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第三十六話 松永久秀の真意

前回同様勢いで書きました。

……思ったよりも文字数が多くなってしまった。

 蝋燭の明かりのみがほのかな明かりを灯す茶室に、俺の茶を点てる音のみが響く。


「……ククク」


 そんな場に、突然小さな笑い声が漏れ出した。


「ククククク……クハハハハッ!!」


 松永久秀は笑っていた。

 これ以上面白いモノなど無い、とでも言う様に。

 笑みを止める事が出来ないのか、笑った儘で俺を見据え、


「いや、いや。……拙の負けですなァ。”九十九髪茄子”やこの茶器が失われるのは、この数寄者にとっては己が命を失う以上に我慢ならぬ事。それを突くとは真、真に面白き御仁達よ! ――クククククッ」


 一頻り笑うと、ふと姿勢を正し、


「――この松永弾正少弼、この”九十九髪茄子”と頂いた茶器等に誓いまして、忠誠を捧げ、織田が天下の為、全力を尽くしましょう」


 そう言って頭を下げ、そして顔を上げて


「裏切りも華なれば、忠義に生きるも乱世の華。……天下の統一が成されるならば、茶を点て、花を愛で、数寄に生きる道もまた、面白いでしょうしなァ」


 そう言って意地悪そうに笑った。





 その後俺は茶を飲みながら、松永に聞きたかった事を聞いた。


「弾正殿、お聞きしても宜しいか?」


「ん?」


 まるで孫を目の前にした好々爺の様な表情で茶器を愛でていた松永が顔を上げる。


「何故、長慶殿等は義輝公を弑したのですかな?」


 俺の率直な質問に、「あぁ」と思い出す様に呟いてから、答えを口にした。


「世の為に御座る」


「世の……為?」


 どういうことだ?

 将軍を殺すのが世の為?


「……既にこの日ノ本、足利の物に非ず。時代は今、新たなる主を求めております。……亡き主である長慶様は何れ本来の主である朝廷に返すべきと仰せられておりました。現に、幕府は京を何度も追われ、公家(太眉)共は自己保身を優先する。……足利では、最早世に静謐を齎せぬ、と」


 朝廷ってことは天皇に返す?

 三好長慶は確かに朝廷との関係を重んじていた人物だ。

 そんな事を考えていたのか。

 ”下剋上を体現した悪人”、”最初の天下人”と言われ、後世では悪評の方が多い人物なのだが……歴史は勝者が作るから、何だか違和感がある。


「長慶殿()、と言う事は弾正殿は違うお考えをお持ちなのですか?」


 俺の言葉に、「左様」と頷く。


「朝廷は未だに力を持ちませぬ。故に、その()に天下を纏める者が必要だと。それを拙は長慶様だと思うておりました。……しかし、長慶様は身罷られてしまった。そこで、拙は上総介殿に眼を付けたのです」


 松永曰く、新興勢力であり、今川を破り、美濃を手中にした上、幕府や朝廷にも靡かぬ人物。

 それに加えて部下には優秀な者が多く、知勇に長けている軍勢である、と。

 確かになぁ……。

 朝廷や幕府から官位やらを送られようとも「いらね」と速攻で突っぱねたからなぁ……。


「三好三人衆では不可能だと?」


 ”三好三人衆”という言葉を聞いた瞬間、松永は眉を顰めた。


「……あの者等は忠義や情を軽んじております。確かに、拙とて下策奸計を用いて悪道を歩んできましたが、奴等程には堕ちてはおりませぬ」


 一緒にされたくないのか。

 三好三人衆をどんだけ嫌ってんだよ。


「……成程。では、これよりは同じ織田の下に集った同輩として、宜しくお願い致しまする」


「えぇ、共に織田の天下の為、外道悪道に塗れて参りましょう」


 いや、まるで『悪巧み仲間を見つけた』みたいな顔をするんじゃないよ。

 アンタと一緒にするなアンタと。




そろそろおおまかな登場人物をまとめた方が良いのかなぁ……。

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