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第七話 思案

今日はあともう一話投稿します。

遅くなりまして申し訳ございません。


ブックマークや評価、有難う御座います。

皆様に読んでいただけるような作品を目指して頑張りますので、読んでいただければ幸いです。

 尾張国 清洲城 城下町 古出長屋 《視点:須藤直也》


 俺は信長から命令を受け、俺を世話する様に言われた古出惣五郎に連れられ、古出家一族、及び古出家家臣が住む長屋へと到着した頃には日も暮れかけ、空は朱に染まっていた。

 門をくぐり、長屋の中を案内され、それなりに広い部屋に案内される。


「……須藤殿はここで寝泊まりをして頂きたく。我が長屋においても客人が宿泊する用の大きめの部屋になっております」


「いえ、十分どころか広い位です。有難う御座います」


 俺は素直に頭を下げる。

 関東から中部地方を歩いていれば、宿屋に泊まる事が多いが、野宿もする。

 この時代、蚊取り線香も無ければ殺虫剤なんかも無い為、野宿なんてすれば身体のあちこちを無視に刺されるし、いつ野武士やら盗賊なんかに襲われるか分かったものではない。

 食事だって携帯食料なんて無いし、食材の保存方法も塩等に漬ける、とかなので本当に味は二の次だ。

 それに比べれば、天国みたいなモノである。






 食事までは少しばかり掛かると言うとこで、俺は刀を抜き、腰を下ろす。

 そして自前の麻袋から自前の日記帳と銘打った書物と筆や硯、墨を取り出し、机の上に並べた。

 その日あった事を書き留めるのは俺が師匠が死に、旅を始めた時からの習慣だ。

 史実と俺がやって来た”世界”との差や史実での年表、この世界での武将達の年齢や家系図、勢力図を、俺が知っている限りで書き留めているメモ帳だ。

 ……後世に残れば『これは予言書だ!』なんて言われる可能性はあるだろうから、ある程度のところで燃やすに限る。

 元の世界に戻れるなんて確証はない訳だし。


 さて、改めて考えてみれば、この世界は史実との違いが多い……いや、多すぎる。


 史実では信長が家督を継いだのが1551年の十八歳。

 1557年の二十四歳で弟の信行を謀殺。

 ”浮野の戦い”が1558年の二十五歳。

 1560年、二十七歳で桶狭間の戦いである。


 一方、この世界の1555年で信長が二十六歳。

 信長が父親から家督を譲られたのが1551年。

 信長が二十二歳の事であると考えれば、この世界の歴史がどれ程史実と違う()()()()なモノか理解出来る。

 しかも信忠が既に十歳であり、城内で噂を聞けば濃姫とも不和ではないと言う。


 だからこそ俺は悩んでいたのだ。

 歴史を変えて良いものか。

 それともやはり俺が知っている『歴史』とこの世界は違うのだろうか。

 本筋から枝分かれした分枝世界……パラレルワールドの様なモノなのだろうか。

 ……分からない事が多すぎる。

 だから今はまだ、結論を出すには早いのだ。


「――須藤殿、夕餉の用意が出来ましたのでお持ちしました」


 どうやらそれなりに長い間考え事に集中していたらしく、いつの間にか日は沈み、鴉の様な深い闇色の空が広がっていた。

 どうぞ、と答えると、女中が俺の夕飯を持ってきてくれたので、有難く頂くことにする。


「有難う御座います」


 膳の上に載っているのは米と味噌汁、魚の干物に漬物だ。

 この時代、味噌汁の具は豆腐じゃない。

 この時代では豆腐と言えば僧の食べるモノであり、滅多に食べないのだ。

 魚も刺身などではなく、干物が定番だ。

 まぁ、十数年もこの世界に居れば慣れたモノであるが、たまにオムライスとか、カレーとかを食べたくなる。

 そしてマイペースに箸を進ませ、食べ終わり、女中が膳を下げてくれる。

 夕餉が終わり、行水――風呂なんてのは戦国武将クラスが入るものだからだ――をして暫く経ち、障子の向こうから声が掛かった。


「……須藤殿」


「古出殿ですか? 如何致しましたか?」


 声の主はこの長屋の主、古出惣五郎であった。

 古出殿は障子を開けると、ニコリと人の良さそうな笑みを浮かべ、その手に恐らく酒が入っているのだろう徳利と杯を持っていた。


「いや何、一時的とはいえ同じ君主に仕える者同士、杯を酌み交わそうと思いましてな。それと、某の事は惣五郎とお呼び下され」


 ……ふむ。

 俺もお酒は好きだし、相伴に与ろう。


「えぇ、……惣五郎殿。是非、頂きます」


「では、我が部屋にて月でも見ながら飲むとしましょう」


 俺は惣五郎殿と共に惣五郎殿の自室へと向かった。

 流石はこの長屋の主、この長屋の中で恐らく一番広い部屋である。

 惣五郎殿は軒に通じる障子を開け、月が見える様にし、そこに胡坐を掻いて座り、その対面に俺も座った。


「余り良い酒とは言えませぬが」


「いや、自分は酒の味に関しては大して気にしませぬので、構いませぬ」


 惣五郎殿が俺の杯に酒を注ぎ、俺も惣五郎殿の杯に酒を注ぐ。


「では、織田家の勝利を願って」


「織田家の安寧と繁栄を祈って」


「「乾杯」」


 こつん、という固い音を立てて杯同士を合わせ、俺と惣五郎殿は杯の酒を一気に呑み込んだ。





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