第五十四話 小谷城炎上
感想で、「信長と主人公を殺戮者にでもする気か」と訊ねられたので、急遽シナリオを若干の修正をした小心者の野央棺です。
いや、最終的な結果としては一緒なんですけどね?
急いで修正致しましたので、誤字脱字、いやこれありえなくね? という箇所がありましたら、優しい言葉で指摘していただければ幸いです。
どこかから、一際大きな声が聞こえてくる。
朧気ながら聞こえてくる「久政が出てきたぞ」や「浅井の前当主だ」という言葉から、浅井の前当主である浅井久政が出てきたのだろう。
ここで討って出なければ、結局は炎に焼かれるか、殺されるしかないのだから、久政も長政も討って出るしか手が無いと、俺は考えていた。
だが、俺が想定したのとは、少し違うことになった。
「須藤様!」
足軽の一人が、慌てた様子で駆け寄ってくる。
「どうした?」
「それが……浅井家前当主浅井久政が降伏を申し出ておりまして……殿に目通り願いたいと」
俺が訊ねると、その足軽は戸惑うような、慌てた様な様子で答えた。
久政が降伏を?
……その展開も考えなかった訳ではないが、武闘派揃いの浅井家の事だから、徹底抗戦するつもりだとばかり思っていた。
それに信長への目通り、か。
基本的にだが、降伏する人間は丁重に扱わなければならない。
まぁ状況によりけりなのだが。
だが、殿――信長に会いたいというのなら、会わせない訳にもいかない。
前当主とは言え、久政・長政の二人で浅井家を仕切っている事には変わりが無く、久政も長政と同様、大将みたいなモノだ。
この戦の差配をしているのは俺だが、大将は信長であり、こういった場合の決める権利は大将である信長が持っている。
会わせるしかない……な。
「……久政だけか?」
「いえ……久政の奥方や幾人かの侍女なども含まれておりまして、その身の安全を求めております」
「そうか。………………分かった。丁重にお連れせよ」
「――はっ!!」
足軽が去っていったのを見送り、
「――攻撃を中止せよ! 前浅井当主久政が降伏を申し出た! もう一度言う! 攻撃を中止せよ!」
と大声で指示を出す。
俺の命令は、伝言ゲームの様に伝わっていき、兵士達は戦うのを止める。
そんな光景を見ながら、
「……上手くいかないもんだな」
と、俺は誰にも聞こえない様に呟いた。
数刻後、燃え盛る小谷城を前に、俺は一つ溜息を吐いた。
既に前当主である久政等は信長の下へと送られているが、現当主である長政を逃してしまったのだ。
どうやら、少数の手勢を連れて包囲の薄い場所を狙って脱出したらしい。
……あんだけ威勢良く大言吐いておきながら降伏を許し、敵大将を逃すとは、俺の拙さを思い知らされる。
だが、一応は差配を預かっている手前、それを表に出す訳にもいかない。
俺はもう一度溜息を吐くと、腕を振り上げ、
「――此度も我等の勝利ぞ! 勝鬨を上げよ!」
と叫ぶ。
それに合わせて、織田の将兵達も「えい、おう、えい、おう」と勝鬨を上げ、帰還していく。
「……」
ふと、壊された城門から、城の中を見る。
焼き爛れ、既に炭の塊と化した人の屍の山。
それは、一ヵ所に集められ、燃やされた浅井の人間であったモノのなれの果てだ。
俺の、罪の塊だ。
俺が浅井を攻め滅ぼすことを進言しなければ、そして、もっと早く攻撃を中止させていれば、彼彼女等はまだ長生きできただろう。
幼子が成長し、浅井の若き風となって戦場を駆ける事もあっただろう。
愛するべき妻と、夫と、幸せな時間を過ごすことが出来ただろう。
だが、俺の一言でそれが潰えた。
生き残ったのは久政と、その奥方や数少ないそれに追従した臣下や侍女達、そして逃げた長政とその手勢だけだ。
俺がやっている事は、史実の信長や悪人と後世に伝えられている人間と大して変わらない。
非難されるべき、最悪な事だと理解している。
後世には、きっと悪事として伝えられるだろう。
だとするなら、俺は女子供も容赦無く殺す冷酷な軍師ってところか。
「……須藤殿、某等も帰還致しま――何を笑っておられるのです?」
いつの間にやら近くにいた秀吉が、訊ねてくる。
……笑ってる? 俺が?
驚いて口元に手をやると、僅かに口角が上がっていた。
どうやら知らずの内に笑っていたらしい。
「……いや、損害少なく城を焼き落とせた。それに、長政は逃したが、久政は捕らえる事が出来たからな」
……ま、計画通りにはなってないんだけど。
「成程! ……いやいや、流石須藤殿。此度の策も冴えておりましたなぁ! カッカッカ!」
機嫌良さそうに笑いながら先を歩いていく秀吉。
その後ろ姿を見ながら、ふと思い出す。
『えぇ、共に織田の天下の為、外道悪道に塗れて参りましょう』
降伏してきた際の松永の言葉と、あの仲間を見る様な眼を。
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この作品とクロスしております、ナカヤマジョウ様の『謙信と挑む現代オタクの戦国乱世』も投稿されております。
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