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第五十話 反撃開始

主人公は裏方。


 ――磯野員昌討死、磯野勢壊滅。



 先鋒を賜った磯野は、久政・長政は勿論、浅井家家臣達にも信頼されており、その武勇も皆が認めるところであった。

 その磯野が、敵陣深くに斬り込んでおり、織田軍の大軍を蹴散らして織田本陣に迫る程である事は浅井家中にも知らされており、大将である信長の頸を持って帰ってくる事も早いのではないかと思われていた。

 だが、その後浅井に齎されたのは、その猛将が討死し、彼が率いていた精鋭達の殆どが戦場に散ったという悪報であった。

 その知らせを聞き、浅井勢には動揺が広がった。

 そしてそれを見逃す”織田の二兵衛”では無い。

 磯野に蹴散らされた織田軍を早急に取りまとめ、編成しなおすと、差配を始める。


「右翼は我が指示に従いなさい。――敵の士気は崩れました。一気に押し返します!」


「左翼は某が差配仕る! ――織田の精鋭達よ、突撃せよ!」


 磯野勢が崩れ、壊滅したことにより、”二兵衛”の差配により織田軍の攻め手達が勢いを盛り返し、浅井軍を押し返し始めた。

 その勢いは、正しく”怒涛”の言葉が似あう程に苛烈であり、その動きは敵の弱点を知っているかのように正確だ。

 更にそこに、


「――徳川より援軍として参った! 榊原小平太康政推参なり! 勇猛にして精強なる三河武士達よ――蹂躙せよ!」


 朝倉軍を撤退させた徳川軍より援軍の先鋒として榊原康政の軍勢が現れ、浅井軍の右翼に突撃。

 逆の左翼には、横山城を包囲し、降伏させた織田軍が浅井軍左翼に突撃。

 これで、形勢は完全に逆転した。




 朝倉勢が撤退し、残ったのは浅井勢だけであり、本陣に詰める久政と長政の親子と諸将で、撤退するべきか、攻勢に出るべきかで言い争っていた。

 父久政は撤退を進言するが、武勇に優れるも、まだ若い長政は首を横に振り、


「浅井家の武勇をもってすれば、如何なる状況も引っ繰り返せまする! 父上は臆病者の誹りを受けたいのですな!」


 と嘲笑する。

 だが、そこに――


 ドン


 と、一発の銃弾が撃ち込まれた。






【視点:須藤惣兵衛】



「……外したな」


「……面目ねぇ。流石にこの遠さじゃ、陣内に撃ち込むだけで精一杯でさぁ」


 ”雑賀衆”の一人が落ち込むが、まぁこんなに遠くからだし、無理があるか。

 ……え? 俺達がどこにいるのかって?

 聞いて驚いてくれ。

 浅井家当主長政が布陣している場所の背後にある大依山の麓だ。

 なんでこんなところにいるかというと、開戦前の、まだ日も上がっていない時間に、俺と”雑賀衆”は誰にも気付かれない様に龍ヶ鼻を背後の横山城側から出立。

 開戦したのを見計らって、七尾山を大きく迂回して浅井本陣の背後、朝倉が布陣し、陣払いをした大依山に出た。

 近くに小谷城があるものの、現代のゲリラ並みに草木や泥を纏って擬態していた俺達には気付く事も無かった。

 そもそも軍旗を掲げる訳も無く、草木に紛れながらの移動だったから、気付くはずもないのだが。

 ”雑賀衆”がこういった事を得意としていて助かったぜ。


「ま、外したモンは仕方が無ぇ。――よーし、撃て撃て。どんどん撃ち込んじゃれ」


「「「「うーっす!」」」」


 という訳で、”雑賀衆”に指示を出し、浅井家本陣に弾丸の威力を殺さないギリギリの範囲からの襲撃を慣行する。

 ここ最近でめっきり慣れてしまった銃声が、途切れることなく響き渡る。

 別にこれで敵将を殺す必要はない。

 これで慌ててくれれば十分だ。

 慌ててくれれば、指揮系統が乱れる。

 それを逃す半兵衛達じゃない。


 ドン、ドドドドドド!!


 ……っと、撃ち返して来やがったか。

 ただでさえ数が少ない鉄砲隊なんだから、こんな所に布陣させておくなよ。阿保か。

 とはいっても、練度がそこまで高くない上に当てずっぽうなのか、的外れな方向に撃ち込んでいるが。

 だが、もしかしたら当たるかもしれない。

 当たったら痛いのは目に見えている。

 おー怖い怖い。

 こんな時は撤退するに限る。


「良し、撃ち方止め止め! じゃ、奴さん等がお怒りな内に、尻尾巻いて逃げるぞ~」


「「「「うーっす!」」」」


 俺の言葉に反論することなく、「楽な仕事だ」やら「下手糞な腕だな」なんて呟き合いながら、俺と”雑賀衆”は再び草木に紛れて姿を消した。

 後は半兵衛達に任せても大丈夫だろう。




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