幕間 織田家のバトルジャンキー達
時系列的には桶狭間が終わって少し位。
尾張国 清洲城 城内
今川・織田による相互不可侵が結ばれた数日後、俺は清洲城内を散策していた。
すると、どこかからか金属の打ち合う音が聞こえてきた。
俺が其方の方へ向かうと、
「おー、須藤の旦那ー!」
「……勝三?」
そこにいたのは槍を担ぎ、汗を掻いている森勝三だった。
その近くには同じく上半身素っ裸の柴田殿、三左殿、滝川殿や馬廻衆の佐々成政殿等がいた。
勝三は俺を見て笑みを浮かべると、駆け寄ってきた。
「……何してたんだ?」
「おう! この前の今川との戦で留守居役だった柴田の小父貴がさ、身体が鈍るって言い始めてよー。それで久しぶりに稽古してもらえる事になったんだ! で、戦でもの足りなかった小父貴達も混ざって皆で仕合ってたんだ!」
……マジでかー。
あれで足りないとか流石戦国武将共。
俺としては暫く戦は勘弁なんだけど。
そんな事を考えていたら、目の前で勝三がうずうずと言った様子で、
「なぁ旦那、俺と仕合ってくれ!」
……はい?
「一度でいいから旦那と本気で仕合いたかったんだ!」
勝三にドナドナされた俺は、いつの間にやら後の世にも名を轟かせる戦国武将達の目の前で、勝三との仕合いをすることになった。
勝三の手には愛用の槍、俺の手にはいつもの刀が鞘に納められ、対峙していた。
興奮冷めやらぬといった様子で今にも飛び掛かってきそうな勝三。
……まるで蛇に睨まれた蛙か、獅子に唐突に出会ってしまった兎の心境だ。
眼がギラついてて怖いんだって。
「――では、始め!」
「じゃ、行くぜ――」
ぐっと力を溜めていた勝三が、審判である丹羽殿の開始の合図とほぼ同時に突進してきた。
「――っ!」
それを俺は鞘から居合の様に抜いた剣でそれをいなす。
――重っ!?
子供の癖に馬鹿みたいな腕力だ。
流石”鬼武蔵”、子供の頃から無茶苦茶だ。
「やるな旦那! ――じゃ、次行くぜ!」
攻撃をする前に声を出すのはアホのすることだと思うのだが、その攻撃は鋭く、速く、重い。
俺は攻撃を刀でいなし、防御するので手一杯だ。
そもそも、俺が師匠から習ったのは主に『自分の身を守る為の剣技』で防御主体の戦い方であるし、策自体も基本的には鉄砲任せの火力と圧倒的兵力による物量戦法が良いと思っている。
個人的武勇は二の次なのだ……と自分に言い訳をしておく。
俺が反撃しないのを良いことに、勝三は更に激しい連続の突きを繰り出してくる。
「――そらァ! おらぁ! どうだっ! そいそいそいそいっ!」
「――っ! ――っと! ――くっ!?」
だが、いくら鋭く、速く、重くとも、その攻撃の軌道さえ読めてしまえば避け、防ぐ事は難しい事ではない。
腕力や技量に関しては申し分ない――それどころか恐らく俺以上だ――が、攻撃は鋭く、速くとも経験の浅さからか直線的だ。
これなら――!
「――っ!!」
勝三が槍を繰り出した一瞬の隙をついて、槍に絡める様にして勝三の勢いを利用して刀を跳ね上げる。
「うおっ!?」
態勢を崩した勝三の喉元に刃を突きつける。
「――そこまで!」
丹羽殿の声が響く。
……ふぅ、どうにか勝てたか。
流石に十歳に負けるのは大人として情けないし、良かった良かった。
俺は刃を鞘に納め、息を吐き、勝三を立ち上がらせる。
そこに、三左殿がやってきて――
「――この未熟者め!」
勝三の頭に拳骨を落とした。
「痛って~! んだよ父上~!」
「手前の攻撃は分かりやす過ぎるのだ! 少しは陽動を混ぜんか!」
三左殿に叱られている勝三を見ていると、柴田殿と丹羽殿が此方に近寄ってきて、
「中々にやるな」
「えぇ、お見事でした」
そう声を掛けてくれる。
いや、褒められるのは嬉しいけど、アンタ等俺以上に武闘派じゃん。
「いや、隙を突くので手一杯でした」
俺がそう言うが、柴田殿は首を横に振り、
「隙を突くもそれなりの手練れでなければ出来ぬこと。勝三はそれを察知するに長ける獣故、それを成すは思っておるより難しい。……では、須藤殿、儂と仕合おうではないか」
そう言って手に持った刀を翳し、俺にニヤリと笑いかけてきた。
その笑みは、完全に獲物を見定めた獣のモノだった。
……あ、俺、死んだ。
その後、俺は三左殿、柴田殿、丹羽殿にボッコボコにされた。
だから、織田重鎮の化け物相手は無理だって。
俺、一応頭脳労働の方が得意――という体――なんだから。
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