第百九十五話 天海捜索
南光坊天海こと明智光秀がいたのは、三河国内にあるとある寺だった。
俺と景亮は顔を見合わせて頷き合うと、意を決して寺内に踏み込んだ。
俺は腰に差した刀を抜いて構え、景亮も武器である刺叉みたいな長物を握る。
「……じゃ、いくぜ景亮。……なるべく守ってやるが、ある程度は自分で守ってくれよ」
「そ、そりゃ勿論! 俺だって伊達に生き延びてきたわけではないですから!」
若干緊張気味の景亮に、俺は自信あり気に笑いかけてやる。
とはいえ、守っている兵や僧兵程度ならばどうにでもなるのだが、明智光秀相手にどうなるかはわからない。
「――行くぞ!!」
「――はいっ!!」
俺を先頭に、天海を見つける為に敷地内を慎重に歩いていく。
だが、奥から数人質素な衣服を纏った男達が出てきた。
「――くそっ! もう織田の追手が!」
「天海殿にお伝えしなければ!!」
兵士達が槍や刀等の得物を構えて斬り掛かってくるが、
「――っと!! 逃すか――よっ!!」
景亮に当たらない様に受け流し、其の儘斬り付け、天海の元に行こうとした兵士を後ろから斬り付ける。
「――ぐぉっ!?」
「――ぎゃあ!!」
悲鳴と共に血飛沫が舞い、顔や着物に飛ぶが、それを気にしている余裕はない。
そして、奥に進んで行くと、今度は僧兵達が槍や薙刀等を手に持ち襲い掛かってくるようになった。
「――ったく。敵が多くて嫌になるぜ!!」
思わず愚痴ってしまうが、刀を握り直し、斬り掛かる。
「――おぉっ!!」
「くおっ!?」
僧兵の一人が景亮に斬り掛かるが、景亮は何とかそれを受け止める。
とはいえ、景亮は戦闘行為に慣れていないようなので、此の儘放置すれば景亮が危ない。
「ちょっと待ってろよ――っと!!」
今戦っている僧兵の体勢を崩し、景亮と戦っている僧兵を景亮から引きはがし、至近距離から心臓部分に刀を突き刺す。
「――ぐぉっ!!」
突き刺した男の身体を蹴り飛ばし、刀についた血を着物の袖で拭ってから、先程体勢を崩した僧兵を切り殺す。
周囲に敵兵はいなくなった為、俺は一度溜息を吐いてから景亮に話しかける。
「……大丈夫か景亮?」
「はーっ……すみません足手まといで……」
流石に戦場には何度か立っているので、この程度は慣れている様で安心だ。
「その調子なら大丈夫そうだな。……ある程度片付いただろうし、捜索を続けるぞ」
「はい。もう少し奥に行ってみましょう」
俺と景亮はどんどん寺の敷地を奥に奥にと進んで行く。
再び数人の僧兵が出てきたので、再び景亮と担当を分けて戦い始める。
景亮には一人を抑え込んでおいて貰い、その間に俺がそれ以外の兵士達を倒すという寸法だ。
景亮が持っているのは非殺傷武器なので、最も合理的な戦い方はそれになる。
兎に角、俺が僧兵や兵士達を倒す間、景亮には耐えて貰うしかない。
俺はなるべく視界の端に景亮がいる様に立ち回りながら、戦い始めた。
「――これで最期!!」
俺が戦っていた最後の一人を斬り殺し、景亮の方を見ると、景亮は二つに割れている得物の先端を上手く使って、敵の動きを抑え込んでいた。
俺は急いで景亮が戦っていた兵士へ近付き、景亮が抑え込んでいる兵士の心臓部に刃を突き立てて殺す。
そして声を交わさず視線だけで意思疎通し、二人揃って寺の本堂に入ると、そこに――
「……やはり見つかってしまいましたか」
俺達の目標。
南光坊天海――明智光秀が傍らに刀を置いて、静かに座っていた。




