第二十八話 竹中半兵衛、織田陣営にやってくる
誤字脱字があれば言ってください。
宜しくお願いします。
私、竹中半兵衛重治は織田の傘下となることを決めた翌日、信長殿と共に懐かしき稲葉山城――今は岐阜城だったか――へとやって来た。
その城の所々には織田軍の軍旗である織田木瓜の描かれた旗が翻り、あぁ美濃斎藤家は滅亡したのだな、と改めて感じる。
主家たる斎藤家は滅亡し、そしてその滅亡の口火を切り、主家を裏切った私がこうしてのこのこと五体満足で城に入城するのが、なんとも皮肉めいていた。
「――殿!!」
城へ入った私と信長殿を見つけて声を掛けてきた男達は、それはもう地獄の鬼すら逃げ出すのではないかという程の形相で駆け寄って来た。
「殿! 貴方は最早二国の主! 幼少の頃の様に無断で出掛けれては困ります!」
「全くですな。奥方様も大層心配なさっておいででしたぞ」
髭面の筋骨隆々の大男と、理知的な雰囲気の優男は、まるで幼子を叱りつける様な声音で信長殿を叱り始めた。
対して信長殿は悪気も無く「悪かったよ」と言うだけで、直ぐにこちらを振り向き、
「半兵衛、こいつ等が柴田勝家と丹羽長秀だ」
と私に向って言った。
成程、このお二方が織田の双璧と謳われ、諸国にもその名を轟かせる”鬼柴田”殿と”米五郎左”殿ですか。
信長に顔を向けていたお二人は、此方に顔を向け、
「……半兵衛?」
「半兵衛とは……前菩提城城主の竹中重治殿ですか」
と訊ねてきた。
私は頭を下げる。
「お初にお目に掛かります柴田殿、丹羽殿。竹中半兵衛重治に御座います。これよりお引き回しの程、宜しくお願いします」
「うむ、儂は柴田権六勝家。こちらこそ、宜しく頼む」
「某は丹羽五郎左衛門尉長秀、共に殿を支えてまいりましょう」
お二方とも、義龍殿の頃より続く織田と斎藤の遺恨など無いかの様であり、少々驚く。
「権六、五郎左、半兵衛の顔見せをする。これより皆を集めろ」
信長殿の言葉に、お二方は「はっ!」と応じ、何処ぞへと去っていった。
「さぁ、お前には皆期待してるんだ。美濃じゃあお前は”痩せ武士”だのと軽んじられたかもしれねぇが、俺達には知恵者が必要だからな」
それに、と信長殿は数歩前を歩きながら呟き、
「彼奴の推薦だからな」
ニヤリと笑いながらそう言った。
どうやら、その”彼奴”というのは信長殿より随分信頼されているらしい。
私は機嫌良さそうに歩く信長殿の後ろを数歩遅れて付いていった。
評定の間には、織田家家中における主要な者達が一同に揃っていた。
「おう、皆揃ってるな」
「はっ! 主要の者等は揃っておりまする」
「良し、じゃ、半兵衛、入ってきやがれ」
私は信長殿の声に従い、畏れながら上段の間――信長殿の横――に腰を下ろし、頭を下げる。
「我が名は竹中半兵衛重治。皆様、お引き回しの程、宜しくお願い致します」
私は頭を下げた儘、上目で織田家家臣達の表情を窺う。
美濃では私は家臣達に”痩せ武士”と蔑まれ、嘲笑われていた。
彼等にとっては武士とは”武勇優れる者”の事だったのだ。
剣も振るわず、ただ采配をする者を、彼等は認めなかった。
だが、織田家家臣団の表情は彼等とは違っていた。
好意的な視線。
私は思わず困惑してしまう。
「半兵衛。ここには手前を嘲笑う奴はいねぇよ。知恵者を持つ意味を、そして知恵者がいる事がどれ程軍にとって良いかを知ってるからな。それに、”新加納”で手前の率いる軍勢に俺達は見事にやられてんだ。手前の策略家ぶりは皆認めてる」
信長殿の言葉に、私は思わず頭を上げ、信長殿を見やる。
信長殿は笑っていた。
そしてその後ろにいる家臣達も。
「……という訳だ。これから宜しく頼むぜ”今孔明”」
「――はっ!! 我が才の全てを以て」
やはり、織田につくという私の判断は間違っていなかった。
信長殿であれば、天下を制する事が出来る。
私の持つ全てを、この方の――この方の作る天下の為に使おう、そう思った。




