第二十一話 悩みと決心と
本日二話目。
……パラレル世界なので細かいことは無し! で宜しくお願いします。
「手前、何をずっと悩んでんだ?」
信長の言葉に、俺は内心驚いた。
信長の言う通り、俺は悩んでいる。
それは桶狭間の時から頭の片隅に常にチラついている。
……いや、『この世界に来た時から』、ずっと考えていた事だ。
「……良くお分かりで」
「俺も何百何千という命を預かる武家が頭領よ。それ位察せねぇとな」
驚く俺にそう言って笑う信長。
だが、信長に言っても良いのだろうか。
俺の悩みは『これ以上この世界の歴史に関わって良いのかどうか』というモノだ。
ただでさえ史実と違う流れを歩むこの世界で、『俺』という本来の歴史に存在しない者が関わって良いのか、それがずっと頭の中に渦巻いていた。
「……信長殿、戯言と思ってお聞き下さい。……某、幼い頃に邯鄲の夢を見、この世の流れ……先の世がどう移ろうのかを知りました」
「……ほぉ? 邯鄲の夢を?」
邯鄲の夢は邯鄲の枕とも呼ばれている中国の故事の一つだ。
中国がまだ趙の時代、盧生という若者が、都である邯鄲に赴き、そこで呂翁と名乗る道士と出会い、自らの身の不平を語った。
すると呂翁は夢が叶うと言う枕を渡し、盧生はそれを使ってみると、みるみる出世し、嫁を得、時に冤罪で牢獄へと入り、名声を求めた事を後悔し自殺しようとするも処罰を免れ、冤罪が晴らされた後は栄華を極め、終には国王にまで至る。そして子や孫に囲まれ、人々に惜しまれながら眠るように死んだ。
しかし、眼が覚めてみれば枕を使ってから左程経っておらず、全ては夢であった、というモノだ。
所詮人の栄枯盛衰は夢の如く儚いモノだ、という意味である。
ここでは己のこれからの人生を体験した、という意味で使っている。
……まぁ細かくは違うんだが。
自分の中でももやもやしていてはっきりとは伝えられない。
「はい。……ですが、そこに某はおらぬのです。某は某のいない世の移ろいを知っております。……某は夢の通りに表舞台から姿を消し、世の流れに身を任せるが良いか、それとも夢は夢だと割り切って生きるか、それを悩んでおりました」
「…………」
俺の悩みを聞いた信長は、噛み締める様に眼を瞑り何かを思案する。
そして帰って来たのは、
「――手前、頭は切れるってのに馬鹿なんだなぁ」
そんな言葉だった。
「……馬鹿とは――」
思わず言い返しそうになるのを、呆れた様子の信長が遮り、
「いや、馬鹿だろ? 何を下らねぇ事気にしてやがる。……夢は夢、所詮は夢よ。手前も俺も、この現世で生きてるだろうが。……それに、男なら邯鄲の夢を生かして天下を取るってくれぇの気概を持てっての」
そう言うと信長は俺の眼を再度見て、
「手前のこれまでの策が、邯鄲の夢で知りえたモノだろうが、それを実行するにはそれを実行するだけの力がいる。……手前は十分有能だよ。少なくとも、俺は手前の才を買ってる」
そう言ってくれる。
……嬉しいモンだな、認められるってのは。
俺自身としてはズルだと考えているし、それにそれでも半兵衛には勝てなかったのだ。
でも、それでも俺を買ってくれる信長の為ならば、ズルだろうと使ってみようと思える。
自分の武が、策が、何処まで通じるのかも知ってみたいと思う。
そんな思いにさせるのも、信長のカリスマ性のなせるワザなんだろうなぁ……。
……なら、認めてくれた信長の為、史実を思い切り外れてみようじゃないか。
史実では成せなかった『織田信長の天下統一』を。
そんな事を決心していた俺を見て、信長は話を仕切り直す様に姿勢を正し、
「須藤。……手前に話したい事があるんだが、良いか?」
「……はっ!」
俺も信長に倣い、姿勢を正しながら答えるが、信長は頭を掻きながら、
「……その言葉遣い、いい加減止めてくれ。俺は勝手だが手前を友だと思ってる。ここからは出会った時みてぇに、主と客将じゃなくて、ただの織田三郎信長と、須藤直也で話そうや」
そう言ってくれた。
……マジでか。
あの信長に溜口っすか。
いや、まぁ心の中では信長って呼び捨てしてるし、違和感は無いんだけど……いいのかなぁ?
……いや、本人が良いって言ってるから良いのか。
「……わかった。で? 話ってのはなんなんだ?」
俺の言葉遣いに満足したのか、うんうんと満足そうに頷いてから、
「須藤直也。……客将としてじゃなくて、俺の直臣としてその才、使っちゃくれねぇか?」
そう言った。
その表情は、今までのどの時よりも真剣に見えた。
……え? 主人公がチョロイ?
チョロくたって良いじゃない。




