第七十話 改名しないか、と信長に言われた
本編七十話到達!
皆様が読んで下さった故です!
有難うございます!
「なぁ須藤。手前、改名したらどうだ?」
柊殿と結婚してから数日後、”軍監衆”の仕事終わりに呼び出された俺は、そんな事を信長に言われた。
……はて? 改名? んな変な事言ってないで仕事しろや。
知ってんだぞ今日近衛殿と秘密裏に鷹狩り行ってたの。
同じ趣味だから、重要な人物だからとか言い訳して逃げるつもりだろうが、明日にでも鬼の如き丹羽殿や柴田殿から怒られると良いバカ殿様この野郎。
……まぁ良い。
俺が疑問の表情を信長に向けると、
「手前、今公の場でも何でも”須藤惣兵衛”って姓と通称で名乗ってるだろ? なんで以前名乗ってた名を名乗らねぇのかは知らねぇがよ」
別に嫌って訳では無い。
単に”直也”という名前が戦国時代では違和感しかない、という理由からだ。
名前で怪しまれたり、俺以外にも転移又は転生してきた奴がいないという確証は無い。
そんな現代風な名前を名乗るなんて、「ここに転移者がいますよー」と宣伝している様なモノだ。
そんな目立つ事は御免被りたい。
ただでさえ面倒臭い敵や仕事、やるべき事が多いのだ。
「柊と結婚したんだ。ならこの機に改名しても良いだろ?」
「まぁ……なぁ。確かに、名前が無いってのも違和感あるか。……で? 言うからには何か案があるんだろ?」
俺の言葉に、信長はよく聞いてくれた、という様に歯を出して笑い、
「応よ。……知ってるか? 手前、半兵衛が”今孔明”って言われているのに対して、一部じゃ”織田の元直”って呼ばれてんだぜ?」
元直? ……誰だ?
多分半兵衛の異名である”今孔明”に掛かってるんだろうけど。
で、確か俺が官兵衛を”龐士元”に例えた事からして言えば、劉備の最初の頃の軍師”徐庶”の事か。
魏の将曹仁が仕掛けた”八門金鎖の陣”を破り劉備に軍師の凄さを見せつけ、魏の軍師程昱の謀略によって曹魏へと降る事になるも、去り際に諸葛孔明と龐士元を劉備に推挙した人物。
義侠心に厚く、軍師としてだけでは無く、撃剣の使い手だったと言われている。
そんな人物に例えられるのは非常に恥ずかしいんだが。
「……で? それが俺の名前と何の関係が――」
「丁度、手前の名前に徐元直と同じ”直”の字があるんだ。なら、手前はこれから”元直”と名乗れや」
うわー……其の儘だー。
俺がジト目で信長を見るが、信長は如何にも「流石俺、良い考えだ」とドヤ顔である。
「……はぁ。わかったよ」
そんな訳で、意外と呆気なく、名前が変わる事になった。
須藤惣兵衛元直――それが、これからの俺の名前だ。
「――今帰った」
古出家の屋敷へと戻って来た俺の声に、柊殿が出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ須藤殿。夕餉は?」
「あぁ、頼む」
頷くと、柊殿は速足で仕度に戻っていく。
柊殿は相変わらずで、結納前から対応は全然変わらないのだが、逆に俺から柊殿への言葉使いは「夫は妻に敬語を使うものではない」と言われた事から、砕けた口調である。
そこら辺変なこだわりでもあるんだろうか?
夫婦である以上、いつまでも”須藤殿”呼びはおかしい、と思う。
ふむ、そこら辺は後で話してみるか。
俺が夕餉を食べている間、柊殿は俺の近くに座っている。
そう言えば、改名の件は伝えておくべきか。
「柊殿。先程信長に呼ばれてな。改名する事になった。これからは須藤惣兵衛元直と名乗るんだが――」
さて、ここからだ。
こういう事を積極的に伝えるタイプではないし、気恥ずかしいのだが……。
「柊殿、俺の事はこれから名前で呼んでくれないか? 俺と柊殿は夫婦だろ?」
柊殿は、少し恥ずかしそうに頬を赤らめ、
「はい。……元直殿」
「――いや」
そこで、俺は止める。
そうじゃない。
確かに信長には師弟関係感覚が抜けてないと言った。
だが、せっかくなら妻となった彼女には――
「――直也と。妻である柊殿には本名で呼んで欲しい」
俺の言葉を聞いて、柊殿は眼を見開くが、直ぐに常に無表情に近い冷静な顔に微笑を浮かべ、
「――はい。直也殿」
そう呼ばれなくなって久しい、俺の本名を呼んでくれた。
いやー……これ書いてる時何度身体中を掻きむしりたくなったことか(笑)
甘々いちゃラブな展開も好きですけど、読むのと書くのは別だと言う事を改めて理解しました。
次回からは再び普通に対武田の事前準備に戻ります。




