第四十八話 殲滅戦
近江 龍ヶ鼻 【視点:須藤惣兵衛】
「旦那、全員配置に着いたぜ」
「おう、そうか」
”雑賀衆”の有力者である鈴木重秀が俺に声を掛けてくる。
状況は俺の想定した通り、梁田殿が率いる鉄砲隊の一斉射撃により、浅井軍の先鋒は崩れた。
だが、直ぐに第二番手が来るだろう。
浅井軍の眼は梁田殿等に向いている為、俺達の動きは察知されていないらしい。
……随分腕っぷしに自信があるらしい。
いや、まぁ近江周辺の江北武者って精強な事で有名なんだけど。
……お、どうやら梁田殿と佐々殿は後退出来たみたいだな。それに浅井軍がもう既に迫ってきている。
良し、後は鏑矢の合図さえあれば――
ヒュウウウウゥゥゥゥゥン!!
甲高い鏑矢の音が、戦場に鳴り響く。
――来たか!
「――総員、射撃ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
ドドドドドドドドドドドド!!
俺の指示に従い、”雑賀衆”の腕利き達が一斉に銃を放つ。
それと同時に、離れた場所から、銃声が聞こえてくる。
佐々殿の軍の銃声だ。
佐々衆、雑賀衆総数四百挺の銃より高速で放たれる弾丸が浅井の兵士達の身体を貫いていく。
「――おら、撃ち終わったらとっとと早合で補充しな! 撃ち続けるぞ!」
「「「「――おう!!」」」」
”雑賀衆”は、紀伊の根来衆と並んで、銃の扱いならば戦国トップクラスだ。
早合――装填を簡便にする為に使われた弾薬包である――を使えば、”雑賀衆”なら二十秒もかからずに次弾の装填が出来る。
それを部隊内で上手くずらしていけば、早合がなくなるまでは引っ切り無しに銃を撃ち続けられる。
そして装填を終えた”雑賀衆”は、再び撃ち始める。
その様は、見惚れてしまうほどにスムーズで、見事だ。
筒より放たれた鉛玉は足軽程度の軽装など、容易く貫いてしまう。
一手目で二百以上の兵士が死ぬか、負傷を追った上、更に四百もの銃弾が後続の部隊の兵士達に当たっていくのだ。
それに加え、横腹からは引っ切り無しに銃弾が飛んでくる。
最早浅井軍は崩れ、仲間を見捨てて逃げ始める。
だが、逃がす訳にはいかない。
「――攻撃中止! 鏑矢一本!」
「鏑矢一本了解!」
俺の指示に、鏑矢が再び甲高い音を立てて空に放たれる。
それは、第三手の合図だ。
「オオオオオオォォォォォ!!」
地鳴りの様に響く男達の野太い声と、ドドドドドという馬の蹄の音と共に、第三手である中条殿の騎馬部隊が崩れた浅井軍にあっという間に追いつき、襲い掛かる。
それに加えて、鉄砲から槍や刀に得物を変えた佐々殿や梁田殿率いる軍勢が、討ち漏らしを殺していく。
俺の指示である”殲滅”を成さんと、織田の兵士達が鬼気迫る表情で浅井軍を殲滅していく。
流れる血と、あちこちに散らばる頸や首の無くなった身体。
その様は、正に地獄絵図と言っても良いだろう。
浅井軍はどれ程残ったのか、それは分からないが、ほぼ壊滅といっても良いだろう。
「――良し、此度が戦は勝利だ! 勝鬨を上げよ!」
「「「「えい! おう! えい! おう! えい! おう!」」」」
将を代表し、第一手を務めた梁田殿が声を上げ、それに兵士達も嬉しそうに声を上げる。
「……さて、先ずは一勝、だな」
その光景を、俺は遠くから見ていた。
そして翌日、浅井軍は朝倉の援軍の総大将で、朝倉家当主朝倉義景の甥である朝倉景健率いる八千の朝倉軍と合流、小谷城の南方、姉川の北側の野村、三田村の二つに軍を分けて布陣。
それに対して織田軍も川を挟んで布陣し、徳川勢が三田村に、野村には馬廻衆と西美濃三人衆を向かわせた。
前哨戦は織田徳川連合が勝利し、本戦である”姉川の戦い”が、始まろうとしていた。
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この作品とクロスしております、ナカヤマジョウ様の『謙信と挑む現代オタクの戦国乱世』も投稿されております。
其方もご覧下さいませ。
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