第四十六話 朝倉・浅井征伐
1560年 四月下旬 京 【視点:須藤惣兵衛】
「朝倉と浅井を、今こそ討ち果たさん! 出陣!!」
翌日、信長は大軍を率いて朝倉、浅井を討つ為に京を立った。
都の守護には松永久秀や丹羽長秀を筆頭にした織田臣下達、そして本願寺勢を残して。
ここで問題になるのは、何処を戦場にするかだ。
まさか史実でこっぴどくやられた金ヶ崎を戦場にする訳もない。
それに、浅井と同盟を結んでない状況で、浅井が背後となる金ヶ崎を戦場にするのは、ただ自軍の被害を広げるだけだ。
そこで、朝倉軍を越前から引っ張って、近江の姉川を戦場にする事を”軍監衆”は決めた。
対する朝倉や浅井方は、織田への防御の為に、美濃へと繋がる長比城や苅安城等に兵をいれた。
城将は近江国坂田郡を代々治める堀家当主である堀秀村と、その家老である樋口直房だ。
で、ここで半兵衛の出番だ。
半兵衛が稲葉山城を乗っ取り、そしてそれを返して隠居した際、一時期仕官先を探して近江へと向かったのだそうだ。……一週間程で出て行ったそうだが。
曰く、当主浅井長政は武勇は優れているが、大器では無い、らしい。
で、その間半兵衛の面倒を見ていたのが、樋口直房であった。
半兵衛は、樋口直房に書状を送り、本願寺や延暦寺、雑賀等が織田方につき、武田も今川が抑えている事を伝え、織田方に寝返るようにと説得した。
樋口はそれを承諾。
主君である堀を説得し、内応させることを取り付けた。
それに乗じ、北近江へと進出。
翌五月には浅井家当主浅井長政と、その父久政が居城としている小谷城の南にある虎御前山に本陣を置いた。
で、こっからも史実通りに動くだけだ。
朝倉家当主朝倉義景勢が越前を立ち、近江小谷城の北にある木之元に集結したのを確認して、背後の横山城からの襲撃に気を付けながら、姉川を戦場にする為――信長や家臣達には横山城を先に攻めると偽って――に、姉川を渡り、龍ヶ鼻へと移動を開始した。
これを見て、好機と見たのは小谷城にいる浅井家の若き当主、武勇に優れた浅井長政や、家老の遠藤直経等である。
「父上、これぞ好機! 織田が撤退する背後を、我等精強なる浅井が精兵達が突けば、織田軍はいとも容易く瓦解しましょう! 今こそ攻めるべきです!」
「殿の仰る通り! 大殿、どうかご決断を!!」
掴みかからんばかりの気勢で長政が言い募る。
だが、長政の父である久政は、首を横に振った。
「……いや、織田の力を舐めてはならぬ。ここは朝倉殿からの援軍を待つべきだ。幸いに、朝倉殿の軍勢がすでに近くまで来ている。それと合流してから攻めるべきだ」
「――ですがっ!!」
「ならぬ!!」
久政の言葉に、長政が反論しようとするが、それでも頑として首を縦には振らず、家臣の大多数もそれに賛成し、朝倉の援軍を待つ事となった。
だが、それで収まる長政等ではなかった。
長政に指示された軍勢一千が、久政の命令を無視して龍ヶ鼻へと行軍する織田軍へと突撃していったのだ。
それが、織田の掌の上だとは露とも思わずに。
近江 龍ヶ鼻 【視点:須藤惣兵衛】
「お、来やがった来やがった。浅井家ってのは随分意志の統一が出来てないらしいな」
龍ヶ鼻から小谷城より馬を走らせる浅井軍一千騎を見ながら、信長が笑う。
「これ程隙を作れば、敵も好機と見て突撃しましょうが……まさか本当に突撃してくるとは」
その隣で、半兵衛が頷いた。
「内応した堀殿によれば、浅井家臣の一部には武勇に優れますが、それ故に浅慮な者がおると聞いておりますし、こうなるのは目に見えておりましょうな。過ぎた勇敢は蛮勇にも等しいモノです」
逆側に控える官兵衛も、さもありなんといった様子だ。
そしてもう一人、
「……うむ、官兵衛、半兵衛の言った通りであるな」
本来ならば元服の年齢に到達している奇妙丸様もまた、不思議そうな、感心した様な表情で戦場を見ていた。
奇妙丸様の側廻としてついていた俺が、
「奇妙様、あんまり前に出ぬ様に。……では、俺は三左殿等と奴等を蹴散らしてくる。半兵衛殿、官兵衛殿、殿と若様を頼み申す」
と声を掛けると、半兵衛と官兵衛が頷き、信長も「おう。蹴散らしてこいや」と反応――奇妙丸様は戦場に見入っており、反応してくれなかったが――する。
それに俺は頭を下げ、馬に飛び乗ると、三左殿や秀吉等と合流する為に、馬を走らせた。
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この作品とクロスしております、ナカヤマジョウ様の『謙信と挑む現代オタクの戦国乱世』も投稿されております。
其方もご覧下さいませ。
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