第六十八話 勝三、茶の道を体験する その2
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かすていら――いや、砂糖ってのはこの時代じゃ貴重なモノだ。
平安時代には既に”甘葛煎”という”あまずら”というツタを切り、出た樹液を煮詰めた甘味料があったのだが、その手間から、貴族等の一部の人間しか口に出来なかった。
なので、庶民が何を食べていたかと言うと、柿や干し柿、アケビ、栗が定番だった。
ポルトガルから鉄砲が伝来したのと同時に、蜂蜜などの甘味料や金平糖等等の南蛮菓子が入ってきたが、寧ろ南蛮物として高価なモノとなった。
大名でさえ、滅多に食べる事が出来ない貴重なモノなのである。
という訳で、その価値をいまいち理解していない勝三に説明しよう。
「……それに使われている砂糖というモノは、始めは唐より入って来た漢方の一つ。黍の一種から作るんだが、この国では作られておらず、未だ外国から入ってくるのに頼っているから、非常に高価なモノだ。それを、このかすていらは山の様に使う。それに、それには鶏の卵も、大量に入ってるぞ」
それを聞いて、鶴千代殿が眼を見開く。
砂糖は先に言った通りだが、一般的に卵が良く使われるようになったのは砂糖と同じく江戸時代中期になってからだ、と言われている。
卵料理として最初に作られたのは、”玉子ふわふわ”という料理だったらしい。
それ以前は、平安時代の仏法説話集”日本霊異記”の影響で、鳥の卵を食べると悪い事が起こるとか、地獄に落ちる等という迷信が広がっており、大っぴらには食べなかったのだそうだ。
鶏自体も、神の使いなんて言われているし。
流石の勝三も、俺の説明には驚いたらしく、
「んだよ! そんなに高いのか!」
「ククク、その驚く顔が何よりの褒美」
勝三は前もって教えてくれよと松永を睨むが、松永は喉奥で笑いながら茶を点てていた。
本当にこのおっさんは性格が悪い。
のんびりとした空気の中、ふと、鶴千代が訊ねてきた。
「勝三は須藤殿に兵法を教えて頂いているとお聞きします。外国の情報といい、兵法といい……須藤殿はいつその様な様々な知識を何処で?」
……ふむ。
まぁ別に教えられない訳ではないが。
「俺――失礼、某は幼い頃に尾張と三河の境の山で何も覚えていない状態で倒れていたのを師匠に拾われましてな。その師から某に剣術や兵法等を叩き込まれました。外国の情報は……まぁ諸国を渡り歩いておりますからな。自ずと耳に入ってくるモノです」
取りあえずこんなモノか。
流石に未来から来た、なんて信じられないだろうし、話しても仕方が無い。
「当初は美濃調略後に三年程諸国を旅しようかと思っていたのです。……ま、誰かさんのせいでお流れになりましたがな」
チラリと松永を見る。
松永は此方を向いてニヤニヤ笑っている。
お前のせいだぞこの野郎。
溜息を吐いた俺は、話題を変えようと、気になっていた事を勝三に尋ねる。
「……そう言えば勝三、お前等元服っていつするの?」
元服するのは十三歳程から、遅い人間では二十歳を超える場合もある。
勝三――森長可は、史実においては父親である三左殿、そして長兄の伝兵衛が死んだ為、僅か十三歳で家督を継ぎ、信長から一文字貰って長可と名乗ったが、この世界では三左殿は壮健だし、長可も信長に気に入られているが、どちらかと言えば奇妙丸様と共に次代を担う人材として家中では見られている。
一方、奇妙丸様――織田信忠は遅めで、十七歳~十九歳で元服している。
だとすると、この世界で勝三等が元服するのはいつになるのだろうか?
色々と変わっている世界なので、そこら辺がどうなっているのかは分からない。
勝三は、うーんと唸り、
「わっかんないけどよー。多分若と同じ時に元服の儀式をすると思うんだ。父上は『お前は若様の矛となるのだ』なんて言ってたしよー。……それよりも旦那、婚姻の支度は良いのかよ? そろそろだろ?」
……う。
痛いところを突かれたな。
いや、本当はしなきゃいけないのだが、俺と柊殿の共通の意見で、落ち着いているとはいえ、この状況の中で大々的にはやりたくないというので一致している。
この時代の結婚式は長ければ三日もかけるのだ。
中流階級であっても、変に仕来りとか手順が多い。
庶民は事実婚みたいなモノだったらしいけど。
アホらしい。
そんなんだったら一日どころか夜の内にとっとと終わらせて、政務に励む方が全然効率的だ。
こちとら対武田の事前準備や策の考案等で忙しいのだ。
柊殿も、それに同意見であり、『固めの儀』を執り行うだけなのだ。
なので、用意するのは朱塗りの杯と酒だけなのである。
これには信長も奥方様も惣五郎殿も苦笑いだったけど。
ナカヤマジョウ様の『謙信と挑む現代オタクの戦国乱世』も投稿中。
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