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ワールド・リ・クリエイテッド ~縛られ勇者伝~  作者: オニオンスープナイト
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黒色

 次第に脳裏に浮かびあがる、あの頃のマリの顔。表情のパレットには、暗から明。様々な色が輝いていた。しかし、その中には二だけ色がなかった。白と黒。この二つが何を意味するかは分からない。ただ、この二色だけが存在していなかった。その黒が彼女の今の顔にあった。他の色を呑み込み、何色にも染まらない色。黒色。


「あなたと別れてから、どれほどの時間がたったかしら... 長かったわ。とても...とても...」


 声にも黒色が移りこんでいた。彼女だと認識できるのは面影のみ。それも失われていれば、化け物と何の違いもない。


「この煙...止められないの。ずっと、ずっと、体から溢れてくる。絶え間なく。私にまとわりついてくる...」


 彼女が原因だということは言われなくても見てわかった。もしも私に正義の心や、勇気と呼べるものがあれば、言葉にして彼女の行為を問いただすことができたのだろう。


 できるわけもないのだ。黒く重い空気。そこから感じる恐怖感。悲鳴とともに押し寄せる死のイメージ。何よりも、目の前の彼女に対する謝罪...


「......ご...めん...な...さい...」


 口が開くと同時に、流れ出た。


「...ごめん...なさい...」


 あの時といっしょだ...


「ごめんない...ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい...」


 呼吸することを忘れ、体はその言葉をひねり出すことにだけ力を使っていた。無尽蔵に。その行動に死もいとわなかった。


「変わらないのね...」


 彼女が口を開いた。


「なにも...あの時のまま...あなたは謝るだけ...他に何もしない...許しを請うだけ...」


 私の口は謝罪を辞めなかった。彼女が話している間も、ひたすら謝り続けていた。耳だけは、彼女の言葉をつかんでいた。


「まだ、やめないのね...」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「そうな...なら話してあげるわ。私がなぜこうなってしまったのか。」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「これで、少しは謝ることの無意味さを知りなさい...」


 私の口が止まった。彼女の話が聞きたかった。この黒い煙の正体が何なのかを、理解できるのは私だけなのだろうから。


「私が生まれた時からすべては始まっていたわ。村では、『生まれた時から笑顔でない赤子は不吉な存在』とされていたの。私はもちろんその類ではなかった。あなたもね。私は生まれた時に無表情だったそうよ。そして、あなたは泣きじゃくっていた。当然、そんな子供が生まれたとなっては、村人もあわてていたわ。不吉な存在が生まれた。村に災いが起こるって。でもまだ子供だったから、だれもどうしようとも思わなかった。自ら自分の手を汚すことがいやだったのでしょうね。」


 そんな習わしを聞いたことは無かった。自分が村の厄災の種だと思われていたことも知らなかった。


「不吉な存在も、教育次第ではマシになる。村人たちはそう考えたそうよ。だから、笑わせることだけをし続けた。笑顔が顔に張り付くように教え込んだの。あなたも身に覚えがあるでしょ。」


 幼いころ、石に転んで大声で泣いたことがある。その時に母親にこっぴどく叱られた。泣くな、笑えと。意味は分からなかった。泣きたくて泣いたわけではない。無意識に目から涙が出てしまう。それを止める方法なんてわからなかったが、みんなと違うことがいやで、そのあとは必死に笑顔を作った。


「あなたに対する教育は成功したそうね。でも、私は違った。自分の感情の赴くままに生きた。すべての感情をさらけ出し、思うがままに笑った。家では両親に笑顔でぶたれたわ。お前はなぜ怒ったり、泣いたりするのかって。ぶたれた痛みで泣き、その泣き顔を見て両親はより強くぶった。私が笑うまで。最後にはいつも追い出されていたわ。あなたと初めて出会ったのも、追い出されたときよ。」


 私と彼女との出会いは、夕暮れ時だった。友達もできず、一人で遊んでいた私は、道端で転んで泣いていた。そこにちょうど通りかかった彼女は、私を見つけて駆け寄ってきた。「どうしたの?」と声をかける彼女は、顔に傷を負い、目は赤く腫れていた。だが、表情は見たことも無いほどきれいに輝く笑顔だった。その笑顔に、私の顔も明るく輝いていた。私は、どの村人とも違うその笑顔に夢中になっていた。


「あなたと出会った日、私は自分と同じ存在がいることを知った。類は友を呼ぶのかしらね。あなたという存在を知って、世界が変わったわ。どんなことでも、あなたといっしょにいれば耐えられた。どんなに悲しいことが起きても、あなたの笑顔を見れば笑顔になれた。どんなことがあっても、私とあなたは同じ。そう思った。そう...思っていた...」


 彼女の声のトーンが下がった。


「...でも...違った。私とあなたは違ったの。」


 空気がさらに重くなる。より息苦しく、より切なく。


「村人たちはずっと懸念していたわ。私のことを。私が笑うたびに、自分たちの存在が薄れゆく。そのことを感じていたようね。そして、とうとう決意した。私を消そうと。決定された後は早かった。私の両親はその決定をすぐさま飲み、村全体が賛同するのに一日とかからなかった。次の日には、私の耳にその知らせが届き、その次の日には暗闇に送られることとなっていたわ。正直、つらかった。にくかった。村人全員を殺してやりたかった。でも、あなたを見て気持ちが変わったわ。私のところにきて、ずっと謝っていたわね。自分は悪くないのに、必死にずっと。それを見ていたら、私はあなたを守るために暗闇に入れられると思った。私と同じあなたを守れるのなら本望だった。そのあとは、抵抗すらしなかった。すべてを受け入れて暗闇に入ったわ。」


 自分の弱さを感じた。もし、「一緒に逃げよう」と言っていれば... 彼女の手を取り、ともに村を出ていれば... その道は険しい道かもしれない。だが、彼女をこんな姿にすることは無かったはずだ。彼女をこんな風にしたのは自分のせいだ。


 マリは私をちらりと見て、話をつづけた。


「暗闇っていうのは村の地下牢のこと。窓はなく四面すべてを石壁に囲まれた場所。光の指す場所はなく、文字通り真っ暗闇だった。外とのつながりがあるのは、一日一回の食事のみ。パン一つだけ。パンがどこから入ってきて、それが本当にパンなのかも暗さのせいでわからなかった。入って数日は気持ちが持ったわ。あなたと出会えた人生を悔もうとは思わなかった。ここで死んでも別にかまわなかった。でも、状況はすぐに変わった。暗闇の恐怖は恐ろしかった。そこに何があるのか分からない恐怖。音のしない恐怖。幻聴。幻臭。幻覚。あらゆるものが私を襲った。唯一のつながりだった食事も、ある時を境に届かなくなり、空腹と幻に私の精神はむしばまれていった。あなたへの期待は次第に恨みや嫉妬に変わった。なぜ、自分なんだ。なぜ自分だけなのだ。どうして私が殺されなければならない!私を殺そうとするやつらが憎い!村人全員が憎い!!シン、オマエが憎い!!!」


 彼女の言葉はどんどん力強くなり、それと共に私の体はより重みを増していった。


「考える時間は山のようにあったが、体に時間はなかった。体の間隔はなくなり、いつしか自分が死んでいるのか生きているのかさえも理解できなくなっていた。それでも、頭だけは憎しむことを辞めなかった。私が、暗闇に入れられてから幾何の時が立ったか、ある日幻聴がぴたりと止まった。幻覚もなくなり、目の前にどこかの執務室が見えた。机と椅子。そして、そこに腰かけペンを握る顔の見えない男。その男は、甘い笑顔でこう言っていた。

 <つらかったね。よく頑張った。なぜ、君という崇高な存在を彼らは理解しようとしないのか... 君から溢れるその黒いもの。それは君の苦労の証。君は伝えなければならない。自分の痛みを。自分の悲しみを。>

 気が付くと、私の体は暗闇の中にいた。前と違うことは、暗闇の中が見えた。それは、自分から知らない間に流れ出ていた黒いもののせいかもしれない。その黒は一瞬にして暗闇を壊し、私をここに解き放った。」


 彼女は私の方を向きなおし、言葉をつづけた。


「私が出て来られたのは、ある意味あなたのおかげなの。あなたに対する怒りが、私をもう一度外へ出させたの。だから、もう謝る必要はないわ。今度は私があなたを真っ黒に染め上げてあげる。」


 彼女の体から出た煙が私の体を包み始めた。体を覆い、顔を這い上がり、口元まで来ていた。


 彼女をこんなつらい目に合わせたのは自分のせいだと私は感じていた。彼女の思うがままになれば本望だ。この身を彼女に預けよう。それが、彼女に対する最後の謝罪だと。許しを求めようと...


<本当にそれでよいのですか?>


 頭に響く声。私の考えを惑わしていた。でも、これでいいんだ。彼女が望む結果になれば...


<あなたは、本当にそんな彼女が見たかったのですか?>


 そう...じゃ...ない。私はそんなマリが見たいわけじゃない。あの頃の笑顔のマリが見たい。


 懇願する思いが一筋の白い光を私に落とした。体についていた黒は流れ落ち、白をまとっていた。


「あなたの思いをぶつけなさい。」


 傍らに立つ一人の男。この黒い中で、一人輝く存在。その男がアーサーだった。

 

 第15話、お読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか。

早々に、主人公の出てこない話が続いております。次で終わるはずなので、ご辛抱ください。

 本日のどうでもいいこと...

 今週の日曜日で「ドラゴンボール超」が終わってしまいました。ハチャメチャな設定ながら、しっかりと面白かったのがもう終わってしまう。少しショックでした。これを期に、ドラゴンボールを1から見ているのですが、面白いですね。ちっちゃい悟空は、私の中ではGTのイメージがあってかっこよさには劣りますが、幼さを感じさせる演技に野沢さんの演技力の幅広さを感じます。

 次の同枠は鬼太郎ということで、鬼太郎役の野沢さんが久々に見れる!!と思っていたら、なんと目玉おやじ役でした。しかも、鬼太郎は高山みなみさんではなく、沢城みゆきさん...鬼太郎も目玉おやじも新しい色が見れそうで楽しみです。てか、猫娘が可愛すぎる!!!!


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