第四十九話 無慈悲な弾丸
皆様は好きな武将は何でしょうか?
筆者が好きなのは徳川の榊原康政と、武田の”真の副将”内藤昌豊、そして武田信玄の弟である逍遙軒こと武田信廉です。
……はい、本編には一切関係御座いません。
1560年 近江 姉川
俗に言う”姉川の戦い”は、史実通り、早朝、朝倉勢が川を渡り、三田村に布陣していた徳川勢の先鋒である酒井忠次率いる部隊と衝突し、開戦となった。
朝倉軍に比べ、徳川勢は寡勢であったが、武勇に優れた家臣達が奮戦。
拙速で以て、朝倉勢を討ち散らした。
一方、織田対浅井の戦場はというと……。
「我こそは浅井家家臣磯野員昌! 某が必要なのは織田上総介の頸のみ! 尾張の弱兵共よ、そこを退け!」
精強と有名な浅井軍対し、俺達織田軍は軍を十三に分けて編成、これを防いでいたのだが、、浅井家家中でも先鋒を任される程に武勇に優れた猛将の磯野員昌に率いる浅井の精鋭部隊によって先鋒である坂井政尚、第二段の池田恒興、第三段の木下隊やその後ろに控えていた柴田までもが突き破られた。
その勢いは凄まじく、磯野と精鋭達は後ろを振り返ることなく、ただ愚直に織田本陣へと斬り込んでいく。
そして、見えてくる織田本陣に翻る永楽通宝の軍旗。
「――織田が軍旗が見えたぞ! 皆、気張れぃ!!」
「「「「オオオオオオオオォォォォォッ!!」」」」
最早、己等を止める事など誰にもできない。
そう確信し――
ドドドドドドド!!
無情にも、無慈悲な鉛の弾丸が、放たれた。
「――来ましたね」
「えぇ、流石は江北武者の中でも、武闘派と称される浅井が精鋭ですな」
磯野率いる部隊が迫ってくるのを、織田本陣の前に陣取った二人の”軍監”が、気負いなく言い合う。
状況を見れば、織田の窮地だ。
だが、彼等は自信満々な笑みを浮かべている。
それもそのはず。
彼等の前には、他国に勝る数を持つ鉄砲隊、その多くが整列し、二人から放たれる指示を今か今かと待っていた。
「確かに、優れる武力を用いて突貫する事も戦法の一つ――ですが、過ぎたる自信と武勇は、自身に死を齎す」
「然り。……既に個人の武勇が持て囃される時代は過ぎ申した。……時代遅れの猪武者には、ご退場願いましょう」
”今孔明”こと竹中半兵衛と、”織田の鳳雛”こと黒田官兵衛。
織田が誇る知恵者二人は頷き合い、
「――鉄砲隊構えなさい!」
二人は采配を目の位置までに持ち上げ、そして――
「「――放て!!」」
振り下ろした。
それに応じ、鉄砲隊が一斉に引き金を引き、幾百もの鉛玉が磯野率いる浅井勢に襲い掛かる。
浅井勢とて、勿論鉄砲は所持している。
それの危険さも、理解している。
それが、いとも容易く鎧を貫く事を知っている。
だが、織田の鉄砲隊は、規模が違う。
圧倒的なまでの数の暴力。
鉄砲は、数を揃えてこその武器だ。
この時代の銃の命中率など、たかが知れている。
”雑賀衆”や”根来衆”、滝川一益など、銃の扱いに長けている者ならば百発百中なのだろうが、多少鍛錬した程度で当たる程、この時代の鉄砲の取り扱いは難しいのだ。
だからこそ、数が重要なのだ。
事実上京の都を勢力下に置き、畿内、大和を手に入れた今の織田は、鉄砲や弾薬は以前にも増して安価かつ大量に入手出来る様になっている。
更には、信長の信頼厚き”軍監衆”が顔を揃えて『鉄砲の必要性と重要性』を説いてきたのだ。
織田軍は、以前にも増して銃の量産と、”雑賀衆”による鉄砲部隊の育成に力を入れていた。
それが今、日の目を見るのである。
「――馬鹿なっ!?」
驚き、眼を見開く磯野の頬を、肩を、腕を、弾丸が過ぎていく。
己のすぐ後ろで馬に騎乗していた兵士の頭に弾丸が当たり、「あっ」と声を上げて落馬する。
故郷で、もうすぐ赤子が生まれる妻が待っていると言っていた兵士の胸を、幾つもの弾丸が貫き、絶命する。
いつも明るく、溌剌な性格で皆から愛されていた兵士が、足に銃弾を受けて倒れ伏す。
「……ふざけるな。……ふざけるな。ふざけるな……ふざけるな!! こんなっ! この様な――がっ!!」
そして、名も無き兵士達が放った銃弾が、磯野の心臓を、腕を、足を、頭を、貫いていく。
(……これが、新たな時代の……戦か)
最早朧気となった意識の中、磯野は自身が率いた武士達を見やる。
浅井家の中でも武勇に優れた強者達が、まるで羽虫の如く、あっという間にその命を散らす。
磯野が最後に見たその光景は――悪夢の様だった。
この作品とクロスしております、ナカヤマジョウ様の『謙信と挑む現代オタクの戦国乱世』も投稿されております。
宜しくお願いします。
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