第六十六話 戦力増強
はい、という訳で戦力増強のお話です。
感想や指摘などを取り入れ、色々と初期からズレているのは当たり前。
感想、指摘等感謝です。
1560年 六月下旬 京 古出長屋 【視点:須藤惣兵衛】
「……信長に会いたいって言ってる奴がいる?」
俺がその話を聞いたのは、”雑賀衆”の有力者で、実働部隊を率いている”雑賀衆の顔役”とも言える鈴木重秀からだった。
「……それは織田に臣従するって意味か?」
「あぁ、そうだ。……ま、同職だからって理由で俺のところに来たんだが、殿さんに掛け合ってくれねぇか?」
俺は顎に手を添えて、会わせるかどうか考える。
先の荒木攻めで、俺は降伏すると見せかけて城を落とした。
その話は様々な憶測と共に諸国へと回っている様で、似た事をする奴が出てこないという確証も無い。
ここは警戒するべきだろうかと考えてしまう。
「で、誰なんだ?」
先ずは相手が誰なのかを訊ねるべきだろうと、重秀に問いかける。
「おう、俺達”雑賀衆”と同業さん。紀伊北部の傭兵集団。――”根来衆”さ」
”根来衆”。
”雑賀衆”と同じ紀伊国、その北部にある根来寺を中心とする一帯を拠点とした傭兵だ。
雑賀衆が国人衆、一向宗門徒である一方、彼等は真言宗の一派で、つまりは僧兵達の集まりである。
違う衆派であったが、だからと言って仲が悪かったわけではなく、例えば根来寺に入信後、雑賀衆として活躍する、その逆もあるなど、人的な交流も多かったとされている。
その根来衆は、”雑賀衆”と共に鉄砲の扱いに長けている。
その勢力数は七十万石、僧兵数は万を超える一大勢力である。
更に、忍者がいたという説もある。
「――我等根来衆、織田の旗の下に従いたく、参上致しました」
根来衆の恐らくは率いる立場にいる者達が、信長の前に平伏している。
曰く、昨今破竹の勢いで支配地域を増やしているのを見て、織田に臣従する事に決めたのだそうだ。
その光景に、信長も満足そうな笑みを浮かべている。
そりゃ今まで傭兵としてしか雇えなかった根来衆が傘下になってくれるのだ。
その兵数を考えれば、大きな増強となるだろう。
それに鉄砲の数と、それを操れる人間が多くなれば、その分楽になる。
”雑賀衆”のほぼ全てが俺の下で奇襲であったりゲリラ戦であったり鉄砲の製造であったりに関わっているので、織田本軍の鉄砲隊の増強は余り出来ていなかったのだ。
対武田、対公方を視野に入れている現段階で、これは追い風になってくれる。
「良く来てくれたな。こちらとしても手前等みてぇな戦慣れしてる連中が味方んなるのは心強い」
”根来衆”は鉄砲隊に組み込まれる事になった。
恐らくは滝川一益殿や、佐々成政殿、または”軍監衆”が率いる事になるだろう。
そしてそれと同時に、俺は別の組織を味方に引き入れようとしていた。
戦に出る兵力の増強が出来たら、次は情報戦――裏の戦力の増強だ。
「……伊賀忍を味方に?」
そこで俺が相談したのは、甲賀忍を纏める多羅尾光俊だった。
初めて会った時はどこの裏社会のボスかと思ったが、話してみればなんてことはない、シビアな考えは持っているが、ただのオッサンである。
「あぁ。織田は勢力を伸ばしている。情報収集の手が甲賀忍や、元々織田に仕えていた草達では足りない程に、な。戦場に出る兵の増強は本願寺や延暦寺、”根来衆”で出来るだろうが、情報戦や工作が出来る忍は容易には増やせないだろ。増して素人を一人前にするまでにどれ位かかるやら。……そこで、伊賀だ」
伊賀忍は甲賀の里と山一つ挟んだ場所に拠点を置いている。
甲賀忍が医術、情報収集等に長けている一方で、伊賀忍は忍術や呪術の類を得手とし、潜入や諜報、攪乱等を得意とする。
また、火薬の材料を入手し易い土地柄であった為、火薬の調合に精通している。
それ故に、甲賀忍よりも実働部隊としての能力は上だろう。
更に、甲賀忍が一人を主とする一方で、伊賀忍は所謂派遣会社の様な形で、様々な勢力に仕えている。
伊賀の里全てでなくて良い。
一部でも味方に引き込む事が出来れば、情報収集の手も広く、正確に出来る。
「……ならば普通に金で雇えば宜しいかと」
「……いや、金で雇うってのもなぁ」
いやまぁ傭兵相手に何を言うかと言われるだろうけどもさ。
……うーむ。
でも結局味方に引き入れるかどうかを決めるのは信長だしなぁ。
「……そうだな。信長に雇うかどうか聞いてきてくれ。それの答えによって動こう」
「――承知しました。では、直ちに聞いて参ります」
そう言うが早いか、多羅尾は去っていった。
結局のところ、信長からは即座にGOサインが出たので、多羅尾に命じて伊賀忍を雇用する事となったのだった。
次回はまた時間稼ぎの幕間です。
なんで進みが遅いかというと、向こうが追いつくのを待っているのです。
まさかこんなに進行速度がズレるとは思わなかった。
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