第四十四話 優先するべきは……
現在、俺がいる京は、いつ戦場となってもおかしくない危険地帯だ。
奇妙丸様の目付でもある柊殿なら兎も角、奥方様が来るのは危なすぎるだろう。
というか、俺は美濃の岐阜城にいると思ってたんだけど、いつの間に京に来てたんだ?
「……奥方様、何故ここに?」
俺の質問に、奥方様は大した事ではないという様子で、
「あら、須藤殿と柊の婚姻を結ぶ為に決まっております」
と言い切った。
……そんな理由で二国の大名の奥方様がこんなところに出張らないで頂きたいのだが。
奥方様は、信長の隣に座り、
「須藤殿、柊は貴方様を慕っております。どうか、柊の思いを汲んでは下さいませんでしょうか?」
奥方様の言葉に、俺は言葉に詰まってしまう。
「あ、いや……えーと、奥方様、柊殿程の女性なれば、他にも良い嫁ぎ先があると思うのですが……」
俺がそう言うと、奥方様はニコリと笑い、
「あら、須藤殿は己を好いてくれる女子に対してその様な事を仰るのですか?」
と俺に聞いてきた。
……つーかこっわ!
奥方様無茶苦茶怖いっス!
眼が、眼が笑ってない!
俺が信長に目線を送り、助けを求めると、信長が動いてくれた。
奥方様の肩に手を乗せ、
「あー……まぁなんだ。お濃、少し落ち着――「殿は黙って下さいませ」――いてくれませんでしょうか……」
――弱っ! 信長弱っ!!
言葉の最後聞き取れない程小声だし、しかも敬語になってんじゃねぇか!!
妻に、しかも年下に「黙れ」の一言で黙るなよ!!
お前それでも二国を統治する大名かっ!
第六天魔王の名が泣くわ! この役立たず!
「……」 (ペコリ)
いや、すまねぇ、って感じで謝られても!
お前本当に”織田信長”かっ!
「……宜しいですか須藤殿。聞けば須藤殿のお歳は二十七にもなると言うではありませんか。武家とは、家と血脈を後世に残す事も仕事の内、幾ら貴方様が浪人出身だとて、織田家臣、それも”軍監衆”に名を連ね、家臣達からも一目置かれているのです。その様な御方が奥を持たず、家も無く過ごされているのでは、他家の笑いものになりましょう。そもそも――」
奥方様が俺に対して苦言を言ってくるが聞こえなーい。
二十七歳で結婚してなくて悪いかー!
現代では三十歳独身なんて珍しくもないだろ?
寧ろ後三年も経てば魔法が使えるんだぞ?
戦国時代で魔法を使えるなんて、チートじゃねぇかチート!
何が悪いのか分からな――
「――聞いておりますか!?」
「……はい、すいません」
……俺、なんで謝ってんだろう?
「……柊、貴方も須藤殿に思いを伝えなさい。殿方とは気儘で鈍感なモノ。はしたないと思うやもしれませんが、このお方に対しては強引にいかねば伝わりませんでしょう」
……あの、本人が目の前にいるんですけど。
それに俺、鈍感では無いと自負してるんですが。
反論は……出来ませんかソウデスカ。
「は、はいっ!」
奥方様に促され、柊殿が俺の方を向く。
「あのっ……須藤殿、私を妻にして下さいませんでしょうか?」
いつもはクールで冷静沈着、無表情に近い柊殿だが、今はその頬も耳も真っ赤に染めている。
それが、柊殿が本気なのだと教えてくれる。
勿論、嬉しくない訳がない。
十歳程年齢が離れているのは問題だが、柊殿は聡いし、容姿も整っている。
俺の妻になってくれるには勿体ない程の女性であると思う。
「……」
柊殿が、心配そうに俺を見つめ、奥方様も、そして信長も俺の答えを待っている。
……だが、俺にもやる事がある。
その為には――
「……柊殿には申し訳ありませぬが、丁重にお断り致しまする」
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この作品とクロスしております、ナカヤマジョウ様の『謙信と挑む現代オタクの戦国乱世』も投稿されております。
其方もご覧いただければ幸いです。
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