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第六十三話 伊丹城調略戦

次回、決着となります。

相も変わらず主人公と松永はやりたい放題。

 1560年 六月下旬 摂津 



「――謀反人荒木村重を攻める! 出陣!」


 数日後、京を立った奇妙丸を大将とする織田軍は先ず、高山右近が城主をしている高槻城へと入城、そこで軍を整えると、滝川一益、森可成を先鋒に命じて出陣した。

 一方の伊丹城の荒木勢であるが、速度の速い織田軍の動きに対応しきれず、一部の将が討って出ようとしたが、荒木村重の一言で籠城を決意。

 まだ織田に降っていない尼崎城の荒木村次や吹田城の吹田村氏の援軍が来るのを期待し、門を固く閉じ、籠城の構えを取った。


 奇妙丸は荒木村重と姻戚関係にある明智光秀や、高石右近に荒木村重に降る様に説得する事を命じたが、明智光秀等の説得にも荒木村重は応じなかった。

 だが、圧倒的不利な状況を見た荒木の兵達はこぞって逃げ出し、元の数の半分にまで兵数が減ってしまい、城の警備の多くが、未だ逃げ出していない松永久秀の手勢や、須藤惣兵衛率いる”雑賀衆”の兵によって賄われていた。


「城を包囲します! 人一人逃さない様にしなさい!」


「攻撃は仕掛ける事能わず! ただ待ち、敵の疲弊を待て!」


 織田軍は半兵衛、官兵衛の指揮の下、荒木勢の籠る伊丹城の周囲を包囲。

 精神の疲弊と、兵糧不足による降伏を待つ状態となった。





「――っ! もう城を包囲されたぞ! どうするのだ!」


 慌てたのは籠城する荒木村重である。

 織田軍の動きは早く、高山右近の手引きによって村重等が討って出る間も無く城を包囲された。

 逃げた兵は数多く、連日連夜の宴会によって兵士達から酒気も抜けきっておらず、また寝不足でふらふらの者も多く、更には兵糧も心許ない。

 正しく、窮地である。


「落ち着いて下さい殿! そう焦られては、冷静な判断が出来ませぬ!」


「今此方は援軍を待つ状態。今耐え忍べば、必ずや援軍が!」


 そんな家臣達の言葉にも、村重は耳を貸さない。


「――いや、忠義厚き高山右近すらも離反しおったのだ。他の者等も離反しないとは限らんだろう。現にそれを聞いた仁右衛門、清秀、重堅は寝返ってしまったではないか!」


 その言葉を聞いて、家臣達も言葉に詰まる。

 だが、ふと村重は何かを思いついたのか、怒りを止め、


「――そ、そうだ! 須藤と松永はどうした! あの知恵の回る策謀家達ならば、この様な窮地であっても、何らかの策を思いついているはずだ!」


 軍議の場に、須藤と松永はいなかった。

 この窮地に、家臣団が揃って策を考えているのにも関わらず、である。

 どこにいるのか、二人はここの所姿を見せない。


「――おい、須藤と松永はどこにおる!?」


 荒木村重は小姓へと訊ねるが、小姓は首を横に振る。


「――くそっ!」


 そう毒づいて、荒木村重は立ち上がり、須藤と松永を探す為に駆け出した。





【視点:須藤惣兵衛】



 穏やかな時間が流れている。

 微かに揺れる風の音――の中に、遠くから聞こえる威勢の良い声。

 小鳥達の囀る声――の中に、城内の兵士達の悲観的な声。

 茶の豊かな香り――の中に、火薬の鼻につく臭い。

 茶を点てる静かな音――の中に、ドタドタと鳴る幾つもの足音。

 畳みの匂いは精神を落ち着かせ、茶室の小窓より見える綺麗な山々が、自然の雄大さを感じさせてくれる。

 目の前で茶を点てる松永も同じなのか、その表情は実に朗らかかつ穏やかなモノだ。

 あぁ、実にほのぼの。

 此の儘の生活がずっと続けば良いの――


 ダン!!


「須藤、松永、おるか!!」


 ――に。


「――チッ」


 おっと、思わず舌打ちしてしまった。自重自重。

 そんな俺の無礼な態度は見えなかったのか、荒木村重(バカ)はドタドタと茶室へと上がり込んできた。

 どうやら怒りと焦りで茶の規則すら忘れている様だ。


「――やはりここにおったか。この様な窮地に、何故貴様等は茶など点ててのんびりとしておるか! 常在戦場の心こそ、武士の在り方ではないか!」


 茶室があるのは城の中である。

 軍議をしていた荒木は、俺達が茶を嗜むことを思い出して此処に来たのだろう。


「いや、拙等は武士よりも数寄者あります故」


「全く以てその通り。ここは茶室。武士の心など何処ぞへと放って捨ててきてしまいましたわ」


 松永と俺がそれぞれ動作を続けた儘そう答えるが、それが悪かったらしい。


「――っ!! なんぞ策があるのだろうなぁ!?」


 更に怒り心頭である。

 おー、怖い怖い。


「まぁまぁ荒木殿、ここは茶でも飲んで心を落ち着けなされ」


「左様。その様にお怒りでは策も思いつきませぬよ。今拙が用意致しましょう」


 俺達の態度に怒りが突き抜けて逆に冷静になったのか、鼻息を荒くしながらも畳の上に座った。

 松永が茶を点てると、荒木の目の前に置く。

 それを荒木は作法に乗っ取って静かに飲む。


「……して、どうすればこの窮地を脱する事が出来る?」


 俺と松永は顔を見合わせ、ニヤリと笑い合った。





ブックマーク、評価宜しくお願いします!


この作品とクロスしております、ナカヤマジョウ様の『謙信と挑む現代オタクの戦国乱世』も投稿されております。

そちらも宜しくお願いします。


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