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第四十二話 近衛前久と細川藤孝

急いで書き上げたのでミスがあるかも。


 1560年 三月下旬 京 【視点:須藤惣兵衛】



 将軍足利義昭の『信長を討て』との言葉に答えたのは、朝倉、浅井、武田、六角、三好衆であった。

 将軍直下の軍に信者を襲われた石山本願寺、そしてそれと手を組んだ比叡山延暦寺は織田方についた。

 そんな中、信長の下に、本願寺勢よりの使者として、元関白である近衛前久(このえさきひさ)が信長の下を訪れた。


 ――近衛前久。

 史実において、内大臣、右大臣、関白左大臣と、要職を歴任した公家近衛家の人間で、軍神上杉謙信とは、妹を嫁がせようとした――実際、この世界では謙信と妹が婚姻を結んでいる――程の仲であったと言う。

 だが、義昭の兄、義輝を殺した三好衆を庇い、匿ったことから義昭の怒りに触れ、関白を解任。

 本願寺の下に身を寄せるが、”信長包囲網”が動き出すと、史実においてこの時期は義昭と信長はまだ組んでいた事から、顕如に三好衆と共に決起する事を促した。

 その後、信長が不仲となった義昭、関白位だった二条(にじょう)晴良(はるよし)を追い出すと、帰洛を許され、信長と親交を深めた、という人物だ。

 この世界では既に、信長と義昭が不仲である為、本願寺と共に織田方に付くこととなっていた。


 信長が上段の間に現れると、前久は平伏する。


「……上総介殿、此度石山本願寺並びにその信徒への援助、真に有難く。信徒達も飢えず、暮らしに余裕ができ、喜んでおります」


「うむ。それは重畳」


 前久の言葉を受け、信長も鷹揚に頷いた。

 勿論、ただの好意で本願寺への援助をしている訳ではない。

 この時代の庶民が一番恐れている”飢え”を防ぐ事で、不平不満を織田に向けない為だ。

 そして、先にやった足利軍に変装しての本願寺勢への襲撃も含め、公方方を敵にさせ、本願寺勢を織田方に引き込む為の策である。


「法主顕如殿も、長き付き合いを、と申しておりました」


「うむ」


 信長は勿論だ、という態度で接しているが、俺や官兵衛、半兵衛は総じて『本願寺勢力は縮小させなければ、いずれ争乱の種火となる』と考えているため、その内策を弄じて、本願寺勢力の数と権威を落とす事になるだろう。

 ……要するにバレなきゃ良いのだ。


「石山本願寺一向衆並びに、比叡山延暦寺は、織田が傘下となり、要請に答える所存。……して、我等は如何にすれば宜しいか?」


 前久が信長に尋ねる。

 信長は軍監である半兵衛の名を呼ぶと、「説明せよ」と命じる。

 半兵衛はそれに頷き、


「……然らば、織田はこれより、朝倉・浅井と戦を致しまする。その間、京に幾人かを残させます故、それ等と共に阿波に逃げた三好衆、近江の六角、二条の将軍義昭公に眼を光らせ、その動きを抑えて下され」


「相分かり申した。顕如殿にお伝え致しましょう」


 良し、これで二条にいる義昭を牽制出来る。

 武田は今川が抑えてくれるから、朝倉浅井に集中出来る。

 さぁ、動き出す時だ。





 1560年 四月上旬 京 【視点・須藤惣兵衛】



 さて、そんな事もあって、朝倉・浅井を攻める仕度が整い、後は従軍する三河の徳川勢の到着と、信長の下知を待つだけ、という状態の時に、とある人物より書状が送られてきた。

 その内容は『降伏したい為、会いたい』というモノだった。

 信長は合う事を承諾、その人物は日の沈んだ後に、極秘裏に訪ねてきた。

 その人物とは――


「いやぁ、飛ぶ鳥すら落とさんばかりの織田上総介殿にお会い出来るとは、この細川与一郎、感激の至りに御座います」


 義輝の頃より仕えた将軍家の信頼厚き幕臣、細川家当主の細川与一郎藤孝である。

 史実でも、義昭を見限り織田方に走った人物なのだが……胡散臭ぇ。

 にこやかで、温和な態度、仕草も完璧なのだが、その笑みと話し方からか、どうにも胡散臭さが抜けないのだ。

 信長もそれを感じているのか、


「……で? 幕府の忠臣たる細川兵部大輔が敵である俺に何の用だ?」


 と率直に訊ねた。


「はっ。……某、織田に寝返ろうと思いましてな」


 その一言に、信長も、そして半兵衛も官兵衛も、そして護衛としていた丹羽殿も驚く。

 まぁ確かに、幕府の忠臣として有名な細川家当主が、将軍家を裏切ると言うんだから驚くか。

 俺は史実を知ってたから驚かないけど。


「……某、あの公方様にはほとほと愛想が尽きましてなぁ。やれ『味方を増やせ』だの『織田を潰せ』だの『飯が不味い』だの『二条御所をもっと豪華絢爛に改築せよ』だの、出来るハズの無い無理難題を、まるで息をするかの如く仰りますからなぁ」


 ……細川藤孝程の人間ですら愛想が尽きるって、どんだけ我が儘なんだよあの阿呆公方は。


「故に、上総介殿にとって有益となる情報も持って来たのですが……」


 そこまで行って、細川藤孝はニヤリと笑い、


「どうやら某が得ている情報を、上総介殿は既に得、その対応も出来ている様子。……いやはや、この細川与一郎、感服致しました」


 その視線は、完全に俺と官兵衛、半兵衛を見ている。

 ……あれだ。理解したわ。

 ……藤孝(コイツ)も松永と同類だわ。

 眼が笑ってないし、完璧にわかってるって顔だ。

 信長が、俺に目配せをしてきたので、事前に打ち合わせした通りに、俺が前に出、


「……細川殿が此方についてくれるの言うのならば、それは是非も無い事。織田家家中一同、細川殿を歓迎致しまする。……然らば、織田家家臣となる細川殿に、頼みがあるのです」


「おぉ、某に出来る事でしたら、如何なる事でも」


 飄々とした、胡散臭い笑みを浮かべ、細川藤孝は頷いた。




ブックマーク宜しくお願いします!


この作品とクロスしております、ナカヤマジョウ様の『謙信と挑む現代オタクの戦国乱世』も投稿されております。

其方もご覧いただければ幸いです。


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