第六十二話 調略の結果
慌てて書いたので間違いがあるかもしれません。
指摘して下されば嬉しいです。
1560年 六月 下旬
織田軍数日内には摂津へと侵攻す。
その知らせは、瞬く間に摂津へと届けられた。
同時に、織田軍”軍監衆”は荒木勢への調略を開始、各地へと書状が届けられた。
そして織田側からの書状が一番最初に届けられたのは、摂津の要衝の地である高槻城に詰めている高山右近の下であった。
「殿、なんと書かれているのですか?」
「……信長公からだ。……降伏しなければ、保護している教徒達を皆殺しすると。……オルガンティノ殿の憂慮が真となったか」
須藤と松永が高山右近の下を訪れ、信長は高山が降伏しなければ京や摂津のキリシタン達を根切りにするだろうと、ある意味では脅された高山右近は、それを恐ろしく思い、京の宣教師であり、懇意にしていたオルガンティノへと書状を送ったのだ。
オルガンティノからの返答は、実際に信長は家臣の村井貞勝を動かし、京の宣教師達を見張っている状況であり、降伏してくれ、というものだった。
「……父上は徹底抗戦を唱えるだろうが、そうすれば、私を頼ってくれた者達が死んでしまうだろう。…………」
自身についてきてくれている家臣達を前に、高山右近は考える。
そうすれば、民を、家を守れるのか。
やがて、高山右近は決心する。
「……織田に、降伏を申し出よう」
キリシタン達を、民達を、京の宣教師達を救う為に、荒木を裏切る事を。
「良く来てくれた高山殿。英断、感謝する」
織田への帰順を織田に申し出た高山右近を待っていたのは、まだ若き織田の次代、奇妙丸であった。
「――はっ!!」
平伏する高山右近の近くへと奇妙丸は寄り、肩に手を置く。
「貴殿の英断のお陰で、摂津の民も、キリシタン達も、そして織田の兵士達も死なずに生き延びる事が出来る。死んでしまえば、元も子もないからな。貴殿の判断は間違っていないと、証明して見せよう。……高山殿。共にこの日ノ本を、宗教を超え、全ての民が安寧に暮らせる時代にしようではないか」
優し気な、親し気な口調で話しかけてくる奇妙丸は、歳よりも大人びて見える。
正しく、大将の器と言える様な――少なくとも高山右近からはそう見える――対応であった。
「――っ!! ――ははぁ!!」
改めて平伏する高山右近。
摂津の要衝である高槻城が、事実上落ちる事となったのである。
これを高槻城に帰還した高山右近からそう報告を受けた右近の父である高山友照は激怒、一頻り暴れた後、伊丹城へと逃げ延びた。
更に、これを聞いた茨木城の中川清秀、多田城の塩川国満、三田城の荒木重堅等が荒木からの離反を宣言し、史実通り伊丹城の荒木村重は孤立する事となった。
「――な、なにがどうなっている!!」
伊丹城の評定の場で、城主荒木村重は怒り半分、恐れ半分で怒鳴っていた。
「……恐らく、何者かが織田への臣従を唆したのかと」
「誰が! 誰がその様な事を! ――探せ、探し出して殺せ!」
主からの無茶な命令に、家臣達も困ってしまう。
城主ともなれば、会う人間など数知れない。
その証明書がある訳でもあるまいし、探し出すなど実質不可能である。
だが、その端で座る松永と須藤は、怒鳴り散らす荒木村重と、それを諫め、慌てる家臣達を横目に、
「高槻城は摂津の要所、織田方に落ちるとは不味い事になりましたなァー」
「いやー不味いですなぁ。いつ織田が攻めてくるのか。しかも、聞けば五万もの軍勢で侵攻してくるとは、真に恐ろしいですなー」
と、白々しい言葉を空気も読まずに発言し、それを聞いた荒木の将達の顔色が青白く変わる。
それをまるで見ていないかの様な実にマイペースな会話が続く。
松永はふと、思い出した様に口を開く。
「そう言えば須藤殿。織田軍大将は織田の長子である奇妙丸だとか」
それに対して、
「……えぇ。恐れ多いですが、まるで子供が巣立っていく様な感じがしますよ。某の全ての知識を叩き込みましたからな。敵として応対するのも一興です」
須藤はどこか嬉しそうな微笑を浮かべた。




