三つの門の前で
パッと周りが明るくなった。目の前には三つの扉が大きく口を開けて並んでいる。ここで選択を迫ってきているのだろうか。扉の奥が真っ暗で、中が見えない。恐怖や焦りからキリキリと腹が痛む。腹を抱えてうずくまるオレ。それを気にしてか、アーサーが肩に手をのせてくる。
ここで激励の言葉一つでもかけてくれるのか。そこまで優しい奴だったか。しかし、仲間がそばにいるとは本当に頼もしいものだ。さぁ、来い。どんな言葉でも心から受け止めよう。そして、その言葉でオレは立ち上がるんだ。
ゆっくりとアーサーの方を振り返る。手の空いている拳は固く握られており、親指だけがピンと天井を向いている。アーサーの顔は太陽のようにまぶしい笑顔。その口が動き出す。
「ドンマイ!」
......
ん!?
「どんマイケル!」
古いッ!...じゃない!!! オレが求めてるのはそんな言葉じゃない!!
「それが窮地に陥って、すべてを失いかけた顔をしている人間に対して言うことか!それでも相棒か!?」
「相棒?私はそんな事一度も思ったことはありませんよ。せいぜいあなたは私たちにとっての道化師です。ピエロなんですよ。ピエロは黙って道化をしていればいいんです。」
一から百まで気に障る野郎だ。さっきまで、オレの力が必要だと意味深な顔して言っていたのに、もうこれだ。実際、あれもただ俺にやる気を出させたかっただけなんじゃないのか。それどころか、ただ俺をおちょくってただけじゃないのか。フラグっぽいこと言いやがって。ダミーフラグなら、ややこしいから立てないでくれ!
「あっそ!」
と言い放ち、オレは扉の方を向きなおした。
依然として、三つの扉はオレたちが入ってくるのを今か今かと待っている。扉の周りに、指示書や文言が書いてない以上、「このうちのどれかを通って来い」ということなのだろう。にしても、情報がないため、何がどこにつながっていて、その先に何がいるのかを想像できない。この三つはそれぞれ屋敷の末端につながっているのかもしれない。はたまた、同じ場所につながっているのかもしれない。その奥には何が待ち受けている。化け物。それとも、屋敷の主。考えること自身が時間の無駄だが、頭が考えることを辞めようとしない。
「では棒を使って、倒れた方へ進むと言うのはいかがでしょう?」
「どこに棒なんてある?」
「少々お待ちを」
そう言うと、アーサーはまたペンと手帳をどこからともなく取り出した。本の背を触り、ページを開く。今度は半分を過ぎたあたりで止まった。用途によって、使うページでも違うのだろうか。何かを書き込み、手帳を閉じる。すると、地面から木の棒がメキメキと突き出てきた。棒を手に取る。地面には穴が開いたような跡もない。転送系の呪文だろうか。
「便利だな、その手帳。オレにも使えるのか?」
「残念ながら、これは私とその他数名しか使えません。この手帳に、『この建物から出たい』とでも書いたら出られるとでも思ったんでしょう。そんな安直な考えでつかわれても困りますからね。セーフティーロックがかかってるんですよ。」
チッ。あの手帳は何かスゴイものだとは薄々気づいていた。本音を言えば使いたいが、妥当な展開だ。
オレは手に取った棒を地面にそぉっと突き立てた。棒がグラリと揺らめく。酔っぱらった人のように千鳥足にフラりフラりとした後、棒は途端に重力の存在に気付いたかのようにバッタリ倒れた。
右に。
「決まりましたか?」
「あぁ。右の扉を通る。二言はない。」
運命が右に行けと言っているんだ。この結果に身を任せようじゃないか。
地面に転がされた棒が、透明になり、消えかかっている。
「おい。それ、なんで消えてるんだ?オレの鉄パイプは消えてないっていうのに、どうしてだ?」
「棒の事ですね。役目を終えたからですよ。本来、ここに存在してはいけないものなのです。それが何かしらの理由でここに連れてこられた。だったら、その物が元の場所に帰ろうとするのは必然ではありませんか?モノに意思があるとは言いませんが、我々の空間理論ではこのことが証明されているんです。モノには存在意義があり、それを逸脱してしまったモノは、元の空間に戻るか、自然消滅してしまいます。」
こんな小さなことに、そこまでの裏話があるのか。しかも空間理論とか、モノの意思だとか、いまいちよくわからん。
「難しくてよくわからんな。」
「要するに、『借りたものはもとの場所に返せ』ってことです。この棒も、一時的に存在理由を与えただけで、それがなくなった今、元の場所に帰ろうとしているのです。」
「では、この鉄パイプはオレの腰にささっているのが存在意義だと?」
「まぁ、そんなところです。存在する理由があるからそこにある。『すべてのモノには意思がある』と言った方がやはり正しいのかもしれません。」
急に深い言葉を言われ、少し考え込んでしまった。存在理由か。「すべての事には意味がある」と誰かが言っていた。ロマンチストの戯言とでも考えていたが、そこに存在する意味がないと物事は成立しないと思うと、間違いでもないようだ。オレの存在理由は、この世界の魔王を倒すこと。その目的を果たせば、この世界に存在する意味と共にオレは消え去る。理にかなっている。では、アーサーの存在意義とは何なのだ?
「お前が存在する理由ってのはなんだ?まだ、聞いてないぞ。ここにいるってことは、存在する理由があるってことだろ?」
ガガガガガッッ...
オレが話し始めると同時に、扉が閉まり始めた。
「行きますよ、勇者様。向こうは私たちを待ってはくれないようですから。」
扉のせいで、オレの質問はかき消された。だが、いくら聞いたところでアイツは答えない。答えないだろう。それほどまで、オレが信頼されていないのか?それとも、何か言えない事情でもあるのだろうか。こんな質問をした後のアイツは、少し冷たく見える。存在する理由が、オレのソレより大きいのかもしれない。
オレたちは、右の扉に駆け込んだ。入ると同時に扉が閉まる。
「勇者様...」
アーサーが口を開いた。
「私は、今ここにいる理由を話すことはできません。しかるべき時ではないのです。前にも言ったかもしれませんが、私はあなたの力が必要なのです。ですが、なぜ必要かさえも今は伝えられません。だから、覚えておいてください。私はあなたの絶対的な味方です。信じ込ませようとしているわけではありません。たとえ、私がこれからどれだけあなたを罵倒しようとも、バカにしようとも、これだけは真実です。」
沈黙の空間が生まれる...
正直に、ただうれしいの一言だった。こう、面と向かって言われるとむず痒いが、悪くない気分だ。
「じゃぁ、今のお前の存在理由は『オレの味方』だってことだ。裏切るなよ。」
「はい。」
奥まで続く道。そこを歩いている間。オレたちは一言も話さなかった。お互いに、恥ずかしかったからなのか。そうじゃないのか。見えないつながりを初めて感じ、そのつながりを肌で、心で感じている時間が欲しかった。
奥までたどり着く。扉。ここの主はよほどの扉好きの様だ。一気に前に押し出し、扉を開ける。
暗い。そして、まぶしい。突然当たるスポットライト。
<Lady's and Gentleman!! ようこそ、お越しくださいました!今宵のゲストはあそこにいる少年。さぁ、彼にはこれから数々の難問に挑戦していただきます!正解すれば、突破!失敗すればぁ...なお、ここでの内容は全世界へと配信されておりまーす!>
なんだここは。これから何が始まる?失敗すればどうなると言うのだ!
突然の展開についていけなかった。だが、こちらには優秀な味方がいる...って、どこ行ったぁ?さっきまで一緒にいたはずが、この一瞬でどこに行ったんだ。結局、頼りにならねぇ!どうしよう、どうしよう!!
<さぁ、それでは挑戦者のあなた! 前の方へどうぞ!>
第十一話、お読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか。
前回お話ししていたタイトルの件ですが、何個かの候補の末、一番よさそうなものを考えました。今後の展開も考えて、このタイトルがしっくりきました。よくよく思えば、「縛られ勇者珍道中」なんてダサいですよね。書き始めたころはあれでいいと思ってたんですが、書き始めたらどうも当初よりコメディーから遠ざかって...コメディーものにしたかったのですが、その未来はどうなるのやら。でも、その路線はあきらめません!コメディーにシリアス。どちらも守り切っていきたい。 それでも!!守りたい世界があるんだー!!
というわけで、今話からタイトル変わります。




