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第三十四話 再会と加入

今回短め、次回、降伏してきた松永と対談します。

 三好衆を撤退させた須藤は、森可成等に連れられて、織田の本陣へと来ていた。

 須藤より遠くに座る信長の、その左右には織田家家臣一同がずらりと並んでおり、壮観の一言である。

 織田家に美濃調略前より仕えている面々は、須藤の事を知っているため、ジッと座っているが、美濃調略後――美濃や北伊勢の事――に織田軍傘下となった者達からは訝し気な、警戒する様な視線を向けられる。

 須藤の後ろでは彼に雇用された”雑賀衆”が彼と同様平伏の体勢で頭を地面につけていた。


「……須藤惣兵衛、鈴木孫一とその手下等よ。此度の援軍、真に大儀であった」


「――ははっ!」


 須藤は頭を下げた儘、信長の隣に立つ柴田の言葉に返答する。

 一応顔見知りとは言え、二国の国主である信長とその家臣筆頭でもある柴田、一浪人である須藤。

 その身分の差は歴然であり、公的な場であれば、この対応は当然である。


「……その功は大きく、褒美を取らせることを上総介様はお望みである。言うが良い」


「はっ! ――されば、某とこの者等を上総介様の旗の下に加えて頂きたく」


 柴田殿は須藤に向けて小さく頷き、信長の方を見る。

 それに頷いた信長が何かを言おうとする前に、


「――待った!!」


 と声が上がった。

 皆して声の主の方を向く。

 声の主は美濃三人衆の一人であり、竹中半兵衛の舅である安藤守就であった。

 立ち上がった安藤は、訝し気な眼で須藤等を一瞥する。


「殿、その須藤とやら、一時は殿の客人であったようですが、真に信用に能う者なのですか?」


 美濃調略後に味方となった者達には、須藤の存在は余り知られていない。

 それは須藤が名前を表に出していないからだ。

 暗に『どこかの間者となっているのではないか』という安藤の問いに、


「――安藤守就、少しその口を閉じろや」


 そう言葉に出したのは森可成だった。

 普段、公的な場所であったり、旧知では無い者の前では見せない、荒々しい口調に、安藤は眼を見開く。

 可成は信長の方を向き、「御免」と断りをいれ、立ち上がる。


須藤(コイツ)は、殿が唯一対等な物言いを許した男だ。……桶狭間、墨俣ではその策にて勝利の一端を担った。実力は申し分ねぇ。……俺は勿論、桶狭間より殿に付き従う者の中に、コイツを疑う奴はいねぇ」


 可成の言葉に、木下秀吉や佐々成政、滝川一益、前田利家等の織田の旧臣達が同意する様に頷く。

 彼等にとっては、須藤は戦友なのである。

 その知略は勿論、桶狭間にて嫡子奇妙丸をその身を挺して守り、新加納では己が失策を挽回する為に奮戦し、墨俣では短期間で砦を改築した。

 その手腕は旧臣皆が認めているのだ。


「ですが――「おけぃ」」


 可成に反論しようとした安藤が、信長の一声で口を噤む。


「三左の言う通りよ。……須藤惣兵衛、並びに”雑賀衆”よ。これよりは俺の手足となって働いてくれ」


「「「「――ははっ!!」」」」


 須藤と雑賀衆が頭を下げたのを満足気に見てから、


「残るは三好政康の守る山城木津城のみ! 一気に攻め落とすぞ!!」


 信長は家臣達に、そう号令を発した。

 上洛を果たすまで、あと一歩である。





 結果から言えば、三好政康は他の二城が落とされた事を恐れたのか、居城である山城木津城から撤退。

 これにより、信長に降伏した松永久秀と共に義輝公を弑した首謀者である三好三人衆は傀儡将軍である足利義栄と共に四国の阿波に逃げ延びた事で、信長の上洛は相成ったのである。



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