実家からの旅立ち
起きますか?
⇒はい
いいえ
なんだこれ?これが…その…臨時システム?ポ〇モンじゃん!これ、あれだろ。<はい>と<いいえ>の二択しかないってことだよな...いや、確かに人生は<はい>と<いいえ>の二択だよ!でも、明らか露骨すぎるじゃん!せめてさ、最近はやりの<あり寄りのなし>みたいなビミョウな回答できないの?
困惑とはこのことを言うのか。オレはこの一瞬で悟った。これからの旅の大変さを。読者はRPGゲームをやったことがあるだろうか。基本、ゲームの主人公は皆、無口だ。何も言わない。解答方法もYes or No の二つのみだ。しかし、なぜ彼らがそれでも生きてこられたか、お気づきだろうか。それは近くに最大の理解者がいたからだ。ポ〇モンでいうところの博士やライバルしかり、ド〇クエやF×2のパーティーメンバーしかり。基本的に黙っていてもテキトーにこいつらが、シナリオのガイドラインを示したり、話を進めてくれたりする。だが、ここはリアルだ。確実に言えることは、<はい>と<いいえ>だけでは生きられない。
チクショウ!これじゃぁ、この先の旅はどうすんだよォ!あぁ、おなか痛くなってきた。いや、でもこのまま<はい>と<いいえ>を素直に言うとは考えにくい。<はい>を選んだところで、おそらくこの場に一番適した形の文章に変換されるはずだ。って、これフラグか?ええぇい!なるようになっちまえぇ!
「はい」
そのまんまかい!ちょ、ま...「はい」そのまんま言ってるやん!
「もぅ、かたくなっちゃって。緊張してるんですもの。無理ないわね。朝ごはんの準備しておくから、準備できたら降りてきなさい。」
母親と思われる人物はそう言って部屋から去って言った。
とりあえずは乗り切った。もぅ、なんだよ、コレ。どんな罰ゲームだよ。あの選択肢、もろに口から出たじゃん。「はい」選んだら、文字通りの結果だよ...あぁ、くそ!でも、クリアしねーとこの世界からは出られねーんだ。やるしかないか...
つらい、だるい、いきたくない。そうネガティブに考えても前には進めない。やれるようにやっていこう。じゃあ、まずは身辺調査だ。読者の皆さんは、「目が覚めたスタート」のあと、何をする?そのまま、すぐ次の目的地に行くのもいいだろう。しかし、私たち、言わば派遣勇者が第一にすべきことは、この体の身辺調査だ。身長体重から年齢。趣味や特技。性格、性癖何から何までわかること全てを調べなければならない。我々は、こちらの世界にやってくることを「転送」と呼んでいる。確かに私たちのデータをこちらの世界に送り込むという意味では転送なのだが、正確には「憑依」というべきだろう。
では、よいタイミングなので、この勇者業について少し話そう。我々は前にも話したとおり、5000人ほどの勇者で成り立つ「派遣勇者協会」といったようなグループだ。その中には新米勇者からえりすぐりのエリート勇者まで、多種多様な勇者が存在する。また、事務部や整備部なども存在する。次に転送ボードについてだ。先ほど紹介した通り、転送ボードはあちらの世界(魔王のいる世界)とこちらの世界(派遣勇者の世界)をつなぐ架け橋だ。分子化タイプや電子記号化タイプなど様々だが、基本的に役割は同じ。ここで、先ほど言った「転送」と「憑依」についてだが、転送ボードは実はそんなにすごいものでは無い。実際に転送を行う場合、次の説明が正しいだろう。
「クリアしないと帰れない」
と言ったことがあるが、これを正しく説明すると...
「クリアし(て魔王を倒して、その残量魔力を利用し、逆転送用座標機を動かして、こちらの世界から引っ張り上げてもらわ)ないと帰れない」となる。
この様に、転送を行うということは、行きだけの片道切符を渡されたようなもので、「帰りたければ自分で何とかしな!」というシステムで動いている。転送には膨大なエネルギーを必要とするので、こればかりは仕方ない。ということで登場したのが「憑依」システムだ。転送で最もエネルギーを必要とするのは、身体の送信だ。身体形状を保ちつつ他世界に送るには繊細な作業が必要になるため、多くのエネルギーが消費される。その点、憑依は感情、記憶、知識などといった、コード化しやすい部分のみを、他世界のどっかの誰かさんに刷り込むだけなので、非常に簡単。コスパも最高。おまけに失敗率もほぼ0%となれば、上層部がこぞって使うのも無理はない。では、読者の皆さんは「え、憑依でよくね?」と思うだろう。あまい‼シロップのシロップ漬けよりあまい‼
では、おさらいしよう。転送と憑依の明らかな違いは、体ごと行けるか行けないかだ。そう。要は、設定を気にしなくていいかどうかだ。体ごと行けるとなれば、「どっかから、フラっと出てきた勇者が魔王を倒しました。ちゃん♪ちゃん♪」となる。も一つすごいのが、レベルまで引き継げるため、無双モードで降臨日初日でクリアできることだ。だが、憑依の場合、こんな夢の世界は待っていない。とりあえず、レベルは憑依対象に依存する。基本平均はレベル5ぐらい。ホ〇ミを覚えているかいないかといったところだ。ボス戦ではレベル50ぐらいは欲しいと思うと、なかなか時間がかかる。次に、憑依対象の身体情報だ。では今回憑依した子で説明しよう。身長―だいたい160~165ぐらい。低い!低い奴のメリットとしては、回避率が高いことだが、基本的にラスボス戦では全体攻撃ばかりのため、身長高めの大剣などの高火力装備を持てるほうが良い。また、「素早さ高いからいいじゃん!」と思う方、それも間違い。身長低いからって、足速くないよ!ム〇サキバラ君めっちゃ速いじゃん。一歩の差はでかいよ。
次、体重―54キロ。悪くない。だいたい標準といったところか。ここで体重が、身長から割り出される理想体重より低いと、低HP、低防御力となり、残された道が魔法使いぐらいになってしまう。魔法使いがかっこいいって?俺が思うに、あれは最弱無能ジョブだ。実際の魔王たちは大量の魔力をため込んでいるため、魔法態勢が尋常じゃなく高い。さらに、こっちはMP管理をしなければならないのに、向こうはほぼ無限のMPをふるってくる。あと、魔王だって回復呪文使うからな!泥沼試合だよ、魔王戦って!筋肉量も平均か...他にもアレルギーだとか、病持ちだとかいろいろあるが、そんなのは後から母親にでも聞こう。
そして最後、性格。これだよ、きついの。転送前にも304と話したが、厄介な性格持ちは面倒だ。魔王攻略の記憶は、体の持ち主がそっくりそのまま行ったこととして脳に記録され、他人が体をコントロールしていたなんて憑依解除後には気づかないようになっている。とはいえ、パーティーに対して臭いセリフを吐いたりだとか、そういうことで宿主のその後の勇者生活に差支えが出てはならない。さらに、宿主の知り合いに「お前、それ、何デビュー?」みたいな恥ずかしい結果を招くようなことも避けなければならない。たとえ、宿主が勇者っぽくなくても、その性格を守りつつ勇者をしなければならないのだ。派遣勇者の性格にもよるが、基本的にはクールでちょっぴり正義感のあるやつが楽だ。ていうか、どっちみち<はい>と<いいえ>しか使えないから関係ないか。こんな時にだけ役立つな、この設定。
全ての確認は終わった。自分の部屋の中に、たいして冒険に役立ちそうなものはない。自宅に長居なんてしたくないし、早く終わらせたいから、さっさと次に進もう。
下へ降りると母親と思しき人がテーブルの前に座っていた。そして目に涙を浮かべてこちらを見ている。
あぁ、こういう展開か。めんどうだなぁ。こういうときってめっちゃしゃべってくるんだよなぁ
「あなたが旅立つなんて、想像にまでしてなかったわ。今まで何度もやめさせようかと思っていたんだけど、これも私たち家族の宿命なんでしょうね。あなたのお爺さんも......(以下省略)」
長い。ひたすらに長い。てか、オレその人のじいさん見たことねーよ
そう言って目の前の女性は1時間も長々と話続け、最後にこう質問した。
「長々と話したけど、最後に聞かせて。本当に魔王退治に行くの?」
いかないって選択しねーだろ、普通。まぁ、一回だけ断ってみるか。ていうか、一回断ってみたかったんだよなぁ。
はい
⇒いいえ
「いいえ」
「そう、なら行かなくていいわ。村長には謝りに行くから。まあ、わかってくれるわよ。もしわかってくれなかったら、隣町に引っ越しましょう。」
えっ、ちょっと持って...ダメダメダメダメ、ぜったいだめ。普通、こういうのって意地でも行かせるもんじゃないの!?とりあえず、行くか行かないか聞くとかじゃないの!?イヤちょっとっ待って、魔王倒さないと帰れないじゃん!あんたの息子、一生<はい>か<いいえ>しか言えない体になっちゃうじゃん‼
オレはこのままどうなるんだ。魔王退治に来たのに、その前に母親という大きな壁が、中ボスが現れてしまった。こちらが使える攻撃は<はい>と<いいえ>のみ。いったい、オレはどうしたらいいんだ―――!
To be continued…
前回のことなんですが、読み返すときに気付いたことで、主人公がギンって決めたところが、途中から全部ギルになってて、あわてて修正しました。今回も絶対あると思います。ちなみに、新聞で誤字脱字とかを見つけて報告すると、お礼の品ではないですが、何かもらえるらしいですよ。嘘か本当かはやったことないんでわかりませんが... 私のほうでも、間違いや読みにくいところとか、指摘してくださってもプレゼントはお送りできませんが、修正し、改善の糧にしていきます。今後とも、この主人公ともどもよろしくお願いします。