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第七十七話 決着とそれぞれの思い

前田利益 (つまりは前田慶次)登場です。

史実ではただのいい年こいて出奔したオッサンですが、この作品ではゲームやアニメ、漫画等の前田慶次のイメージでいきます。ご了承下さい。


「つまらないねぇ……」


 死屍累々となっている戦場を見て、前田利益はそうポツリと漏らした。

 つまらない、とは、織田軍の戦い方に対しての発言だった。


「……名乗り合わずに、命だけ取る。命を懸けずに、敵を殺す。……なんとも味気無ぇ戦になったもんだ」


 勿論、利益とてこの戦の重要性と、武田軍の強さを知らない訳では無い。

 極力此方の損害を少なく抑える事が、重要である事を理解している。

 それを考え、策を弄し、実行する”軍監衆”や将達を尊敬もする。

 だが。

 だがしかし。

 それでも、納得が出来るかと言えば別なのだ。


「全く以て……つまらないねぇ」


 もう一度呟くと、それが聞こえたのか、叔父である利家が嗜めてくる。


「それを言うなよ利益。俺も別に納得している訳では無いが、それでも殿の為、殿が作る天下の為には、そうも言ってられないんだよ」


 そう嗜める利家だが、彼も内心少しばかり気にしていた。

 彼もまた、”槍の又左”とも呼ばれる程に槍の腕に優れ、その武勇で敵を倒し、主君の道を開く事を誉れとする武人である。

 だが、信長の馬廻りとしての矜持と責任感が、それを抑えているだけなのだ。

 しかし、叔父である利家の言葉すら、利益の心には響かない。


「……つまらないねぇ」


 利益は求めていた。

 自分が満足出来る戦を。

 自分が納得出来る戦を。

 


 ただそれは――織田の軍では、得る事が出来ない事だと、理解していた。




 武田軍 本陣



「……なんと、昌景が……」


「はい。山県様率いる”赤備え”は織田家右翼に突撃、数百にも上る鉄砲の反撃により、ほぼ全てが討ち取られました。昌景様も致命傷を負い……しかし」


 武田軍大将武田信玄は、己が信頼を置く兵達の死を受け、言葉を失っていた。

 目の前に置かれた山県昌景の頸を前に、うち震えていた。

 武勇優れる将の多い武田軍の中において、その精鋭である”赤備え”を率いた山県昌景は、特に優れた将の一人であった。


「……御館様。今は昌景の事は。……今、生きている者達の為に動きましょう。今撤退すれば、被害を抑えられまする」


「……他の者達は?」


「――はい。内藤殿は此方へと撤退、逍遙軒様や馬場様も同じく、撤退を始めております」


 日ノ本一と称えられる武田軍の、その悉くが敗走しているという結果を聞いて、信玄は意気消沈といった様子で肩を落とした。


「……そうか。…………そうだな。今は、生き残る事を考えねば。北方城に撤退し、軍を再編して甲斐へと帰還する。……そう全軍に伝達せよ」


「――はっ!!」





 織田軍 本陣 



「敵の後退を確認! 北方城まで撤退する模様! 我等の勝利です!」


 本陣にその報告が届くと、本陣に詰めていた兵士や将達は歓喜に沸き立った。

 信長も信長で、

 一方、半兵衛と官兵衛は油断せずに指示を続ける。


「……北方城までは追わなくとも良いです。全軍ある程度の追撃をしたら撤退せよと、そう全軍に伝えて下さい」


「――はっ!」


 半兵衛が兵士に指示を出す一方、官兵衛は草を呼び出す。


「――須藤殿は?」


「はい。既に」


「そうか。……では、『時期は貴殿に任せる』と伝えてくれ」


「――承知」


 そう応じて駆けていく草を見送り、官兵衛はふぅ、と溜息を吐いた。





 北方城へと帰還する武田軍は、鎧も、肌も、砂埃に塗れて、まるで落ち武者の様に酷い有様だった。

 肩を貸し合い、刀を杖の代わりにして歩き、馬には重症人を乗せている。

 侮っていた敵に負けた事で、精神的なダメージを受けており、兵士達の顔には生気が無い。

 北方城が見えてきた時、兵士達は思わず安堵の溜息を吐いていた。

 だが、そこで突如――


 ドドドドドドドドド!!


 銃声が轟いた。

 何処から放たれたのか、誰が撃ったのか、どれ程の数の銃があるのか。

 そんな事もわからぬ儘、武田軍は誰彼構わずに銃声と悲鳴、怒声が飛び交う中を、北方城に逃げ込んだ。

 最早『戦う』等という選択肢は存在しなかった。

 信玄も、将達に守られながら顔を青白くして、北方城へと入ったのだった。




【視点:須藤惣兵衛元直】



「……良し、撃つの止めー」


 武田軍の兵士の死体が転がっているのを遠目で見ながら、俺はそう声を掛けた。

 俺の今回の役目は、”雑賀衆”の一部を連れての北方城に逃げてくる武田への待ち伏せだ。

 とはいえ戦力差もあるので、銃による牽制みたいなモノで、大して大きな損害を与えられる訳じゃない。

 とっとと美濃(ここ)から退却しよう、そう思わせるのが俺の役目だ。

 ……というか、本当に俺の役目って追撃、奇襲ばっかりだな。

 いや、俺の部隊がそれを出来るってだけなんだけど。

 うむ、地味だ。


「良し、じゃあ報復されない内に逃げるとしようか」


「「「「おう!!」」」」






この作品のタイトルの、”黒の章”は、いろんな案の中から決めました……が、それが”炭”とか”墨”とか……全然締まらないんですよねぇ……。


ブックマーク、評価宜しくお願いします!

ナカヤマジョウ様の『分枝世界の戦国記譚~蒼の章~』(旧題:謙信と挑む現代オタクの戦国乱世)も宜しくお願いします!

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