幕間 織田の”三兵衛”
まだまだ閑話が続きます。
時期としては小寺官兵衛が仲間になった後、後半は少し経って、です。
1559年 四月上旬
「改めまして、此度織田軍”軍監補”と相成りました小寺官兵衛孝高に御座る。……お二方、お引き回しの程、宜しくお願い仕る」
正式に織田軍の軍監補となった官兵衛が、半兵衛と須藤に向けて頭を下げる。
それに対して、半兵衛と須藤の両名も、
「此方こそ。……改めて、織田軍”軍監衆”筆頭、竹中半兵衛重治に御座います」
「須藤惣兵衛。織田軍”軍監衆”で嫡子、奇妙丸様の近衛、目付けもしている。宜しく頼む」
と頭を下げ返す。
「……しかし本当に宜しいのでしょうか? 須藤殿を置いて某が軍監補となるなど……」
官兵衛が、ふとした様子で須藤に尋ねる。
官兵衛は、須藤が”軍監補”から、その部下である”軍監衆”へと格下げされた事を気にしていた。
対して、話題に上がった須藤は、
「その事か。……別に気にしてないさ。俺よりも、お前さん等の方がその地位に妥当だからな」
と、大して気にしていない様子で、書類に眼を通していく。
言葉遣いが勝三等への応対と同様適当なのは、この三人の中で一番歳が上だからである。
「須藤殿の仰られる通りです。幾ら殿からの信頼が厚いとしても、須藤殿は民草の出。他国や他家への外聞を考えれば、これが妥当だという判断は間違ってはいないでしょう」
更に、官兵衛よりも歳上かつ立場的にも上である半兵衛も、須藤の言葉に同意する。
「……信長は不満そうだったけどな」
須藤がうんざりした様子で溜息を吐く。
この提案は須藤と半兵衛からしたのだが、これを聞いた信長は頑として首を縦に振らなかった。
「殿は『出自による優遇』というモノを嫌っておる方。ですが、他国の人間や古き伝統を貴ぶ者には良く思わぬ者もおりますし、家中の中でもそう思う者もおりましょう。その者等への配慮も必要でしょうし、致し方ない事です」
だが、信長とて馬鹿では無い。
度重なる須藤と半兵衛の説得により、信長はその提案を受け入れた。
”軍監衆”は主君の相談役や、軍略調略の指示等と同時に、戦場においては大将の変わりに軍を差配する事も役割の一つだ。
だが、須藤は戦場においては奇妙丸の近衛として本陣にいたり、前線指揮官である森可成や柴田勝家と共に最前線で動いたりと役目の幅が広い。
更には”雑賀衆”の指揮などもしなければいけない為、本陣での差配をする事など滅多に無いのだ。
その事や才能を考慮すれば、須藤よりも官兵衛の方が”軍監補”に相応しいのだ。
「……しかし、殿は本当に須藤殿を信頼されておるのですね」
「……ん?」
ポツリと呟いた官兵衛の方を向き、その意味を問う様に首を傾げた須藤に、
「あ、いえ……主君を呼び捨てなど本来なれば無礼。気性の荒い君主であれば即刻斬首でもおかしくありませぬ故」
と答える。
「確かに、龍興様なれば、恐らくは打首にしていたでしょうね」
「ククク……確かに」
須藤は、官兵衛と半兵衛の意見に同意して、笑ったのだった。
1559年 九月 美濃 岐阜城
美濃岐阜城の一室、”軍監衆”専用の部屋で、織田軍の”軍監”である半兵衛と、”軍監補”である官兵衛、そして須藤の三人が、”軍監衆”より上がって来た様々な書類に眼を通しながら、会話を交わしていた。
「――そう言えば、先刻足利公方の軍が本願寺の勢力下にある村を襲ったとか」
――ビクッ!!
「……へぇ、日ノ本を統べる武家の頭領の軍勢たる幕軍が落ちたもんだ」
半兵衛の呟きに、思わず須藤の肩がビクリと震えるが、一瞬で取り繕った為に二人はそれに気付かない。
「ですが、これで本願寺が足利方に付く事もありますまい。此方としては良きことです」
事実、近頃本願寺勢力は公方方と対立姿勢を表面化させており、比叡山の延暦寺勢力とも結託し、公方方への反抗心を滾らせている。
紀伊の雑賀、大和の松永、石山本願寺は織田方に付き、武田は今川の動きによって上洛をする事を躊躇っている。
残るは朝倉、浅井、三好、六角などの勢力であり、
史実における”織田包囲網”は、既に瓦解していると言っても良い状態だった。
それは、間違いなく織田方への追い風となっていた。
「――話はその辺で。この書類を今日中に見終わらせましょう」
”軍監衆”のトップである半兵衛の言葉に従い、須藤と官兵衛は再び書類に眼を落した。
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其方もご覧いただければ幸いです。
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