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第四十話 織田の軍監と各勢力の思惑

慌てて書いたから間違っているのも多いかもしれない……。

もしあっても許してください。

 1559年 七月 美濃 岐阜城



 織田軍軍監の半兵衛、軍監補の官兵衛、そして”軍監衆”を代表して俺の三人は、岐阜城の一室で用意した勢力図を見ながら情勢を話し合っていた。

 理由は勿論、義昭の阿呆公方が各有力者へと送った書状である。


『――信長を討て』。


 ”雑賀”へも届けられたそれは、早馬によって臨時指揮権を持つ俺の下へと届けられた。

 更には松永の下にも書状はこなかったが、幾つかの勢力から「裏切れ」との話が来たらしく、それも俺に報告された。


「……越前朝倉は殿からの上洛の通達を無視、それと同盟関係にある近江の浅井と共に義昭の要請に応える可能性が高い。……”雑賀”は既に此方の手中……それに摂津の池田勝正家臣の荒木もなにやらきな臭い」


 地図の上に、織田に属する場所には白の碁石を、織田と敵対する勢力には黒の碁石をとん、と置いていく。

 紀伊の”雑賀”、大和の松永は白だ。

 摂津の池田勝正家臣の荒木村重は、史実においては信長に謀反を行い、説得に来た官兵衛を牢に監禁した人物だ。

 草に調べさせたところ、何やら三好と関係を持とうとしているらしい。


「近江甲賀城まで後退した六角、阿波に逃げた三好も義昭側に属した、と」


 官兵衛が近江、阿波に黒の碁石を置く。


「本願寺も、今は織田に従っていますが、力をつけ過ぎているのも問題。何か対策を立てる必要がありますね」


 半兵衛が本願寺の場所に白の碁石を置く。

 それに加えて、最も恐れているのが、


「……甲斐の武田はこの機を逃さず上洛でしょう。……長尾は北条と事を構えておりますし、加えて北条は人鬼の佐竹や最上とも対立していて武田にまで目がいかない」


 官兵衛がポツリと呟く。


「草の人数にも限りがありますし、敵対勢力全てに草を放つとして、これから情報がどれだけ得られるか……」


 官兵衛の言葉に、半兵衛も頷く。


「そうですね。……北条の”風魔忍軍”、徳川に属する”伊賀同心”、甲斐武田の”三つ目”、越後の”軒猿”に”鳶加藤”。……巨大かつ精強な勢力には、優秀な草が属しておりますし、織田も草を育てるべきでしょうな」


 情報は、命だ。

 この時代、軍の強さや内政の良さも関係してくるが、特にどの勢力よりも早く情報を手にし、それを上手く生かす事が、大名として躍進するかどうかに関わってくる。

 だが、草はいるものの、それこそ後世にも名が知られる様な草が、織田軍にはいない。


 だが、俺には武田を抑える策がある。

 歴史を変えたが故に出来る方法だ。


「――今川に書状を送ろう。武田が上洛した隙を狙い、甲斐に進軍させれば、武田とて無視は出来ないだろ」


 史実においては織田に負けた後、徳川、武田に領地を奪われた今川だが、この世界においては織田との和睦、及び同盟まではいかないが、技術者や物資などを送り合ったりしている良好な関係を築いており、少ないが離反者も出たのだが、その勢力は未だに保っている。

 当時は、今川を率いていた義元が”東海一の弓取り”と言われ、その軍勢も”戦国最強”と謳われた武田にも負けず劣らずの精強さを誇っていたのだ。

 それを無視できる筈もない。


「成程、今川との関係を結んでいたからこそ出来る策ですな」


「では、今川に早馬を出しましょう」


 その後、その話し合いは、夜遅くまで続いたのだった。






 同時期 石山 石山御坊 



 一向衆が拠点とする石山御坊の本殿で、一人の禿頭の袈裟を纏った男が、書状を見つめて唸っていた。


「……ふむ」


 男の名前は顕如(けんにょ)

 一向衆の中では最大勢力とも言える数を率いる真宗、石山本願寺の法主である。


「顕如殿、貴殿が悩み事とは如何なる書状が届いたのですかな?」


 そこに、柔和な笑みを浮かべながら一人の男が歩み寄る。

 越後の龍、上杉謙信に嫁いだ(たえ)の兄、元関白である近衛前久(このえさきひさ)である。


「おぉ、前久殿か。いや、かの”貧乏公方”からの手紙が届いたのよ」


 幕府の将軍、公方への畏敬など一切伺えない言葉に、前久は苦笑いを浮かべる。


「ほぉ……それはそれは。して、なんと?」


「うむ、『尾張の大うつけを討て』とのお達しよ」


「――なんと!!」


 その言葉に、前久は驚きを隠せない。

 自分は足利公方より追い出された身だ。

 本願寺がもし公方側に付いたのなら、自分はここを出なければならない。


「……して、顕如殿は如何なさるので?」


 前久の質問に、顕如はニカッと笑う。


「拙僧にとって重要なのは、この本願寺に助けを求めた者等を救い、仏敵を滅ぼす事よ。――その為に必要なのは金、金、金! そして飢えぬ程の飯よ!」


 顕如はまるで恥じる事など無いようにそう言い切った。


「それには、力無き”貧乏公方”より、今や実質的に京を支配し、拙僧等に物資や金を援助してくれる”大うつけ”の方が大分マシよ。例え我等の事を危険視していようとな。……前久殿、織田への使者として、参ってくれませぬか?」


 顕如は、利害を考え、結局は織田を選んだ。

 顕如の提案は前久にとっても良い事であった為、素直に応じる。


「えぇ、承りましょう」


「宜しくお頼み申す。」


 そう言い合って、二人は笑みを浮かべた。




ブックマーク、評価宜しくお願いします!


この作品とクロスしております、ナカヤマジョウ様の『謙信と挑む現代オタクの戦国乱世』も投稿されております。

其方もご覧いただければ幸いです。


http://ncode.syosetu.com/n6524ee/

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