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第六十九話 結婚しても

という訳で主人公と柊結婚です。


 1560年 八月 京



「……手前等には呆れるやら感心するやらだぜ」


 そんな訳で、柊殿との結婚の翌日、俺は信長と呑んでいた……のだが、生憎と結納の儀に関してはそう長く話す様な事は無かった。

 三々九度、所謂”三献の儀”――結婚する男女が、最初に女性が三度、次に男が三度、最後に女が三度の合計九度同じ酒を飲み交わす儀式の事――を行うだけだった。

 その場にいたのは俺と柊殿以外には信長、惣五郎殿、惣五郎殿の奥方様、柊殿の兄上 (俺よりも年下だ)二人だけである。

 白無垢や化粧は不要だと柊殿も普段の着物姿で、一見すれば結納だとは見えなかっただろう。

 それに引っ越したりするわけでも無い。

 今まで通り二人揃って惣五郎殿――義父上殿の屋敷に世話になる予定である。


 結局のところ、俺は戦が近付きつつある事もあってそんな余裕はなかったし、柊殿もあれはあれで仕事中毒(ワーカーホリック)な人である。

 初夜を迎えた次の日には、二人揃って仕事に復帰、あくせく働いている訳なのである。

 これには信長どころか、半兵衛や官兵衛にも呆れられた。解せぬ。


 半兵衛が軍全体を、官兵衛が越前や槙島城、阿波方面への対策を練っている関係上、どうしても武田方面の事前準備は俺に回ってくるのである。

 え? 俺以外の”軍監衆”?

 アイツ等はどっちかっていうと書類作成とか情報整理担当の内政官達だからなぁ……。

 だから俺が抜けると、実行する人間はいても策を考える人間がいない訳である。

 丹羽殿とかいるじゃん、と思っている奴もいるだろうが、丹羽殿は織田家臣でもトップの人間である。

 美濃を任されていた織田家重鎮の佐久間殿が手柄が無く、出番がない事を考えれば、丹羽・柴田の両武将が織田の家臣団トップと言ってしまっても良いだろう。

 そんな人間は信長のお守(サポート)をしなければならないのだ。

 哀れ佐久間殿と丹羽殿。

 特に佐久間殿は変な事はしないで頂きたい。


「別に誰に迷惑を掛けてる訳でもないだろ。……柊殿は知らねぇけど」


 俺がそう言いながら杯を傾けていると、


「……手前柊と結婚したってのに”殿付け”たぁ随分他所他所しいな」


 と呆れながら言ってくる。

 いや、仕方無いじゃん。


「こちとら最近――どころか今でも弟子扱いで見ちまうからなぁ。未だに兵法や武芸を教えてるし」


 あれだ。

 幼い頃から家庭教師として勉強を見てやっていた子と結婚した様なイメージだ。

 学校の先生と結婚する生徒――とは少し違うか?

 何にせよ、早々師弟感覚が抜けるもんじゃない。

 というか、柊殿の方も未だに俺の事を”須藤殿”呼びで敬語である。

 そこら辺は俺も気にしてないので、修正させようとも思っていない。

 他所は他所、(うち)(うち)、である。

 あ、良い事思いついた。


「柊殿をうちの部隊の副官として使おう」


 兵法にも通じ、武芸も優れ、冷静な判断力と確かな戦術眼を持っているのだ。

 それを生かさない手はない。

 良し、考え付いたが吉だ。

 柊殿と奥方様に話してみよう。

 俺が駆け出そうとしたが、


「せめて子供を産んでからにしてくれ」


 と信長に止められた。

 副官にするのは良いんかい。





【視点:柊】



 ――とぉん!!


「……ふぅ」


 木を打つ音が聞こえ、目視で的に命中した事を確認して、私は息を吐いた。

 私は奥方様や若様に仕える侍女の身ではあるが、特別としてこういった武芸や兵法を磨く時間を与えて頂いており、その時間を利用してこうして自主鍛錬に励んでいた訳である。

 少しばかり身体に違和感があるが、私は主君に仕える身、その程度で休んでいては夫となった須藤殿にも顔向けが出来ないというものだ。

 ある意味、火照った身体を鎮める為でもあるのだけれど。


 だが、その様な状態では当たるモノも当たらない。

 いつもは九割は的の中心に命中するのだが、七割しか当たらなかった。


「……未熟ね」


 嘆くわけでは無いが、己が未熟を恥じ、鍛錬を重ねれば何れは上達する。

 それは須藤殿も仰っていた事だ。

 もう一度、と思って矢を番えて弓を構え、精神を集中させていき――


「――お、柊じゃねぇか」


 と、突然背後から掛けられた声に、頭を動かして後ろを向くと、勝三がいた。

 私はその体勢の儘、返事をする。


「――勝三。若様の護衛はどうしたの?」


 若様がおられないから、言葉使いは少々荒い。

 本来森家の次代である勝三の立場を考えれば、敬語が相応しいのだが、当の本人に「面倒臭いから止めろ」と言われて以来、この様な言葉使いとなっていた。


「ん? まぁ利治の小父貴もいるし大丈夫じゃね?」


 斎藤新五郎利治殿。

 美濃斎藤家”美濃の蝮”と恐れられた斎藤道三殿の末子。

 先の”小谷城攻め”でも、活躍した武勇優れるお人だ。


「なら、良いのだけれど。……で? 勝三はどうしたの?」


 私が訊ねると、


「ん? あぁ、昨日旦那と結ばれたんだろ? 幼馴染みが好いた男と結ばれたんだ。お祝いの一つでもと思ったんだけどよ」


 そこまで言って、チラリと私が弓で射た先の的を見て、ニカリと笑う。


「……初夜の次の日に弓撃って、しかもほぼ命中たぁ剛毅な奴だなお前は。ま! あの須藤の旦那の嫁ならこれ位剛毅じゃねぇとな!!」


 そこにあるのは、須藤殿への憧憬と信頼だ。


 勿論、身体が重いと言えば嘘になる……けれど。

 ギィと音を立てて弓を引き絞る。

 そして的を狙い――


「……有事の際に奥方様や若様を守るのが私の仕事でもある。それにはもっと様々な事を学ばないと。一日足りとも休む暇なんてない。夫となってくれた須藤殿の顔に泥を塗らない為に――ね」


 矢を放つ。


 カン!!


 狙い違わず、放たれた矢は硬い音を立てて的を揺らした。



……作者が結婚どころか恋愛未経験なのに、婚姻話をどう書けと(笑)


はい、妄想で頑張りまーす。


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