第五十六話 織田家騒然
さて、誰がどう動くでしょう?
1560年 五月中旬 京
松永久秀、須藤惣兵衛の二名が離反、摂津の荒木村重へ内通す。
それは、松永久秀の息子である松永久通により齎された。
以前より、何が動いている気配があったらしいのだが、久通に何か言う前に己の手勢と、”雑賀衆”を連れて摂津へと向かったのだと言う。
畿内の雄である松永久秀と、須藤惣兵衛の裏切りに対する家中の人間の表情は様々だった。
「……織田の優勢なこの状況で謀反か。……須藤殿らしくはないな」
「……そうですな。須藤殿ならば、この様な短絡的な事はしないと思います。なにか裏があるのでしょうな」
と重鎮である柴田勝家や丹羽長秀の様に冷静に状況をみる者。
「――馬鹿か。松永は兎も角、須藤がそんな事をする訳がねぇ」
「応よ、父上! 須藤の旦那がそんな事する訳ねぇだろ! 当たり前だ!」
と、謀反の事実を否定する者。
特に、親しかった森可成とその息子長可等は、そう言って聞かなかった。
そして、一部の家臣達は、以前からの須藤の待遇や、先の戦における須藤の行動など、離反する理由に当たりをつけ、心の中では納得していた。
そして、誰よりも驚いていたのが、
「……須藤と松永が……離反、だと? ……それは……真か?」
織田信長その人であった。
大和一国を任せた松永と、己が信頼を置いた”軍監”の裏切りは、信長に衝撃を与えていた。
信長は翌日、すぐさま家臣団を評定に集めた。
「……さて、皆も聞いているだろうが、須藤と松永の両名が摂津の荒木の下へと降ったらしい。……半兵衛、官兵衛。久通より齎された情報や、荒木の状況を改めてここで皆に説明してくれ」
「「――はっ!!」」
信長の指示に半兵衛と官兵衛は頷くと、説明を始めた。
部下であり、気の置けない間柄であった”軍監衆”の同輩である須藤が離反したのにも関わらず、二人は冷静かつ普段通りの面持ちである。
「――離反した須藤惣兵衛並びに、松永久秀は”雑賀衆”を含めた総勢六百の兵を率いて大和より摂津へと向かったとのこと。恐らくは荒木村重と合流するつもりかと。現在久通殿の放った草が両名を追っております」
「一方、荒木村重ですが、周囲の城に高山右近等の家臣団を入城させ、本人は手勢千程で伊丹城へと籠っているとのこと」
史実における荒木村重の謀反には、官兵衛の主家である小寺家も加わり、それを説得する為に官兵衛は独り伊丹城を訪れ、牢獄に一年もの間投獄され、身体が不自由となっている。
だが、この世界では荒木村重とその取り巻き達のみが公方や三好に唆され、離反している為、史実の様な一万の兵を集めるという事も出来ず、例え須藤達がそれに加わったとしても、兵力差は圧倒的だ。
軍監達からの報告を受け、暫く黙っていた信長だが、
「……軍略調略は”軍監衆”に任せる。その他の者はいつでも動けるようにしておけぃ――解散!」
そう言うと、上座の間から立ち去って行った。
信長の去った評定場では、続々と家臣達が立ち去っていく中、その多くがチラリチラリと半兵衛と官兵衛を見てから去っていく。
半兵衛と官兵衛は、苦笑を浮かべながら顔を見合わせる。
それが、須藤の離反についての事柄であると、言われなくとも理解出来る。
だが、二人とて戦国の世に生きる武士だ。
裏切り、謀反、離反、仲間割れ等、乱世にはありふれてると理解している。
それに加えて、半兵衛は主家を裏切り、官兵衛は主家より引き抜かれた立場である。
「さて、須藤殿は何を考えて松永殿と共に荒木の側へと寝返ったのか……」
「えぇ、それを調べなければなりませんな」
二人は頷き合い、話し合う為に”軍監衆”に当てられた部屋へと歩き始めた。
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