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ワールド・リ・クリエイテッド ~縛られ勇者伝~  作者: オニオンスープナイト
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糸繰の塔

 オレには何の反応もできなかった。初めて聞くこと。アーサーの正体。目の前の老人の悲しき人生。一言でも聞き逃すことが罪のように感じた。だからこそ、ここまで口を挟むことはしなかった。


「アーサーはどのような男なのですか?」


 他に聞くことはあったろう。まだ聞きたいことも多い。でも、このことが聞きたかった。


「アーサーか...変わった男だよ。自分のことは出会った時の一回以外一度も口にしたことは無かった。他にも、彼の『サクシャ』と言う存在についても、口にしたのはあの一度きりだけ。必要以上に話すことが禁止されているのか...そのことさえも言わなかった。私たちを自身を色で表した彼だが、彼は自分のことを『筆』だと言った。通常では理解できない「サクシャ」という存在を無理やりでも理解するには一番の言葉だろう。」


 老男は大きく深呼吸をして呼吸を整え、また口を開いた。


「ともに旅をしている間も、自分の役目だけは何があっても見失うことは無かった。訪れた世界によっては、幻惑魔法や特殊な薬剤によって自身を見失いそうになったことはあったが、アーサーはいつも何かぶつぶつと言って、それらをはねのけていた。そんな堅実な男だったが、性格にはそんなところは見えなかったよ。口を開けば冗談に生意気な言葉、人をあざける様なことばかり言う。何度か鬱陶しいと思わせることはあったが、不思議と悪意だけは感じなかった。無邪気な子供が遊び半分で言う。そんな程度に感じさせるのだ。」


「それって、本当に鬱陶しくなかったのですか。」


 そう聞くと、老人の顔が少し緩まった。


「フッ そうかもしれないな。でも、憎めない。悪い気持ちにさせない。それが、彼のすごいところだ。自分の抱えているものの重さは、他人に見せない。その代わり、旧年の知り合いかのように腹の中をすべて見せてくれる。気持ちのいい奴だよ。」


 少し、そこはわかる気がした。あいつはいつだってオレを馬鹿にしたりしていた。気分を悪くすることはあったが、苦しくはなかった。ヒトリにはならなかった。あの洞窟も、城も、一人で進まなければいけないとなると、相当な道のりだっただろう。もし、自分一人で進むことができたとしても、暗闇や見知らぬ場所に一人取り残されることは、どんな仕打ちよりもつらい。人は一人では生きていけないもの。だからこそ、誰も近くにいない孤独感はぼんやりとした、ぬぐい切れない不安を感じさせる。アーサーがいたから、感じなかった。ずっと近くにいたから、前へと進むことができた。


 老男、シンは私の頭の中を見透かしたようにこう続けた。


「彼は絶対にすべてを見捨てない。弱きを見捨てず、強きも助ける。彼の目には本当にすべてが平等に映っているのだろう。彼があの時言っていた少年が君なら、助けてあげてほしい。それは、最後の希望と言われた君に頼んでいるのではない。今、アーサーという男とともに旅をしている一人の少年に頼んでいる。私ももう長くはないが、彼も長くはもたない。彼は黒に触れすぎた。いくら『筆』でも、黒に触れすぎれば筆先は黒くなり、すべての色を濁らせる。だから、その時は君が白になってあげてくれ。彼が選んだ君ならばできる。」


 反論はしなかった。自分がどれほどまで必要とされているのか、今までで一番強く認識することができたから。


「この塔は崩れる。この塔に移って50年。長い間守ってきたが、ここ最近の増大する黒の力に、私はもう抵抗する力を持ち合わせていない。ただ、この塔を黒に染めるつもりもない。黒に染まれば、また黒い人々が世に増える。黒は伝染し、より大きな黒を生む。そんな世界は見たくない。私は、マリのような光り輝く笑顔を持った世界が見たい。ここにいる<マリオネット>達には本当にかわいそうなことをする。ここにいる<マリオネット>たちは意識を持たぬ存在。だが、見ただろう。あの少女の笑顔を。あれほどまでに美しい笑顔を作れるのだ。その笑顔が黒く染まることなどあってはならない!」


「ここをどうなさると言うのですか?」


「この塔を壊す。」


 決意に満ちた一言だった。人が、目の前で死ぬと言っているのだ。止めるべきなのはわかる。でも、止められない。消えることのない覚悟の炎。その衰弱した体の中で煌々と燃え滾る炎が見えたのだ。止めるなんて無粋なことはできない。


「そうだ。君にこれを渡すのだった。」


 そう言って、懐からペンダントを取り出した。


「アーサーが、もし君が来たときは渡してくれと言って置いて言ったものだ。」


 白い羽のついたペンダントは汚れ一つなく、明かりのように暗い部屋を照らしていた。


「これを肌身放さずつけていなさい。きっと、何かの役に立つはずです。」


 老男はペンダントをオレの首にそっとかけた。


 何かが変わった感じはない。ただ、おそらくこれが<あるもの>なのだろう。


「体が消えかかっている。もう行く時間なのだな。」


 ふと体を見ると、足元から体が透け始めていた。


「本当にそれでよいのですか?今ならどうにかなります。思いとどまって、私の来た場所に戻りましょう。あなたからは聞きたいことがまだまだあるのです。」


 抑えていたつのる思いが、口から噴き出した。まだ先の見えないこれからの旅。自分がやるべきことが何なのか。いまだによくわからない。だからこそ道しるべがほしかった。


 ドグォーーンッ


 けたたましい音と共に、塔の壁の一部が崩れ落ちた。


「良いのだ、コレで。もし、私がそちらに行ったところで、もう役には立てん。オマエには見えていないだろうが、この背中はもう真っ黒に染まっている。実を言えば、ここでオマエと話していられたのも、最後の力のようなものなのだ。この役目を果たせずして死ぬことはできぬ。それだけを思って生きてきた。ようやく終わったのだ。自分の死に場所くらい、自分で決めさせてくれ。」


 足もほとんど透明になり、手も消えかかってきた。シンのことをそれでも掴もうとするが、空気のように触れるものを透かしていった。


 ドグァーーンッッ


 塔の屋根も飛び去り、外から二人の姿が露になる。黒い煙。話の中で聞いた黒い煙がそこにはあった。煙は渦を巻き、こちらに迫ってくる。


「少年。名はなんと言う。」


 老男は煙の方を向きながらそう言った。


「ギン...です...」


「ギンか。私の名と似ているな...ギンよ!最後に一つ、アーサーに伝えてほしいことがある。」


『最後に』などと言う言葉を使わないでほしかった。だが、何も返す言葉はない。


「『あなた様の白い光をいつまでも信じています』と...」


「わかりました。はっきりと伝えておきます。」


 そう答えるしかなかった。


「さらばだ、ギンよ!最後に真の人間と話せてよかった。アーサーを、この世界を頼んだぞ。」


 この言葉と同時に、オレの意識は途切れた......













「オレが話し終わるまで行儀よく待っていてくれてありがとうな、黒。オマエもその黒でオレを覆いたいんだろ。そうは行くか!オレは黒には染まらん!たとえ、身も心も黒に染まったとしても、魂まではゼッタイに染まらん!」


<暗い...冷たい...痛い...怖い...苦しい...悲しい...>



「絶望の権化よ!人の意思をなめるな!人の魂をなめるな!体は朽ちても、思いはつながる。思いが朽ちても、魂がつながる。それは<マリオネット>も<ヒーロー>も変わらぬ。人の持つ力だ。すべてを飲み込めるなんて、思うなよ!」


<壊したい...つぶしたい...切り捨てたい...無くしたい...消してしまいたい...>


「そう、言うな。黒も人の感情。その黒を飲み込む白も人の感情。安心しな!オレが、オマエを包み込んでやる!」







 黒は白に消えた...

 第十八話、お読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか。

 懐かしのアニソンとか、特撮の歌って聞くとなぜかウルっとしませんか?忘れてた少年の日の思い出を思い出させてくれて、あの頃思ってた自分なのかなって感じたりします。歌詞がいい曲が多いんですよね。最近のはメロディーがかっこいいけど、歌詞が...ってやつもあって。そこのところは少し悲しいです。ちなみに、私の少年時代は「ウルトラマンコスモス」ですね。「君にできる何か」という曲なのですが、何度聞いても涙が出ます。今も思い出して涙が...

 純粋だったあの頃に帰りたいものです。


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