現存する世界
ゼンズの目が鋭く光る。
「理由といっても、もう理解されていることでしょう。『黒』の出現です。『黒』の出現により、我々は勇者の数を増やすことを余儀なくされました。」
ゼンズは手に持っていた電子端末を机に置いた。すると、そこから壁に向かて光が伸び、映像を映し出した。
「黒の出現は想定内ではあったのです。人の負の感情。それが『黒』の真相。『黒』は第一世界の誕生の時から、存在はしていました。しかし、今ほどの力は持ち合わせていなかったのです。なにせ、発生源が少なかったのですから。その発生源となっているのが、あなた方『マリオネット』なのです。」
オレたちが、『黒』を生み出し続けていたのか...
人間の中から溢れ出る負の感情。それが、今のこの世界を作り上げているのかと思うと、とてつもない罪悪感が心を包んだ。
「あ...あの、別に気になさることではありません。生きている以上、多彩な感情を持つことは当たり前の事。悪いことでもなんでもなく、むしろ良いことなのです。」
肩を落としたオレを見てか、優しい言葉をかけてくれたようだ。
「人は、負の感情を乗り越えて成長するもの。成長無くしては人にあらず。『黒』の感情も大切な意味を持っているのです。だからこそ、危険視はしていたものの、『黒』を抱える人間を排除しようとまでは想っていませんでした。また、『マリオネット』が増えれば、『黒』も増える。それは理解に足りることでした。なので、『魔王』を増やし、監視を強めていたのです。」
「じゃぁ、監視していたのに、なぜこんなことになってしまったのですか?他に、何かあったのではないのですか?」
「はい...『黒』の発生源の増加。おっしゃる通り、原因はそれだけではありません。と言うより、本当の原因は他にあるのです。『黒』の暴走。それが本当の原因です。自身の『黒』に耐えきれず、そのまま黒に飲み込まれたしまった存在の事を指すものです。身も心も真っ黒になってしまうことから、『黒装束』と呼ばれています。『黒装束』の誕生。それも、予期していたことではあるのです。対処法は特にないため、それこそ処分する他ないのですが、ある時、変わった『黒装束』が現れたのです。」
アーサーがの方から、冷たく黒いまなざしを感じた。聞いてほしくないのか、それともその存在を目の敵にしているのか。良くはわからないが、特別な感情を肌で感じた。
「その『黒装束』は、初めの頃は他と変わりなかったのです。第十五世界。この世界とは違い、人工物や高度な文明があふれる世界でした。その男は、それこそただの『マリオネット』でした。役割は会社員。務めていた会社は倒産。おまけに身内の死が続き、心が『黒』に侵食されていたのでしょう。『黒装束』となり、『黒』から立ち直ることをあきらめ、自殺しました。そのはずでした。その日の五日後、突然、その男が現れたという情報が、十五世界の魔王の耳に入ったのです。『マリオネット』には、見た目がそっくりのものがあります。ですが、確実に同世界には存在しません。世界を『物語』と捉えていますから、<同じ顔の人間が二人以上存在してはいけない>となっているのです。確認のために派遣された者も、その眼で確認していました。その男は、まぎれもなく一度死んだ男でした。」
「続きは、私が話しましょう。」
なぜアーサーが?あいつが一番言いたくなさそうだったのに、聞くことさえイヤそうに感じていたのに。オマエが話す必要があるのか?
「アーサー様のお手をわずら...」
「いい。私が話す。」
鶴の一声に、部屋の中は静まり返っていた。
「勇者様。ここから先のことは、出来ればもう少し先でお話ししたかったのです。ですが、ここまで来たらには本末を話しましょう。」
ゼンズが下を向く。
「その男はゼンズの言うとおり、死んでいるはずなのに生きていたのです。そして、その日が惨劇の始まりでした。『黒装束』の男が現れたのは、第十五世界の中心地。現れたところが悪かった。その『黒装束』には、変わった力がありました。それは『黒』の伝染です。もともと、『黒装束』は『黒』のオーラを身にまとっていることが原因で、その名がついたのです。周りにいる人間は、その影響で考え方が後ろめたくなってしったり、最悪の場合は『黒』の汚染が始まったりします。ただ、例の男はその強さが尋常ではなかったのです。男の『黒』は、近くにいる人間を一瞬で染め上げ、その範囲は時間と共に広がっていきました。その世界の魔王が気づいた時には、人だけでなく、世界が黒く染まっていたと言います。その世界は隔離されましたが、もう...」
「どうなったんだ、その世界は?」
「『黒』の暴走が増え、隔離もままならなくなり、今は放置状態です。世界ごと黒くなってしまったのは、その世界だけではありませんでした。その後、第七十五世界、第三百四十七世界と、『黒』に染まる世界は増えていきました。隣接している世界から染まるわけではないようで、そのため把握が難しく、間に合ったと思ったころには、他の世界がが黒に染まると対抗策もないまま、今に至るわけです。『黒』の感染は人間だけにとどまらず、生物すべてに感染。黒に染まった生物は、感染させることは無いものの、狂暴になっており、以前では見られなかった行動をするようになっていたのです。おそらく、今回のヒュノプスも黒化したのでしょう。そういった黒化生物に対抗するために、『勇者』の数を増やさざるを得なかったというわけです。実際はうまく行っていませんが。」
「勇者様。アーサー様が言った通り、これが今の現状です。我々も何度も『黒』を止めようとはしたのですが、まったく情けない有様です。ですが、アーサー様を責めないでください。アーサー様は何度も...」
「やめてください。結局、私は何もできなかったのです。何もできないということは、何もしてない事と同じこと。ゼロを何回重ねてもゼロです。私は、無力でした。」
答えられない。答えられるわけがなかった。なんと声をかければいいのか分からない。アーサーも必死にここまで来たんだろう。でも、その努力も無意味だった。今、アイツが平然を話しているのが不思議なぐらいだ。
「今現在、黒に染まっていない世界はいくつあるんだ、アーサー。」
「三つです。第一世界、第二世界と第三世界。すべての世界の中で、この三つは最重要の世界。ここが落ちれば、もう世界は黒一色となります。」
「この世界がまだ黒化していないのは、アーサー様が必死に守ってくださったおかげなのです。アーサー様が何も無さってないなんてことはございません。」
ゼンズの言葉に、アーサーは何の反応も示さなかった。自分の無力さを心の底から悔いているのだろう。だから、話したくなかったのか。
「そうだ、ゼンズ。これから、勇者様も強くならなければいけません。彼は、黒を打ち倒すことができる最後の希望なのです。一つ、稽古をつけてはもらえませんか?」
「私なんかでよろしいのですか?他の魔王の方が適任かと。」
「他の者は当てになりません。ここに来たのは何かの縁とでも考えてやりなさい。」
「ご命令とあらば。」
オレが口を開くまでもなく、このまま稽古をつけてもらうことになってしまった。しかも、魔王にだ。魔王に強くしてもらう勇者なんて、前代未聞だぞ!
「ゼンズさん、本当にいいんですか?お忙しいんでは...」
「いえ。『黒』の暴走で良かったことがあるとしたら、ちょっと暇になったってことぐらいですから。それに、アーサー様の頼みです。断ることもありません。」
「良かったではないですか。魔王に強くしてもらうなんて、滅多にできる経験ではないですよ。やってもらいなさい。」
話がとんとん拍子で進んで、現状が理解できていない。アーサーの目的は『黒』の根絶だろう。そして、オレはその最後の希望。オレがやらなきゃ世界が終わる。だったら、やるしかないのか。でも、出来ることならオレはそんな大役務めたくはない。オレより適任がいるはずだ。
「本当に、オレじゃなきゃダメなのか?もっと適任のヤツが三世界もあればいるだろ。」
「いいえ。あなたでなきゃいけないのです。さ、時間は待ってはくれません。ゼンズ。お願いします。」
強制的にやらされることに納得できない。でも、ウダウダ考えていてもアイツはやらせるだろう。仕方ない、やるしかないか...
「では、ゼンズさん。よろしくお願いします。」
「はい。分かりました。」
オレとゼンズは部屋を後にした。
「勇者様。申し訳ありませんが、あなたには強くなるほか道はないのです。一言で『黒』を倒すと言っても、至難の道。さらに、我々だけでは勝ち目がありません。他の魔王に手を貸してもらわなければ勝てないのです。しかし、彼らはゼンズの様にいい人ばかりではないのです。力には力を。力を示し、彼らを力づくでも仲間にしなくてはいけません。修羅の道ですが...ご武運を。」
全世界が『黒』に染まるまで、あまり時間はない...
第二十一話、お読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか。
疲れた...




