法に関しては、魔王たる我々には必要ありません。自己回復の力の備わった体ですから、時間と共に傷は瞬時にふさがります。それに、死にませんしね。」
死なない体か...そんな便利なものが自分にもほしい。
「ちなみに、今でこそ回復系魔法は頻繁に使われていますが、本当は最難関の呪文なんです。」
「え...ほんとですか?」
「お暇でしょうから、本でも持って来ましょう。待っていてください。」
そう言って、ゼンズさんは部屋を後にした。
まぁ、何とも優しい魔王さんだ。魔王にやさしいなんて言葉を当てはめたことは、一度もない。優しさの真逆のような存在だろう。じゃぁ、今まで他の世界で戦ってきた魔王たちも、ゼンズさんみたいな人たちなのだろうか。それに、いくら数を制限された存在とはいえ、百人以上はいるんだろう。それだけいれば、『黒』にだって簡単に勝てるんじゃないのか?
「そう簡単な話だといいですね、勇者様。」
ったく...
「聞き耳でも立ててたのかよ。いい趣味してんな!」
「お褒めにあずかり、光栄です。」
コイツとの皮肉合戦には勝てる気がしねぇ。
「で、どこから聞いてたんだ?ゼンズさんのところからか?それとも、ジーコさんの?」
「いいじゃないですか、そんなこと。それより...」
アーサーがこちらに向かって、手のひらを見せる。すると、手のひらから緑色の光が伸びて、オレの額に直撃した。
体の痛みが消え、しっかりと動く。麻痺もしてない。
回復魔法か...今頃することにとてつもない悪意を感じる。
「そういうことは昨日のうちにしてくれよ!なかなか、きつかったんだからな!」
「お元気そうで何よりです。本心としては、このまま放置して熱血バトル小説に、修行編として仲間入りしてほしかったのですが...時間は有限というわけです。ちょっと、ショックですが、早く強くなっていただかなければいけませんので。」
アーサーはそのまま手を伸ばし、白い羽のペンダントを手に取った。ほほ笑むように、頬を少し緩ませてじっと見つめると、手から丁寧に下した。
「これだったのですね。シンもなかなか粋なものを渡したわけですね。」
「ん?お前が渡せって言ったんじゃないのか?」
その質問には、答えが返ってこなかった。
「それは、『白蛇の羽』というものです。不思議ですよね。蛇に翼なんてないのに。ですが、それは本物です。正真正銘、白い蛇の羽です。べつに、作られたところを見たわけではありませんが。そのペンダントには特別な力があります。もう気づいているでしょう。それとも、身近なことになってしまって、気づきませんか?」
「声...だろ...?」
「お見事。そう。この羽はあやふやな存在。あるはずのない物の形。装着者の状態をゆがませるのです。健常者は異常に。異常者は健常者に。何とも不可解なものです。なので...」
そこまで言うと、アーサーはペンダントを取り外した。
「...」
分かっていたことだが、声が出ない。
「と、いった具合です。この物語のタイトル的には正しいのですが、なにぶん不具合の方が多いので、お返しします。」
ペンダントが首にスルリと戻る。声も戻る。
「一体、これは誰が作ったんだ?」
「さぁ。それが、私にもわからないのです。第九百五十三世界でいただいたものなのですが、くださった方も、だれがいつ作ったのか分からないと言っておられましたから。」
そうこう話していると、ゼンズさんとジーコさんが帰って来た。
「アーサー様。おはようございます。あ、勇者様。お体はもう大丈夫なのですか?」
「おはようございます、ゼンズ。勇者様もすっ転がっている場合ではありませんので、回復させていただきました。こちらの方が楽でしょう。私の算段では、ここ三日のうちにヒュノプスを倒せるほどになっていただきたいので。」
「そ、それは無茶な...」
「いえ、やっていただきます。できますよね、勇者様!」
オレには、その笑顔の裏に殺人鬼の姿が見えるんだが...気のせいだろうか...
「さ、早く食事を済ませて、続きを頑張ってきてください。」
目を点にしているオレたちをよそに、アーサーはそのまま部屋を出ていった。
「ゼンズさん。」
「はい、なんでしょうか。」
「正直に聞かせてください。アーサーの事、どうお思いですか?」
「アーサー様...うーん。尊敬はしています。ただ...」
「ただ?」
「ただ...ちょっと苦手です。」
オレとゼンズさんの心の距離が、大きく縮まった気がした。
第二十四話、お読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか。
最近、強風の日が多いですね。体重は軽いほうなので、本当に飛ばされるかと思いました。よく、傘で空を飛ぶシーンなどをゲームやアニメで見ますが、本当にできるのでしょうか。傘の耐久度の問題だとは思いますが、出来そうだとは思います。空を飛ぶことが自発的にできる世の中になってほしいです。




