自己強化
アーサーの突拍子のない提案で、魔王であるゼンズさんに稽古をつけてもらうことになった。とはいえ、レベルの差は圧倒的。もしかしたら、ゼンズさんのデコピン一発で『ただのしかばね』にクラスチェンジしてしまうかもしれない。まぁ、そこらへんは理解してくれていると思うが、それでもちょっと怖い。
「勇者様、何を止まってらっしゃるのですか?」
「あ、すいません。すぐ行きます。」
簡単には引き下がらせてはもらえないようだ。とにかく、トイレとでも言って、時間でも稼ぐか…しかし、そんな下手な手に乗ってくるはずもない。んー。どうする。
「到着しました。ここがいいでしょう。」
頭の中で問答を繰り返している間に 、どうやら目的地に着いたようだ。
野球場一つ分ぐらいの大きさ。ただ、周りを見渡しても何もなく、ただの空き地と言う方が正しいだろう。
それにしても、なおさら引き退りにくくなったな。
「あのー…」
直感的にこれだけは聞かなければいけない。そう感じていた。こんなところで死ぬのはまっぴらだ。トレーニングと言っても、ライオンがウサギを強くすると言っているのと変わりない。
「死にません…か…?」
ストレートすぎるだろ、オレ!まるで、ゼンズさんが殺し屋みたいな言い方じゃないか。思いっきり言葉の選択をミスしてる。流石に、怒るだろう。
恐る恐るゼンズの顔を覗き込む。口元には力が入っているのか、歯が見えている。
終わった…はい、終了!オレの人生ここまで。お疲れ様でした!
ふふッ
ん?
「私があなたを殺すですって?ありませんよ、そんなこと。ちゃんと手加減はできます。ここであなたが死んでしまったら、アーサー様に面目が立ちません。というか、私が消されます。まだまだ私もやることがあるので、ここで死ぬわけにも行きませんしね。」
よかったー。まぁ、親切にしてくれた人を疑う俺の品性が問題なんだけどな。
「いやぁ…その…なんかすいません。」
「そうも思いますよね。目の前にいるのは、腐っても魔王なんですから。」
「腐ってもだなんて、そんな…」
魔王と笑っている自分が、色々な意味で怖い。こんな経験ができるだけ幸せなのか、不幸なのか。もう、訳がわからない。
「さぁ。始めましょう。時間は待ってはくれませんので。とりあえず、好きに攻撃してきて下さい。」
好きに攻撃して来いだって?本当にいいのか?今はレベルが低いとは言え、今までの勇者生活、伊達に過ごしてはいない。ある程度、相手の動きは読めるし、距離の詰め方、急所の探り方、いろんな技術を習得してきた。打ち勝てるとは言えないが、それなりに警戒してもいいんですよ、ゼンズさん。
「いいんですか?これでも、何年も勇者生活経験してきているんです。レベルはさておき、生半可な強さじゃないですよ。もしかしたら、コテンパンにするかもしれませんよ。それでもいいんですか?」
「もちろん、構いません。さぁ、どうぞ。」
ゼンズが「かかって来い」と言わんばかりに大きく手を広げている。
「じゃぁ……遠慮なく!!」
お互いの目の色がガラリと変わった。邪気を捨て、温厚に振舞っていたゼンズはその気迫を取り戻し、オレも戦士の感覚をまとう。
武器は特にない。拳のみ。上等だ。
この細い体では、速さはあっても力ある一撃は望めない。作戦と言っても、一人じゃ戦略もクソもあったもんじゃない。そんなオレが取れる作戦は一つ…
『速攻』
文句はいらん!攻撃あるのみ!
足で地面を蹴ると同時に、距離を一気につめる。
「うん。いいスピードです。」
そのスピードのまま、懐に飛び込む。大事なのは一撃目。細身のこの体では、力ある一撃は望めない。できることは、今のスピードを一撃目にのせること。
全神経を右手に集中させる。一定距離に着くとともに、体の軸を捉え、腰をふり、スピードを拳に乗せる。
そして放つ一撃目!
ドン!
悪くない感触。ある程度のダメージは望める威力だろう。
続けて、その速さを保ったまま二撃目、三撃目。方向を変えて、四、五、六。敵に休む間を与えず、自分の持てる力のありったけを叩き込む。
生半可な一撃では倒せない。そう思うが故に、拳の一振り一振りに全神経を費やしていた。費やしすぎていた。ゆえに、気づかなかった。迫り来る脅威に。
「攻撃は最大の防御」ということわざがある。これは大きな間違いだった。攻撃と防御は全くの別物だった。
背後からの一撃に気づかなかった。体が大きいということは、手も長いし、足も長い。攻撃範囲が広い。目の前にいるはずなのに、背後から攻撃されるという状況を理解できないまま、俺の体は空を舞っていた。
気がつくと、仰向けに地面に投げ捨てられていた。ぼんやりとした視界のせいで、自分に起きたことが夢だったのではないかと錯覚しそうになる。体を起こそうとするも、頭の言うことを頑として聞こうとしない。
「じっとしておいて下さい。ちょっと強く頭を打っただけですから、すぐ動けるようになります。」
言われてみれば、頭が痛い。体も。痺れて感覚はないのに、節々がズキズキと悲鳴をあげている。
「どうなったんですか、オレは。」
「それは見事に空を舞っていましたよ。」
やはり、オレはゼンズさんの一撃を受けて、空中に投げ飛ばされていたのか。一撃でノックアウトとは、何とも情けない。
「正直言いますと、いい方だと思います。問題は山積みですが、あなたの勇者生活も伊達ではないということも理解しました。久々で疲れたでしょう。今日はここまでにしましょうか。動けますか?」
体から出る汗が止まらない。俺を中心に湖を作るかのように流れ出す汗。気が飛んでから何分経ったのかわからないが、息も荒いまま。痺れる手足に痛む体。こんな感覚も久しぶりだ。本当に目の前の大男が敵じゃなくて良かった。
「お恥ずかしいんですけど、連れてってもらえます?」
「でしょうね。」
魔王に担がれる勇者。あ〜。格好悪い。こんな姿、アーサーにだけは見られたくない。
そう思う時に限って、出会うものだ。俺の姿を見て笑うアーサー。それが今日最後に見たものだった。
第23話、お読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか。
主人公が自己強化しだしたところで、自分も「強さが欲しい」などと思い始めました。率直にいうと
スーパーサイヤ人になりたい
魔法使いとかでもいいのですが、自分の得意な呪文が回復魔法とかだったら、なんかショックじゃないですか。ネトゲでも、白魔法師は必要だけどあまり面白くないとして、少なくなったりもします。事実、とあるゲームで回復系ジョブのみを使ってたら、いろんなパーティが誘ってくれて、気付いた時には他のジョブも強くなってました。でも、やっぱ面白くない!
その点、スーパーサイヤ人は空も飛べる。破壊神と並ぶくらい強い(場合がある)。気の力で人の位置や強さもわかる。体の大きさに、パワーが比例しない。などなど、 魅力的な力がいっぱい!あと、金髪カッケー。
時代はスーパーサイヤ人。まぁ、それより大金持ちになりたい。




