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第五十一話 浅井軍急襲

という訳で、ゲリラ戦法とだまし討ちばかりの主人公、またもや奇襲です。


向こうの主人公よりもなんだろうかこの不遇さというべきか、地味さというべきか……。

屋敷なし、家紋なし、家臣なし、金それなりにあり、の器用貧乏です。

「な! 何処から、何処から撃たれた!?」


「て、敵襲! 敵襲~っ!」


「殿と大殿をお守りせよ!」


「小谷城まで撤退するしかあるまい! 退け! 退け~!!」


 銃弾が撃ち込まれた浅井本陣は、てんやわんやの大騒ぎだった。

 戦況は此方が押しており、織田軍が接近している等と言う報告は届いていなかった。

 だからといって、他勢力がこの戦場にいる訳がないので、織田軍の部隊である事は理解出来た。

 だが、それがどの武将の軍なのか、軍旗が見えないのでわからない。

 更に、間髪入れずに何十、何百といった銃弾が浅井本陣へと撃ち込まれる。

 撃ち込まれた銃弾の一つが、長政と久政の直ぐ横に立っていた兵士の頭を肉片と脳髄を撒き散らしながら貫いた。

 それを間近で見てしまった久政と長政親子は顔を青白くさせる。


「こ、ここは退くぞ長政!」


「は、はい! 父上!」


 それから逃げる様にして、慌てて浅井久政、長政は家臣に守られ小谷城へと撤退し始め、残った家臣達の内の数人が弾丸の餌食となってしまうも、本陣に詰めさせていた鉄砲隊に指示し、凡その位置に目星を付けてそこを撃たせる。

 所詮は当てずっぽうであり、当たるとも思っていなかったが、銃撃が止んだ為、生き残った家臣達も、慌てて主君達の後を追った。






 更に、慌て過ぎて走って逃げる久政・長政親子に、織田の追手が掛かる。

 須藤の奇襲に応じて、半兵衛と官兵衛が派遣した”鬼柴田”こと柴田勝家の騎馬部隊である。


「浅井家当主長政・先代当主久政とその家臣共か。織田に仇成す者共よ。この”鬼”が潰し、砕き、喰らってやろう」


 ”掛かれ柴田”、”鬼柴田”の異名は近江にも轟いており、柴田の軍旗である二つ雁金を眼にした浅井親子は飛び上がらんばかりに驚いた。

 家臣達に柴田の足止めを任せると、一目散に小谷城へと逃げて行った。





【視点:須藤惣兵衛】



 さて、という訳で撤退して――いる訳がない。

 ただ逃げ帰るだけじゃ、面白くないからな。

 撤退する浅井勢を先回りして、小谷城が見え、尚且つ守衛に気付かれない程の場所まで”雑賀衆”と共に待機していた。

 それも、俺等の方が小谷城に近い位置にいた故である。


 さて、ここでやる事なんて一つだ。


「……準備は?」


「勿論、出来てますぜ」


 ”雑賀衆”の十人程が手にした()を掲げてニヤリと笑う。

 所謂、忍者が使うような典型的な爆弾――焙烙玉って奴だ――と、火矢を用意させていた。

 そして――


「――来たな」


 浅井家当主と、前当主と、幾人かの家臣達が見えてきた。

 人数は……思ったよりも少ないか。

 どの顔にも疲労が蓄積されており、心許ない足取りである。

 それに手に持っているのは刀や槍ばかりで、弓兵や鉄砲隊はいない。

 恐らくは迫る織田軍の足止めにでも行ってるんだろう。

 良し、良い状況だ。

 守衛達もそれに気付き、己が主君達に視線を向けている。

 うん、まぁ……丁度良いか。


「――やれっ!」


 俺の命令に従って、”雑賀衆”の十数人が浅井の兵達に焙烙玉や火矢を撃ち掛ける。

 それと同時に、他の”雑賀衆”は鉄砲を撃ち掛け、牽制して貰う。

 鳴り響く銃声に加え、焙烙玉の爆発音と、飛び散る破片の音、そしてモノが焼ける音。

 良し、十分な成果だな。


 嫌がらせに、焙烙玉や火矢を城の中に投げ込む。

 ……どうか誰か巻き込まれますように、っと。


「――良し! 敵さんが来る前に撤退するぞ!」


「「「「――了解!」」」」


 敵が冷静さを取り戻して攻撃に出て来る前に、俺達はとっとと撤退した。






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