消せない白
まぶたの裏が白くなり、そのまぶしさに目を覚ます。スポットライトの光線が目に入り、やっとのことで自分が元の世界に帰って来たことを自覚した。
あの後、シンはどうなったのだろう。無事助かった...なんて展開になるはずもない。
「やっと、お戻りになりましたか。」
奥の方から、聞きなれた声が聞こえてくる。
スポットライトから離れて、声のもとへと進む。暗がりから扉があらわれ、声はその奥からしていた。扉に手をかける。
「待ちなさい。少し、そこで私の話に答えてくれませんか?」
しんみりとした声が話しかける。扉から手を放し、オレは一歩下がった。
「向こうで誰かに会いましたね。その彼は何か言ってましたか?」
短い間の出会いと別れを思い出すと、込み上げてくるものがあった。
結局、オレは何をしに行ったんだ。きっかけはさておき、一人の男の死をマジマジと見ていることしかできなかった。オレは勇者のはずだ。なのに、なぜ...なぜ体は動かなかった。なぜ、あの男の背中を見ていることしかできなかったのだ... ヒトを助けるのが勇者ではないのか。
無力だった。あまりにも無力すぎた。そんな自分を殴りつけたい。自分が死んで、シンが代わりにこちらに来ればよかった。そこまで考えていた。
「最後に一つ、アーサーに伝えてほしいことがある。」
シンのセリフがよみがえる。
オレは口を開いた。
「『あなた様の白い光をいつまでも信じています』...と」
「そう...か...」
しばらくの間、扉を挟んだ二つの部屋に沈黙が訪れた。何も言いたくなかった。
ゴゴゴゴゴ...
扉がゆっくりと開き、奥から見慣れた顔が現れる。
「おかえりなさいませ。勇者様。」
「ただいま。」
アーサーの目がほんのり赤く腫れている... その眼の先にいるオレは、それ以上口を開けることはできなかった。
アーサーが前を指さし、無言のままその先へ向かって進んだ。
アイツもわかっているんだろう。オレが向こうで何を見てきたか。何に触れてきたのか。
互いに口を開かないまま、ずんずんと道を進んだ。そして、たどり着いた先に一人の男が立っていた。
「長い旅路、お疲れさまでした。どうぞ中へ。」
男の背中に追従して進む。目の前の男が誰なのか。アーサーとどんな関係なのか。いくらでも疑問は出てくるはずだった。でも、その時のオレは何も考えようとはしなかった。
男に連れられて入った空間は、石レンガの建物とはまるで合わない設計だった。白い壁に白の長机。机の上にはプロジェクターが置いてあり、机の周りを六個の椅子が取り囲んでいた。
「好きな席に御着き下さい。何か飲むものでも持ってまいります。」
そう言うと、男は部屋を出ていった。
椅子に腰かけても、まだオレたちは口を開けようとはしなかった。ボーっと下を見て、男が返ってくるのを待つ。それが今の自分ができる最低限の事だった。
ガラガラと遠くからティーワゴンを押す音が聞こえてくる。その音で目を覚ましたように、アーサーが口を開いた。
「シンの...私の友の最後に付き合ってくださり、ありがとうございました... 勇者様は、なぜ私が行かなかったのかとお思いでしょう... 怖かったのです。彼に会うのが。また、黒を見るのが。いずれは戦わなければならない。そうわかっていても、もう見たくないのです。」
アーサーの声は震えていた。
「私が行けば、おそらくシンは助かったでしょう。ですが、私の知らないうちに入り込んでいた恐怖が、それを止めたのです。行くな、行くなと。その気持ちに勝てなかった。友を助けられなかった。」
机に落ちる水の玉。必死にこらえているのか、たった一粒だけ。
「彼を巻き込み、彼を殺した。そんな私に世界を救うことなんてできるのでしょうかね。」
「さぁ、どうだろうな。」
オレの口が静を破った。
「オレも、シンを連れて帰ろうとしたよ。あの人からは、まだまだ知りたいことがあった。世界のこともだが、もっと人間的な部分をだ。でも、頑として来ないと言っていたよ。自分の役目を全うする。そう言ってた。それに、その眼の中にはお前を疑うような曇った視線はなかった。あの人はオマエを信じてる。長い間、ずっと信じていたんだ。オマエには、それに答える義務がある。違うか、アーサー。」
「...」
「自論だが、人にはそれぞれ『できること』と『できないこと』があると思う。シンにはシンの『できること』があり、それはたとえ神に近しい存在でも成しえない事なんだ。あの人は自分なりの『できること』を成し遂げたんだ。オレたちも自分にしかできないことを精いっぱいやるしかない。」
「...」
アーサーは一向に黙ったままだった。
「お話し中、失礼致します。」
さっきの男が、部屋の中に入っていた。ワゴンの上からソーサーとティーカップをオレたちの目の前に置き、紅茶を入れ始めた。
「不躾とは承知ですが、言わせていただきます。」
男はお茶を入れ終わるとこう続けた。
「迷いは誰にもあるものです。迷いの迷宮に入ってしまえば、抜け出すのには多くの時間と気力を要します。自分の選択は正しかったのか。本当に望んだ結果がこれなのか。悩んでも悩んでも、答えは出ません。受け入れるしかないのです。受け入れて、そのうえで最善の道を目指すのです。つながれた思いを無駄にしてはなりません。渡されたバトンを手放してはいけません。今の自分は、それまでの全てに支えられて成り立っているのです。」
男の言葉が深く胸に刺さった。グサリと刺さった言葉は少し心を痛めた。
「人は転んでも立ち上がります。それはなぜか。手があるから。足があるから。立とうという意思があるから。あなた様方がどのような窮地に立っていらっしゃるかは理解しております。だからこそ、立とうという意思を見失わないでください。その意志はあなた一人のものではありません。それを願う皆の思いなのですから。」
ただ、心配だった。大切な友の死だ。乗り越えてほしいが、乗り越えろと言うほうが無茶な話だ。今のアイツは、自分自身で作り上げた友の亡霊に取り憑かれている。それを一瞬で振り払えなんて...
「皆の思いか...」
アーサーが口を開いた。
「勇者さ...いや、ギン。オマエの目に我がかけがえなき友は何色に映った?」
力強い言葉が押し寄せる。
「白色...混じりけのない純白だ!」
「フフッ...そうか。まだ、白く光っていたか...」
アーサーは涙を流していた。だが、泣いていない。笑っていた。
「勇者様。ご迷惑をおかけしました。見失っていたのですね、私は。自分を。自分が何に支えられているのかを。もう、大丈夫です。迷いません。道を閉ざしません。この身に宿る万の思いを繋ぐために。」
消えかけていた炎が、また燃える。以前よりも強く。
シンさん。あなたの友はまだ、白く光っています。この輝きが黒くなることは無いでしょう。この白は『消せない白』ですから。
「アーサー様。ギン様。向こうで主がお二人の事をお待ちです。あっと。その前に淹れた紅茶が冷めてしまってます。すぐに新しいのを...」
「いいえ、かまいません。勇者様!せっかく淹れてくださったのですから、つべこべ言わずちゃんと飲んでくださいね!」
「ヘイヘイ。わかってるよ!」
いつもの憎まれ口がなぜか心地よかった。
口に紅茶を含む。すっかり冷めていて、正直苦い。でも、なぜだろう。ほんのり暖かい気がした。
第十九話、お読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか。
さて、やっとです。やっと旅立てます。ここまで19話。何してたんでしょうねぇ、一体。読んで下さる皆さま、長い苦渋の道を付いて来て下さり、ありがとうございます。その皆様こそ、『勇者』です!
では...私はパズルとドラゴンが出てくるソシャゲが大好きで、重課金者です。まぁ、自慢できることではないのですが...その例のゲームなのですが、今回のコラボもカキンカキンカキン。魔法の石をザクザク生成して、狙った一番当たり枠が出ないのなんの。石のもとにも予算があるので、楽しいガチャガチャタイムも、悲しみと共に悲劇の時間に早変わりといった感じでした。交換機能の追加で交換によって一応は手に入れることができて、そこのところはうれしかったです。でも、何か違う。オレは、交換してほしいんじゃない。ガチャで手に入れたいんだ。「他の人は持ってないのにオレは持ってる」っていう優越感がほしいんだ!交換機能なんて...くそくらえ!!!!




