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第二十三話 墨俣城築城と美濃調略

 1556年 七月 美濃国 墨俣 長良川上流


「よぉーし皆! 信長様が為、墨俣に一夜にして城を建て、美濃武士達を驚かしてやろうではないかぁ! ――そぉれ出陣!」


「「「「おぉーっ!!」」」」


「川並衆! 俺等の力、織田の殿様にしかと見せつけて、仕官とあいなろうや!」


「「「「了解っスよ頭ぁ!!」」」」


 馬鹿みたいに明るい秀吉に釣られて、藤吉郎配下の兵と蜂須賀小六の率いる川並衆は長良川上流か砦を城に見せ掛ける為のパーツを乗せ、船で下り始めた。

 その先頭では、藤吉郎が扇を振り、ご機嫌そうに「やぁれ進め! そぉれ進め!」と声を張り上げていた。





 その日の夜、墨俣に到着した俺達は直ぐに船から資材を運び出し、改修を始めた。

 だが、敵だとてそれを見ているだけでは無い。

 だが、それを伏兵等の策を使って防ぎながら、改修を進める。

 幸い、雨が降っているために本格的な戦は止まっている。

 今が絶好のタイミングだった。

 ま、砦の外面を大きく見せる為に外面だけを改修し、柵や堀を作ればほぼ完成と言っても良い。

 つまりは敵を欺ければ良い訳で、張りぼてでも構わないのだ。

 そんな訳で、土木が得意な力自慢等を集めて編成した藤吉郎の築城部隊は、七日程で改修を終える事になった。

 それを見て、美濃勢に動揺が走った事は当然だっただろう。

 これで織田軍は美濃攻めに重要な拠点を作ることが出来たのである。





「さて、これよりの美濃攻め、どう出るか」


 小牧城の評定の間で、信長と織田家家臣達が顔を揃え、評定を行っていた。

 墨俣に拠点を作れたのは良いものの、それからの行動に迷っていた。

 信長も困ったかの様に膝に手を当てて唸っていたが、俺の方をチラリと見、


「……須藤、何か手は?」


 と聞いてきた。

 ……うーむ。

 ”新加納の戦い”が終わり、墨俣の築城も出来たとなれば、次にあるのは……確か半兵衛と西美濃三人衆 (安藤守就、稲葉一徹、氏家卜全の三人)による稲葉山城の乗っ取りだな。

 史実においては1564年に、斎藤龍興が酒色に溺れ、一部の側近達を寵愛し、半兵衛や西美濃三人衆を政務から遠ざけていた事に起因し、半兵衛の舅である安藤守就が城を取り囲み、半兵衛が十六人程の手勢とともに僅か一日で城を落としたこのクーデターは、美濃斎藤家没落の一因であった。

 これにより、龍興の求心力が低下したのだと言う。

 なら、これを利用しない手はないだろう。


「……近頃龍興は竹中重治や先々代からの重鎮である安藤、稲葉、氏家を遠ざけております」


「竹中重治と言うと”新加納”の?」


 家臣達の中からそんな声が出てくる。


「はい。斎藤家家臣、菩提城城主に御座います。……家中ではその容貌から侮られておりますが、その知略は何れ日ノ本中に轟くかと」


 半兵衛はその容姿が婦人の様に痩せ身であった事から家臣団に侮られており、龍興の寵臣であった斎藤飛騨からは櫓の上から小便を掛けられ、嘲弄されたと言う。

 だが、織田家は先の戦いで九枚笹の軍旗によって散々に打ち負かされている。

 その才は皆が理解しているだろう。

 俺としても、信長の天下の為に、必要な人材だと思っている。

 ま、史実ではどちらかと言えば三国志の孔明同様、軍略よりも内政の手腕の方が高いらしいのだが。


「あぁ。その鬼謀策謀は先の戦いで俺達も痛感した。……他の三名も、義龍の代では重用されていた斎藤家の重臣、柱石だったな」


 信長の言葉に、俺は頷く。


「はい。……されば、安藤、稲葉、氏家の三名に織田家に付くように調略を行いましょう。……一部の臣を寵愛する龍興に対して諫言し、聞き入れられなかった事も含め、安藤等は良い思いを抱いてはおらぬでしょうし、内応を約束させますれば、美濃西部の豪族達もそれに呼応するやもしれませぬ」


 そう。

 これから俺は意図的に、本来ならば全然先の1564年に行われる”稲葉山城の乗っ取り”を安藤達にさせる。

 そして美濃勢を内側から崩す。

 今の段階では竹中半兵衛は織田勢に付くことはしないだろう。

 だが、舅である安藤から言われれば、史実通り動く可能性はある。

 幾ら主への諫言と言っていても、恨みつらみが無い訳はないだろう。

 信長は暫く考え込んでいたが、直ぐに顔を上げ、


「――須藤の策で行く! 安藤、稲葉、氏家及び西美濃各地の豪族への書状の準備をせよ! これより西美濃調略を開始する」


「「「「――はっ!」」」」






 美濃国 某所



「……半兵衛、お主は悔しくはないのか!? 斎藤飛騨には嘲弄され、龍興様には遠ざけられる! これまで斎藤家に尽くしてきた我等を、どれ程愚弄すれば気が済むのか!」


 西美濃三人衆の一人である安藤守就が、まるで婦女の様な容貌の男――後世では”今孔明”と呼ばれる竹中半兵衛重治――へと声を荒げていた。

 その手には須藤が書いた、織田より届けられた書状が握られている。


「その通りだ守就殿! 我等は利政様 (斎藤道三の事)の代より忠義を尽くして仕えてきた! それに対するこの仕打ち、我慢ならぬ!」


「かくなる上は織田に内応する。それしかありえぬ!」


 その隣に座る、同じ西美濃三人衆の稲葉一鉄と氏家卜全もそれに同意する。

 だが、半兵衛は眼を瞑りジッと聞き入っていただけだった。


「――半兵衛!!」


「……確かに、龍興様の近頃の所業は眼に余ります。……少し、戒める必要がありましょう」


 守就の怒声に、漸く眼を開けた半兵衛は、静かに口を開いた。


「おぉ、半兵衛の智謀さえあれば、此方のモノ「――ですが」 ――半兵衛?」


 言葉の途中で遮られた守就が訝し気に半兵衛を見る。

 半兵衛の眼には、彼等には見えていない()――斎藤家の滅亡――が見えていた。

 だが、それであっても、半兵衛は主家を裏切ることは出来なかった。


「私は織田に降る訳ではありません。……ただ浅慮愚行を繰り返す主君に、行動で以って訓戒(くんかい) (強く警告する事、或いは断固たる叱責)するのみ。……そしてそれが成されれば潔く、弟重矩(しげのり)に家督を譲り、草木に紛れて隠遁する所存」


 その顔は、まるで波風の立たない水面の様に何の感情も浮かんでいない。


「半兵衛! お前はっ――」


 抗議しようとする舅を手で遮り、己が下した決断を口にする。


「守就殿、軍勢を率いて稲葉山城を包囲してください。……稲葉山城の奪取は、私が行いましょう」


 それだけ言って、半兵衛は静かにその場を去っていった。



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