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第七十八話 報せ

少し無理矢理過ぎたかも……。

 1561年 六月 美濃 【視点:須藤惣兵衛元直】



 翌日、北方城に撤退し、更に甲斐へと撤退しようとする武田を、俺達は追撃した。

 追撃部隊は徳川勢や俺、柴田殿等である。

 敵軍の殿(しんがり)は馬場信春と真田兄弟。

 真田兄弟とは言っても、あの有名な兄弟では無い。

 その伯父にあたる人物達で、長篠の戦いで討死した信綱・昌輝兄弟である。

 信綱は武田二十四将に数えられる武将で、昌輝も侍大将として騎馬五十騎を率いた将である。

 俺達の執拗な追撃にも、


「――信春様、此処は我等真田にお任せを!」


「信春様まで失っては、武田にとって大きな損害!」


 と、信春を先に撤退させ、自分達はその場に留まり奮戦を始めた。

 ……その光景は、流石”あの真田”と言わざるを得なかった。

 真田信繁――幸村の事――や、その兄信之、そして父である”表裏比興の者”と呼ばれた昌幸の三人ばかりが目立つ真田家であるが、彼等も真田なのだと実感させられた。

 結局は真田兄弟は討ち取ったが、当主であり大将であった信玄も、馬場信春も逃した儘、俺達は帰還した。





 そして、美濃城に帰還した俺達は、評定の場に、とある人物を呼び出していた。


「いやぁ、此度が戦の勝利、真に目出度く」


 呼び出されて早々、人の良さそうな笑みを浮かべてゴマ擦りを始めた安藤守就である。

 既に、安藤が武田との書状のやり取りをしていた事、もし攻めて来たら武田に城を明け渡すと書状に書いていた事は信長に伝えてあるので、信長の機嫌が悪い悪い。


「……安藤。手前、戦うでもなく城を明け渡したな? どういう了見だ」


 いきなり事実を突きつけるのではなく、ボロを出すのを待つ。

 それを知らない安藤は、悲し気に眉を歪ませ、


「確かに、戦うべきだとは思いました。しかしながら、武田の軍勢は万を超えるのに対し、我等北方城に詰める兵はその半分にも満たない寡勢。討って出れば、某等は逆に殺されておりましたでしょう。城内には女子供もおりました故、降伏するしかなく……」


 と、悔しそうにし始めた。

 だが、真実を知っている俺達からして見れば、滑稽としか言えない。


「……手前が…………手前が武田と書状をやり取りしてたのは知ってんだぞ安藤ォ!!」


 そんな安藤に、とうとう信長がブチ切れた。

 その眼は、人を射殺さんばかりに細められている。

 あーあー短気なんだから全く。


「――そ、その様な! 某は武田と通じてなど――」


 白を切る安藤に、信長が隣に置いていた書状を見せながら、


「証拠はここにあるんだぜ? 武田から手前への内通を要請する書状と、手前が武田に送った書状の二つがよぉ!!」


 慌てた様子で書状を確認した安藤は、確かに自分の字と印鑑が押されている事を確認して、


「――ば、馬鹿な!! 武田のは兎も角、武田に送った書状がここにある筈が――」


 ……あ、漏らした。

 勝手に自爆してるし。


「――それは偽の書状に御座いますよ安藤殿。某が忍に命じて複製させた、ね。……安藤殿、何故貴殿は『武田に送った書状がここにある筈が』――などと? その口振りでは、まるで武田に書状を送ったのは事実であるという様な言い方ですが?」


 俺がそう煽る(口を挟む)と、安藤は一瞬しまった、という表情を浮かべるが、直ぐに立ち直り、俺を親の仇を見るが如き眼で睨んできた。


「――須藤惣兵衛! 貴様、某を見張っていたのか!!」


 …………いやいやいや。

 味方が裏切らないかどうか見張るのはこの乱世じゃ当たり前の事でしょうよ。

 ただでさえ裏切る裏切らないが常の戦国乱世なんだから。


「……はぁ。……安藤殿、織田に属しながら、武田と内通し、織田と武田が戦を始めれば、その戦の勝者に付こうなどと考えていた貴殿には何を言われても何も感じませぬよ。忍に見られているとも知らずに、自信満々に家臣達に仰っていた様ですしね」


 俺の発言に、周囲にいた家臣達もざわつく。

 まぁ卑劣というか、ゲスいというか、狡猾というか……余り良いイメージは抱かないわな。

 姉川の戦いでも活躍した安藤だが、それはそれ、これはこれ、だ。


「――安藤。手前の処遇は追って伝える。……連れていけ」


 落胆と怒りが混ざった顔で、そう信長が言うと、待機していた兵達が安藤を連れて出て行った。

 そして数日後、とある報告が届けられた。



 将軍足利義昭が三好・朝倉・浅井と共に挙兵したという報が。




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