第二十九話 上洛開始
二十九話を消し、この話を二十九話とさせていただきます。
消した話を読んでいただいた皆様は分かっていると思いますが、主人公のモデルは三国志で諸葛孔明や龐統を得る前の劉備を補佐し、”伏龍鳳雛”の名を教えて陣営を去った徐庶(徐福)です。
信長(劉備)を補佐する”第三の軍師”をイメージしました。
軍略にも優れ、撃剣と呼ばれる剣術の達人でもあったとか。
まさにチートですよね。
1556年 年末
美濃を平定した信長は、すぐさま滝川一益に命じて北伊勢の平定に乗り出した。
この頃、北伊勢は神戸氏や長野氏等所謂”北勢四十八家”と称される小豪族達が互いに対立し、そして連合を繰り返していた。
北伊勢は京都へつながる東海道を要する要所であり、また信長の上洛を阻む六角氏と結んでいた神戸氏や関氏は近江制圧の際障害となる事を考え、北伊勢を制圧する事は重要な事であった。
一度は織田軍を撤退させた伊勢国人衆であったが、形勢を立て直した織田軍が攻めてくると、利がないとして、伊勢国人領主であった神戸具盛は信長の三男である三七郎を養子に迎え入れ、織田と和睦する事となったのである。
1557年 八月下旬 岐阜城 上段の間
そして伊勢調略を滝川一益に任せていた信長の元に、とある人物が訪れていた。
男の口から並べられる上辺だけの称賛に嫌気が差し、
「……些事は良い、要件を聞こうか」
上段の間に座る信長は、己の目の前に平伏する男を睨みつけた。
隙のない立ち姿と、生真面目そうな雰囲気の男だ。
将軍の弟である覚慶改め、足利義昭の家臣である明智光秀である。
「――はい。では織田上総介殿に、真の将軍の後継たる自らを擁立し、上洛を成す事を義昭様は求められています」
勿論、信長は上洛をするつもりであった。
義昭を擁立し、上洛する事は半兵衛からも言われていた事だ。
それは仕方が無いと割り切る事が出来る。
だが、信長個人としては『既に足利の世は終わってる』という考えがある。
光秀の口から発せられる義昭の言葉には、義昭の『将軍となるのを手伝え、私は次の将軍だぞ! 従え!』という意志が言外に見え隠れしている。
だからこそ不機嫌であった。
「…………義昭様を擁立して下さるのであれば、この光秀、以後は上総介殿に忠誠を尽くす所存。どうか義昭様を」
そう言って頭を下げる光秀の表情は窺い知れない。
チラリと明智の近くに座っていた半兵衛を見ると、頷いてくる。
「分かった。……義昭殿を受け入れる」
溜息をついた信長は、仕方ないという感情を隠すことも無くそう言った。
「忝く」
対して光秀は少しばかり信長を睨むと、そう言って頭を下げた。
「――信長殿、竹中半兵衛重治。参上仕りました」
「おぉ半兵衛か待ってたぜ」
光秀が訪れた数日後、上洛を前にして、その日の夜、信長は半兵衛を呼び出した。
美濃調略前までは須藤の役目であった相談役を、今は半兵衛が担当しており、何かあれば――というかほぼ毎日こうして呼び出し、情勢等の相談をしていた。
信長が浮かべる表情は、これ以上ない程の笑みだ。
「如何なさったのですか?」
「おう、面白いモンが届いてな」
そう言うと、信長はその手に持っていた書状を半兵衛へと渡す。
「何方からの書状なのですか?」
それを受け取りながら訊ねた半兵衛に、信長は笑みを浮かべた。
「――大和の梟雄、松永弾正よ」
「――っ! ……なんと」
三好三人衆と共に先代将軍を弑した松永久秀。
後世において”乱世の梟雄”と称された男からの書状であった。
驚き、慌てて書状を確認する半兵衛を見ながら、
「どうやら、良い風が吹いてきやがったらしい」
そう言って意地の悪い笑みを浮かべた。
1557年 九月中旬
岐阜城城下の空に翻る幾つもの織田木瓜と永楽通宝の軍旗。
それを目の前にして、信長は叫ぶ。
「――これより、天下に仇なし、権勢を己が儘に振り翳す不義不忠の不届き者共をこの日ノ本より駆逐する! 出陣!」
「「「「オオオオォォォォォッツ!!!!」」」」
目指すは京の都。
そこで権勢を振るう三好三人衆。
そしてその前に信長の上洛を阻むであろう近江南部を支配する六角氏。
信長の上洛戦が始まった。
史実より、十一年も早い上洛であった。
急いで書いたので、誤字脱字、ここをこうした方が良い、ここはこうじゃないの? という案やらなにやらがある方、遠慮なく、オブラートに包んで教えていただければ幸いです。
……豆腐メンタルなんです。
ブックマークもお待ちしております。
現在この作品とのクロスオーバー作品であるナカヤマジョウ様の『謙信と挑む現代オタクの戦国乱世』も投稿されております。
其方もお読みくださいませ。
自分の作品よりもヒロインがヒロインしてるんだよなぁ……。
こっちのヒロイン空気だもんなぁ……。




